【完結】29歳で「売れ残り」とお見合い勧告されましたが、裏では最強のアルファ部長が「運命だ」と逃がしてくれません

Marine

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 俺は瀬名と一緒にエレベーターに乗り、38階のエンタープライズ事業部のフロアに入った。
 自動ドアが開くと、一番奥のデスクに桐生部長が座っていた。

「ただいま……戻りました」

 恐る恐る声をかけると、桐生部長は顔を上げた。
 険しい眉がびくりと動く。

「なんだ、その染みは」

 桐生部長の視線が俺の胸を貫いている。

「コーヒーです。こ、こぼしてしまって」
「……汚れたな。来い」
「えっ」

 急に歩き出した桐生部長の後を追っていくと、役員用のロッカールームに連れて来られてしまった。

「予備のシャツがあるからここで着替えろ」
「え、そんな」
「この時間ならだれもいない」

 彼の右手が伸びて来て、片手でシャツの上のボタンが外されてしまった。
 手慣れた感じに、昨日のことを思い出してしまって……じんわりと顔が熱くなった。

「わかりました、自分でやりますから」
「駄目だ」

――な、なんで……?

 そして、それを拒否できない俺も何故なんだろう。
 彼がゆっくりボタンを外していく。

「下まで濡れてるじゃないか」

 下着まで脱がされて、素肌が彼の目に晒された。
 恥ずかしさで唇が震える。
 俺の胸には彼がつけた、たくさんの所有印が、色濃く残っていた。
 
「肌が少し赤くなっているな」

 彼はコーヒーが染みて熱を持った肌に顔を近づけて……そこを冷やすように舐めた。
 まるで「熱くないか?」と問いかけているように。

「……っ」

 ちり、とした痛みが、なぜか蕩けるように甘い感触に覆われていく。
 彼の視線は、赤くなった肌から、その横に残る紫色の痕へと滑っていった。
 自分の付けた所有印を見つめて――その唇が、古いキスマークの痕を上書きするように吸い付いた。

「こっ、こんなところで……」
「なら、そんな顔をするな」

 彼は俺の首筋に額を押し当てて、熱い吐息を吐き出した。

「俺を狂わせているのは、お前なんだよ」

 甘く掠れた声が、ねっとりと耳に絡む。
 なんで――? 発情暴走は収まったはずなのに。
 もしかして、まだ影響が残っているのか?

「は、発情はもう……」
「そんなものは関係ない」

 肌を強く吸われて、噛み締めた歯の間から、声が漏れてしまう。

「……んっ」
「俺が欲しいのは、お前だ」

 唇が触れ合う距離で言われて――あ、キスされる……と思ったのに。
 その唇は触れずに離れていった。

「止めておこう……歯止めが利かなくなる」

 大好物のジュースを取り上げられた子供みたいに、喉がごくっと鳴った。
 彼は荒くなった息を整えるように一度目を伏せると、自分のロッカーから真っ白なシャツを取り出した。

「着ろ」
「あ……はい」

 ふわりと肩にかけられたシャツはかなり大きかった。
 特に肩幅や胸板の厚みが違うし、袖だって長すぎる。
 でも、彼の香水と体温の香りに包まれて、何も言えなくなってしまった。

「……ブカブカだな。だが、その方がいい」 

 彼は満足そうに袖をつまんだ。

「え?」
「他の男の匂いがつかないように、俺の匂いで包んでおく必要がある」
「……匂いなんて、コーヒーの匂いしかしませんよ?」
「お前にはわからないだろうな」

 一緒にフロアに戻った瞬間、瀬名は目を丸くしていた。

「あっ、桐生部長のシャツを借りたんですね! さすがに大きいな。彼シャツみたいですよ」

 ある意味、彼シャツなんだけどな。
 そんなこと、瀬名に言ったらどうなるだろう。
 俺は小さくため息をついて、机の中に押し込んだ、あの黒いクリアファイルのことを思った。
 佐藤(35)にも、年収1200万円にも、まったく興味はない。
 しかし、これを受けてつがいをつくらないと、また暴走して……桐生部長に迷惑をかけてしまう。
 
 俺は、ちらりとデスクに座っている桐生部長を見た。
 尊敬する上司。このエンタープライズ事業本部の統括部長であり、営業部長も兼任している。
 彼の営業アシスタントができるのは、とても光栄なことだ。
 できれば、彼がいらないというまで、この仕事をしていたい。

(お見合い……か)

 そのとき社内チャットがピン、と鳴った。
 送信者は桐生部長だ。

《kiryuu:夜、飯に行かないか?》

 俺は当たりを見回すと、返信欄に『了解です』と打ち込んで、慌ててチャットを閉じた。

 社内チャットに私的なメッセージを送って、もし履歴を見られたらどうするんだろう。
 慎重な桐生部長なのに、らしくない。
 それか、見られてもいいって思ってるのかな。

 俺はもう一度、こっそりそのメッセージを開いてみた。
 なぜか、顔がじんわりと熱くなった。
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