29 / 29
②
しおりを挟む
「その……瞳」
俺が手を伸ばすと、彼は愛おしそうに手の甲に口づけた。
「いやっ、そうじゃなくて! 晃さんの目が金色なんですけど」
「ああ、共鳴(レゾナンス)だ。運命のつがいにしか起こらない」
「えっ?」
「こうやって触れていると、ほら、お前の目も」
彼が俺を抱きかかえて、ラウンジの鏡を指した。
そこに映っているのは、金色の目をした自分の姿だった。
「……うそ」
「残業中にお前が発情したとき、あんなに言っただろう?」
そういえば「運命だ」とか「美しい」とか言っていたような気はするが……。
「ちょっと記憶が飛んでいて……」
「なにっ! じゃあ覚えていないのか?」
「……す、すいません。でも、発情暴走してたから……」
「あれは発情暴走じゃない」
桐生部長は面白そうに唇の端を上げた。
「そんな勘違いをしていたわけだな……どうも様子がおかしいと思っていた。発情暴走のような事故は一万人に一人と言われている。しかも、40代から50代の未番のおめがが一番多い」
「じゃ……俺のは」
「単に抑制剤が効かなくなってきたのと……近くに運命のつがいがいたからかな」
まさか、あんなに悩んだのに、根本からかんちがいだったのか。
あんな絶妙なタイミングで発情暴走の話なんてするから! いや、知識のない俺が一番悪いんだが。
「だって……目の色が変わったじゃないですか」
「混濁(コンタミ)と間違えていたのか。あれは充血したような赤黒い濁りだ。共鳴のほうは澄んでいるだろう」
「う……う」
何も言い返せない。
思い返せば、確かに産業医は『瞳の色が変質して混濁』と言っていた気がするし、ネットにもそう書かれていた。
彼の瞳の色は濁っていなかったから、疑問を持てば分かりそうなものだ。
「正しい知識が不足しているのは問題だな。研修に追加しておこうか」
彼は俺をぎゅっと抱きしめた。
「運命のつがいの共鳴色を、間近で見せることができるわけだしな」
「そんなの……恥ずかしすぎます」
ラウンジで抱きしめられるのに困って抵抗したが、がっちりと捕まえられていて、脱出は難しかった。
でも、さきほど彼が追い払ったから、見物人は誰もいない。
俺は諦めて力を抜いた。
「ところで、あの最初の夜のことを覚えていないと言ったな」
彼の笑みに凄みが増して、なんだか怖い。
「仕方が無いからもう一度言うぞ。
ずっと前に一度、お前のフェロモンを偶然嗅いだことがあった。
その時から、お前をつがいにすると心に決めていた。
今日は突発的な事故で、こうして抱いてしまったが、共鳴によって運命のつがいだということが分かった。
これからはお前を離さない。
俺の……つがいになってほしい」
彼の瞳には、前のことを懐かしく思い出すような、優しい光が宿っていた。
それは一週間前より、ずっと……いったい、いつから彼は、俺のことを……。
その気持ちに応えられるのは、俺だけなんだ。
「はい」
小さく答えると、彼が俺の顎を引き寄せた。
「会社のラウンジでキスすると……コンプライアンス違反ですよ……」
「あとで始末書を書いておく」
二人の唇が、ふわりと溶け合った。
俺が手を伸ばすと、彼は愛おしそうに手の甲に口づけた。
「いやっ、そうじゃなくて! 晃さんの目が金色なんですけど」
「ああ、共鳴(レゾナンス)だ。運命のつがいにしか起こらない」
「えっ?」
「こうやって触れていると、ほら、お前の目も」
彼が俺を抱きかかえて、ラウンジの鏡を指した。
そこに映っているのは、金色の目をした自分の姿だった。
「……うそ」
「残業中にお前が発情したとき、あんなに言っただろう?」
そういえば「運命だ」とか「美しい」とか言っていたような気はするが……。
「ちょっと記憶が飛んでいて……」
「なにっ! じゃあ覚えていないのか?」
「……す、すいません。でも、発情暴走してたから……」
「あれは発情暴走じゃない」
桐生部長は面白そうに唇の端を上げた。
「そんな勘違いをしていたわけだな……どうも様子がおかしいと思っていた。発情暴走のような事故は一万人に一人と言われている。しかも、40代から50代の未番のおめがが一番多い」
「じゃ……俺のは」
「単に抑制剤が効かなくなってきたのと……近くに運命のつがいがいたからかな」
まさか、あんなに悩んだのに、根本からかんちがいだったのか。
あんな絶妙なタイミングで発情暴走の話なんてするから! いや、知識のない俺が一番悪いんだが。
「だって……目の色が変わったじゃないですか」
「混濁(コンタミ)と間違えていたのか。あれは充血したような赤黒い濁りだ。共鳴のほうは澄んでいるだろう」
「う……う」
何も言い返せない。
思い返せば、確かに産業医は『瞳の色が変質して混濁』と言っていた気がするし、ネットにもそう書かれていた。
彼の瞳の色は濁っていなかったから、疑問を持てば分かりそうなものだ。
「正しい知識が不足しているのは問題だな。研修に追加しておこうか」
彼は俺をぎゅっと抱きしめた。
「運命のつがいの共鳴色を、間近で見せることができるわけだしな」
「そんなの……恥ずかしすぎます」
ラウンジで抱きしめられるのに困って抵抗したが、がっちりと捕まえられていて、脱出は難しかった。
でも、さきほど彼が追い払ったから、見物人は誰もいない。
俺は諦めて力を抜いた。
「ところで、あの最初の夜のことを覚えていないと言ったな」
彼の笑みに凄みが増して、なんだか怖い。
「仕方が無いからもう一度言うぞ。
ずっと前に一度、お前のフェロモンを偶然嗅いだことがあった。
その時から、お前をつがいにすると心に決めていた。
今日は突発的な事故で、こうして抱いてしまったが、共鳴によって運命のつがいだということが分かった。
これからはお前を離さない。
俺の……つがいになってほしい」
彼の瞳には、前のことを懐かしく思い出すような、優しい光が宿っていた。
それは一週間前より、ずっと……いったい、いつから彼は、俺のことを……。
その気持ちに応えられるのは、俺だけなんだ。
「はい」
小さく答えると、彼が俺の顎を引き寄せた。
「会社のラウンジでキスすると……コンプライアンス違反ですよ……」
「あとで始末書を書いておく」
二人の唇が、ふわりと溶け合った。
896
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(3件)
あなたにおすすめの小説
冷酷なアルファ(氷の将軍)に嫁いだオメガ、実はめちゃくちゃ愛されていた。
水凪しおん
BL
これは、愛を知らなかった二人が、本当の愛を見つけるまでの物語。
国のための「生贄」として、敵国の将軍に嫁いだオメガの王子、ユアン。
彼を待っていたのは、「氷の将軍」と恐れられるアルファ、クロヴィスとの心ない日々だった。
世継ぎを産むための「道具」として扱われ、絶望に暮れるユアン。
しかし、冷たい仮面の下に隠された、不器用な優しさと孤独な瞳。
孤独な夜にかけられた一枚の外套が、凍てついた心を少しずつ溶かし始める。
これは、政略結婚という偽りから始まった、運命の恋。
帝国に渦巻く陰謀に立ち向かう中で、二人は互いを守り、支え合う「共犯者」となる。
偽りの夫婦が、唯一無二の「番」になるまでの軌跡を、どうぞ見届けてください。
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
真空ベータの最強執事は辞職したい~フェロモン無効体質でアルファの王子様たちの精神安定剤になってしまった結果、執着溺愛されています~
水凪しおん
BL
フェロモンの影響を受けない「ベータ」の執事ルシアンは、前世の記憶を持つ転生者。
アルファ至上主義の荒れた王城で、彼はその特異な「無臭」体質ゆえに、フェロモン過多で情緒不安定な三人の王子たちにとって唯一の「精神安定剤」となってしまう。
氷の第一王子、野獣の第二王子、知略の第三王子――最強のアルファ兄弟から、匂いを嗅がれ、抱きつかれ、執着される日々。
「私はただの執事です。平穏に仕事をさせてください」
辞表を出せば即却下、他国へ逃げれば奪還作戦。
これは、無自覚に王子たちを癒やしてしまった最強執事が、国ぐるみで溺愛され、外堀を埋められていくお仕事&逆ハーレムBLファンタジー!
隠れオメガの整備士は自由になりたい。なのに暴走する最強騎士を身体を張って止めたら、運命の番だとバレて過保護な専属契約を結ばされました
水凪しおん
BL
※オメガバース設定。激しい戦闘描写や、執着攻めによるマーキング描写、軽度の性的な接触の描写がありますので、15歳未満の方の閲覧はご遠慮ください。
汚染された惑星を浄化する生体兵器『機装(ギア)』。
その搭乗者は優れた能力を持つ『アルファ』に限られ、彼らの精神を安定させる鎮静剤として『オメガ』が存在する世界。
整備士のエリアンは、オメガであることを隠し、ベータと偽って軍の最前線で働いていた。
オメガは道具のように扱われるこの社会で、自由を守るための必死の嘘だった。
だがある日、軍最強のエリートパイロット・クレイドの機装が暴走する事故に遭遇する。
死を覚悟して止めに入ったエリアンだったが、暴走する機体はなぜか彼にだけ反応し、沈静化した。
それは、隠していたオメガのフェロモンが、クレイドと強烈な『共鳴』を起こした瞬間だった。
「見つけた。俺の対になる存在を」
正体がバレたと戦慄するエリアンに対し、冷徹なはずのクレイドが向けたのは、処罰ではなく執着に満ちた熱い視線で……?
孤独なエリート騎士×身分を隠した健気な整備士。
星の命運と本能が交錯する、近未来SFオメガバース!
処刑エンドの悪役公爵、隠居したいのに溺愛されてます
ひなた翠
BL
目が覚めたら、やり込んだBLゲームの悪役公爵になっていた。
しかも手には鞭。目の前には涙を浮かべた美少年。
——このままじゃ、王太子に処刑される。
前世は冴えない社畜サラリーマン。今世は冷徹な美貌を持つ高位貴族のアルファ。
中身と外見の落差に戸惑う暇もなく、エリオットは処刑回避のための「隠居計画」を立てる。
囚われのオメガ・レオンを王太子カイルに引き渡し、爵位も領地も全部手放して、ひっそり消える——はずだった。
ところが動くほど状況は悪化していく。
レオンを自由にしようとすれば「傍にいたい」と縋りつかれ、
カイルに会えば「お前の匂いは甘い」と迫られ、
隠居を申し出れば「逃げるな」と退路を塞がれる。
しかもなぜか、子供の頃から飲んでいた「ビタミン剤」を忘れるたび、身体がおかしくなる。
周囲のアルファたちの視線が絡みつき、カイルの目の色が変わり——
自分でも知らなかった秘密が暴かれたとき、逃げ場はもう、どこにもなかった。
誰にも愛されなかった男が、異世界で「本当の自分」を知り、運命の番と出会う——
ギャップ萌え×じれったさ×匂いフェチ全開の、オメガバース転生BL。
隣の番は、俺だけを見ている
雪兎
BL
Ωである高校生の湊(みなと)は、幼いころから体が弱く、友人も少ない。そんな湊の隣に住んでいるのは、幼馴染で幼少期から湊に執着してきたαの律(りつ)。律は湊の護衛のように常にそばにいて、彼に近づく人間を片っ端から遠ざけてしまう。
ある日、湊は学校で軽い発情期の前触れに襲われ、助けてくれたのもやはり律だった。逃れられない幼馴染との関係に戸惑う湊だが、律は静かに囁く。「もう、俺からは逃げられない」――。
執着愛が静かに絡みつく、オメガバース・あまあま系BL。
【キャラクター設定】
■主人公(受け)
名前:湊(みなと)
属性:Ω(オメガ)
年齢:17歳
性格:引っ込み思案でおとなしいが、内面は芯が強い。幼少期から体が弱く、他人に頼ることが多かったため、律に守られるのが当たり前になっている。
特徴:小柄で華奢。淡い茶髪で色白。表情はおだやかだが、感情が表に出やすい。
■相手(攻め)
名前:律(りつ)
属性:α(アルファ)
年齢:18歳
性格:独占欲が非常に強く、湊に対してのみ甘く、他人には冷たい。基本的に無表情だが、湊のこととなると感情的になる。
特徴:長身で整った顔立ち。黒髪でクールな雰囲気。幼少期に湊を助けたことをきっかけに執着心が芽生え、彼を「俺の番」と心に決めている。
付き合っているのに喧嘩ばかり。俺から別れを言わなければならないとさよならを告げたが実は想い合ってた話。
雨宮里玖
BL
サラリーマン×サラリーマン
《あらすじ》
恋人になってもうすぐ三年。でも二人の関係は既に破綻している。最近は喧嘩ばかりで恋人らしいこともしていない。お互いのためにもこの関係を終わらせなければならないと陸斗は大河に別れを告げる——。
如月大河(26)営業部。陸斗の恋人。
小林陸斗(26)総務部。大河の恋人。
春希(26)大河の大学友人。
新井(27)大河と陸斗の同僚。イケメン。
氷の支配者と偽りのベータ。過労で倒れたら冷徹上司(銀狼)に拾われ、極上の溺愛生活が始まりました。
水凪しおん
BL
※この作品には、性的描写の表現が含まれています。18歳未満の方の閲覧はご遠慮ください。
オメガであることを隠し、メガバンクで身を粉にして働く、水瀬湊。
過労と理不尽な扱いで、心身ともに限界を迎えた夜、彼を救ったのは、冷徹で知られる超エリートα、橘蓮だった。
「君はもう、頑張らなくていい」
――それは、運命の番との出会い。
圧倒的な庇護と、独占欲に戸惑いながらも、湊の凍てついた心は、次第に溶かされていく。
理不尽な会社への華麗なる逆転劇と、極上に甘いオメガバース・オフィスラブ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
とても良かったです。
読みやすくて展開やキャラがとても好みでした。
素敵なお話をありがとうございました。
ahama.01さん
素敵な感想をありがとうございます。
展開やキャラが「好み」と言っていただけて、ガッツポーズするくらい嬉しいです!
最後まで楽しんでくださり、本当にありがとうございました。
とても面白かったです。キュンキュンしました。
しぶしぶさん
ありがとうございます! 二人の恋愛にキュンとしてもらえて、作者冥利につきます。
最後まで楽しんでくださり、ありがとうございました!
とっても面白かったです!
文章も読みやすく、展開もとっても好みでした。
ありがとうございました!
なのはなさん、コメントありがとうございます。
「読みやすい」と言っていただけて、作者として一番嬉しいお言葉です。
展開も楽しんでいただけたようで何よりです。
温かいお言葉、とても励みになりました!