2 / 29
キスマークの上書き①
しおりを挟む
株式会社アクシオンは、外資系IT・Webメガベンチャー系の会社だ。
15階は福利厚生フロアになっていて、オメガ用のリラックスラウンジや、カフェが設置されている。
お見合い勧告の面接のあと、すぐにオフィスに戻る気になれずに、カフェに入った。
俺はぼんやりとしたまま、コーヒーを注文して席についた。
カフェからラウンジが見えた。
ちょうど数名のオメガたちが、それぞれリラックスしているのが見えた。
あそこに桐生部長が来たのを見たことがある。
オメガたちがはしゃいで集まっていって、まるで奴隷を侍らせる帝王のようだった。
もし今、桐生部長があそこに現れたら……?
なぜか心臓が痛いほど打ち付けてきた。
「あっ、牧田さん」
営業アシスタントの瀬名だ。
急に声をかけられて、危うくコーヒーカップを落とすところだった。
慌てて持ち直したが、大きく揺れたカップから零れたコーヒーが胸にかかってしまった。
「わっ!」
「だ、大丈夫ですか? 熱くないですか?」
「ちょっと熱かったけど、大丈夫」
瀬名が急いでおしぼりで拭いてくれたが、ぼやけるばかりであまりきれいにはならない。
この後はジャケットを着て誤魔化すしかないな。
「すいません、僕が急に声かけたから」
しょんぼりしてしまった。話題を変えないと。
「瀬名くん、休憩にきたの?」
「そうなんですよ。ちょっと神経が疲れてしまって。ここ、いいですか?」
「どうぞ」
瀬名くんはカフェラテを持って、俺の前に座った。
茶髪で柔らかい雰囲気の可愛いオメガ。
こんな子なら、すぐに結婚相手が見つかるんだろう。
「桐生部長が牧田さんを探してましたよ。スケジュールを見たら、吉田課長と面談って書いてあったから……もしかして……お見合いの話だったんですか?」
この子は社交的で、社内事情にも詳しい。
やっぱり分かっちゃうんだな。
「そうなんだよ」
「やっぱり! 牧田さん、もうすぐ30なのに相手いなさそうだし、お見合い面談になると思ってましたよ! で、どんな人なんですか?」
なんだか楽しそうだ。
俺の存在が彼の娯楽になっているような気がする。
「秘密にしろって言われたから、年収は言えないけど、離婚歴ありの人だよ。前の結婚でいろいろ懲りたんじゃないかな。年齢は問わないけど、真面目な人をって希望みたい」
「やっぱり、牧田さんって真面目だけが取り柄って感じだから、そういう人が合いそうですよね。僕だったら退屈で死にそうだけど」
彼は悪気はないけど、一言多いんだよね。
「そんなつまんない人生送る前に、ちょっと楽しんだらどうですか? 牧田さんって、どういう人がタイプ?」
瀬名はスマホを取り出してタップし始めた。
いきなりタイプを聞かれても……前は何も答えられなかったが、今はなぜか桐生部長の顔が浮かんでしまう。
俺は慌てて首を振った。
「あ、えーと、優しい人、かな?」
「それって、なにも答えてないのと一緒ですよ。そうだ、タイプがないんですね。そういう人、ときどきいます。付き合った人がタイプになっちゃう」
瀬名はにこにこしながらスマホを弄っていた。
「仕事できるのに、恋愛ってなるとうといんですよね。ここはやっぱり僕が……」
「なんか余計な事、しようとしてないよね?」
「大丈夫、任せてくださって」
瀬名はスマホを操作しながら、呟いた。
「でも、その歳でバツイチの家政婦になるって、やっぱりキツいですよねぇ。僕なら意地でももっといい男捕まえますけど。まあ、牧田さんはもう『選べる立場』じゃないですしね!」
いやぁ、かわいい顔して、なかなかいいパンチを出してくるじゃないか。
たしかに、選び放題の彼からしたら、俺の気持ちなんて分からないだろう。
「じゃあそろそろ戻りましょうか。部長がイライラし出すと怖いんで」
「桐生部長が? イライラすることなんてあったっけ」
「見たこと無いんですか? あんなに一緒にいるのに? あっ、でもそういえば、牧田さんといるときはあんまりイライラしてないかな……」
15階は福利厚生フロアになっていて、オメガ用のリラックスラウンジや、カフェが設置されている。
お見合い勧告の面接のあと、すぐにオフィスに戻る気になれずに、カフェに入った。
俺はぼんやりとしたまま、コーヒーを注文して席についた。
カフェからラウンジが見えた。
ちょうど数名のオメガたちが、それぞれリラックスしているのが見えた。
あそこに桐生部長が来たのを見たことがある。
オメガたちがはしゃいで集まっていって、まるで奴隷を侍らせる帝王のようだった。
もし今、桐生部長があそこに現れたら……?
なぜか心臓が痛いほど打ち付けてきた。
「あっ、牧田さん」
営業アシスタントの瀬名だ。
急に声をかけられて、危うくコーヒーカップを落とすところだった。
慌てて持ち直したが、大きく揺れたカップから零れたコーヒーが胸にかかってしまった。
「わっ!」
「だ、大丈夫ですか? 熱くないですか?」
「ちょっと熱かったけど、大丈夫」
瀬名が急いでおしぼりで拭いてくれたが、ぼやけるばかりであまりきれいにはならない。
この後はジャケットを着て誤魔化すしかないな。
「すいません、僕が急に声かけたから」
しょんぼりしてしまった。話題を変えないと。
「瀬名くん、休憩にきたの?」
「そうなんですよ。ちょっと神経が疲れてしまって。ここ、いいですか?」
「どうぞ」
瀬名くんはカフェラテを持って、俺の前に座った。
茶髪で柔らかい雰囲気の可愛いオメガ。
こんな子なら、すぐに結婚相手が見つかるんだろう。
「桐生部長が牧田さんを探してましたよ。スケジュールを見たら、吉田課長と面談って書いてあったから……もしかして……お見合いの話だったんですか?」
この子は社交的で、社内事情にも詳しい。
やっぱり分かっちゃうんだな。
「そうなんだよ」
「やっぱり! 牧田さん、もうすぐ30なのに相手いなさそうだし、お見合い面談になると思ってましたよ! で、どんな人なんですか?」
なんだか楽しそうだ。
俺の存在が彼の娯楽になっているような気がする。
「秘密にしろって言われたから、年収は言えないけど、離婚歴ありの人だよ。前の結婚でいろいろ懲りたんじゃないかな。年齢は問わないけど、真面目な人をって希望みたい」
「やっぱり、牧田さんって真面目だけが取り柄って感じだから、そういう人が合いそうですよね。僕だったら退屈で死にそうだけど」
彼は悪気はないけど、一言多いんだよね。
「そんなつまんない人生送る前に、ちょっと楽しんだらどうですか? 牧田さんって、どういう人がタイプ?」
瀬名はスマホを取り出してタップし始めた。
いきなりタイプを聞かれても……前は何も答えられなかったが、今はなぜか桐生部長の顔が浮かんでしまう。
俺は慌てて首を振った。
「あ、えーと、優しい人、かな?」
「それって、なにも答えてないのと一緒ですよ。そうだ、タイプがないんですね。そういう人、ときどきいます。付き合った人がタイプになっちゃう」
瀬名はにこにこしながらスマホを弄っていた。
「仕事できるのに、恋愛ってなるとうといんですよね。ここはやっぱり僕が……」
「なんか余計な事、しようとしてないよね?」
「大丈夫、任せてくださって」
瀬名はスマホを操作しながら、呟いた。
「でも、その歳でバツイチの家政婦になるって、やっぱりキツいですよねぇ。僕なら意地でももっといい男捕まえますけど。まあ、牧田さんはもう『選べる立場』じゃないですしね!」
いやぁ、かわいい顔して、なかなかいいパンチを出してくるじゃないか。
たしかに、選び放題の彼からしたら、俺の気持ちなんて分からないだろう。
「じゃあそろそろ戻りましょうか。部長がイライラし出すと怖いんで」
「桐生部長が? イライラすることなんてあったっけ」
「見たこと無いんですか? あんなに一緒にいるのに? あっ、でもそういえば、牧田さんといるときはあんまりイライラしてないかな……」
242
あなたにおすすめの小説
新年に余り物でおせちを作ったら、冷酷と噂の騎士団長様に「運命の番」だと求婚されました
水凪しおん
BL
料理人だった俺が転生したのは、男性オメガというだけで家族に虐げられる不遇の青年カイ。
新年くらいはと前世の記憶を頼りに作ったのは、この世界にはない『おせち料理』だった。
それを偶然口にしたのは、氷のように冷酷と噂される最強の騎士団長リアム。
「お前は俺の運命の番だ」
彼の屋敷に保護され、俺の作る料理が彼の心を溶かしていく。
不器用で、だけどまっすぐな愛情を注いでくれる彼と、美味しい料理で紡ぐ、甘くて温かい異世界スローライフ。
あなたと過ごせた日々は幸せでした
蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。
冷遇妃マリアベルの監視報告書
Mag_Mel
ファンタジー
シルフィード王国に敗戦国ソラリから献上されたのは、"太陽の姫"と讃えられた妹ではなく、悪女と噂される姉、マリアベル。
第一王子の四番目の妃として迎えられた彼女は、王宮の片隅に追いやられ、嘲笑と陰湿な仕打ちに晒され続けていた。
そんな折、「王家の影」は第三王子セドリックよりマリアベルの監視業務を命じられる。年若い影が記す報告書には、ただ静かに耐え続け、死を待つかのように振舞うひとりの女の姿があった。
王位継承争いと策謀が渦巻く王宮で、冷遇妃の運命は思わぬ方向へと狂い始める――。
(小説家になろう様にも投稿しています)
【完結】英雄様、婚約破棄なさるなら我々もこれにて失礼いたします。
紺
ファンタジー
「婚約者であるニーナと誓いの破棄を望みます。あの女は何もせずのうのうと暮らしていた役立たずだ」
実力主義者のホリックは魔王討伐戦を終結させた褒美として国王に直談判する。どうやら戦争中も優雅に暮らしていたニーナを嫌っており、しかも戦地で出会った聖女との結婚を望んでいた。英雄となった自分に酔いしれる彼の元に、それまで苦楽を共にした仲間たちが寄ってきて……
「「「ならば我々も失礼させてもらいましょう」」」
信頼していた部下たちは唐突にホリックの元を去っていった。
微ざまぁあり。
いい加減観念して結婚してください
彩根梨愛
BL
平凡なオメガが成り行きで決まった婚約解消予定のアルファに結婚を迫られる話
元々ショートショートでしたが、続編を書きましたので短編になりました。
2025/05/05時点でBL18位ありがとうございます。
作者自身驚いていますが、お楽しみ頂き光栄です。
流れる星、どうかお願い
ハル
BL
羽水 結弦(うすい ゆずる)
オメガで高校中退の彼は国内の財閥の一つ、羽水本家の次男、羽水要と番になって約8年
高層マンションに住み、気兼ねなくスーパーで買い物をして好きな料理を食べられる。同じ性の人からすれば恵まれた生活をしている彼
そんな彼が夜、空を眺めて流れ星に祈る願いはただ一つ
”要が幸せになりますように”
オメガバースの世界を舞台にしたアルファ×オメガ
王道な関係の二人が織りなすラブストーリーをお楽しみに!
一応、更新していきますが、修正が入ることは多いので
ちょっと読みづらくなったら申し訳ないですが
お付き合いください!
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる