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ロイヤルゴールドの瞳①
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月曜日の朝。ハイヤーで桐生部長と出社した俺は、死ぬような思いでデスクに座っていた。
週末、彼のタワマンにお持ち帰りされて……腰が砕けるほど愛された代償は大きい。
ふと顔を上げると、瀬名と目が合った。
彼は目の下にクマを作っていて、俺を見たら頭を下げて小さく「すいませんでした」と言ってきた。
よくよく考えたら、桐生部長にあんなこと言われたら、そりゃ怯えても当然だ。
俺は笑って「気にしなくていいよ」と言っておいたが、瀬名が俺を見る目が、いつもと違う。
あれは『姐さん』を見る目だ……。
「……っ」
俺はじくりとした痛みに、うなじを押さえた。
もしかして、発情期が早まってしまったのだろうか。
「あれ~? もしかして、牧田さん、『発情期』っすか? めっちゃいい匂いしますね」
営業の日野が話しかけてきた。
うわあ、頼むから放っておいてくれと思いながら、桐生部長のデスクをちらりと見た。
いない、よかった。
「オレがケアしましょうか? そういうの得意っすから。牧田さんでもヨユーっすよ。でもなんか、ほんとにいい匂いっていうか……まじそそられちゃうかも。なんて~」
「日野! 馬鹿、お前、牧田さんは……」
瀬名が青い顔で言いかけた直後――。
「……ひっ」
その声は引きつるような悲鳴で止まった。
俺はゆっくり後ろを振り返った。
そこには、氷点下の背景を背負った男が立っていた。
「日野……牧田のケアは俺がやる。お前は仕事に戻れ」
日野は、ぽかんとしていた。
「……部長が……なんで?」
「牧田のことは、業務も、体調も、全て俺が統括しているからだ」
日野が悪いわけではない。
彼は善意で言ってくれているんだ。
だからそんな、独占欲丸出しの顔で、部下を牽制しないで……!
「はあ……」
日野はなぜ自分が、桐生部長の極寒攻撃を受けているのか、よく分からないという顔だった。
部長は俺に向き直ると、とろけるような声で言った。
「牧田……ラウンジに行くか?」
15階にある、オメガがリラックスするためのラウンジ。
しかしそこに行けば皆の前で、彼に背を撫でてもらう姿を見せることになる。
でも、もう隠すことはできないだろう。
「……はい」
俺は小さく頷いた。
周囲がざわつく中で、彼は俺の腰を抱いた。
「……歩けるか?」
「大丈夫です。……あの、すいません」
「どうした?」
「今朝も、あんなにしていただいたのに、また」
「……お前のからだは全て俺が責任をもつ」
営業メンバーは、彼のこんな甘い声を聞くのは初めてなのだろう。ホラー映画でも見ているような顔をしている。
だが、合コンにいた瀬名たち数名のアシスタントは、顔を赤くしていた。
彼らだけが、俺たちを恋愛映画として楽しんでいるようだ。
彼にエスコートされて、ラウンジに入った。
瞬間、そこにいた数名のアルファとオメガたちは動きを止めた。
桐生部長は、他の人間などまるで目に入っていないかのように、俺だけを見ている。
「桐生部長が……」
「あの人、誰?」
「確か桐生部長の営業アシスタントをしている……」
周囲からざわめきが聞こえてきて、オメガの若い男の子が燃えるような視線で俺を睨みつけてきた。
桐生部長は俺のシャツのボタンを一つだけ外した。
俺の胸には、彼が今朝も上書きしたキスマークが、無数に散らばっている。
それが露わになったとき、向こうからざわめきが起きた。
見ると、併設されているカフェに見物客?がひしめいている。
彼が、今朝つけたばかりの真っ赤な所有印に唇を重ねた。
たくさんの人がいるなかで、見せつけるような上書き。
恥ずかしすぎて、現実感がなくなっていく。
そのあと、彼は発情を鎮めるように、優しく背を撫でてくれた。
ふっと落ち着いて彼に体を預けていると、若いアルファの声が聞こえてきた。
「あのオメガ……誰だっけ……あんな綺麗なヤツ、いたか?」
「さすが桐生部長の……」
体中が、かあっと熱くなる。もう無理だ。
「……も、いいですから」
彼は周囲を一瞥した。
「見世物じゃないぞ。仕事へ戻れ」
その一言で、蜘蛛の子を散らすように、見物人たちは一斉に帰っていった。
俺を守る彼の瞳は、理知と情熱を宿した美しいゴールドだった。
週末、彼のタワマンにお持ち帰りされて……腰が砕けるほど愛された代償は大きい。
ふと顔を上げると、瀬名と目が合った。
彼は目の下にクマを作っていて、俺を見たら頭を下げて小さく「すいませんでした」と言ってきた。
よくよく考えたら、桐生部長にあんなこと言われたら、そりゃ怯えても当然だ。
俺は笑って「気にしなくていいよ」と言っておいたが、瀬名が俺を見る目が、いつもと違う。
あれは『姐さん』を見る目だ……。
「……っ」
俺はじくりとした痛みに、うなじを押さえた。
もしかして、発情期が早まってしまったのだろうか。
「あれ~? もしかして、牧田さん、『発情期』っすか? めっちゃいい匂いしますね」
営業の日野が話しかけてきた。
うわあ、頼むから放っておいてくれと思いながら、桐生部長のデスクをちらりと見た。
いない、よかった。
「オレがケアしましょうか? そういうの得意っすから。牧田さんでもヨユーっすよ。でもなんか、ほんとにいい匂いっていうか……まじそそられちゃうかも。なんて~」
「日野! 馬鹿、お前、牧田さんは……」
瀬名が青い顔で言いかけた直後――。
「……ひっ」
その声は引きつるような悲鳴で止まった。
俺はゆっくり後ろを振り返った。
そこには、氷点下の背景を背負った男が立っていた。
「日野……牧田のケアは俺がやる。お前は仕事に戻れ」
日野は、ぽかんとしていた。
「……部長が……なんで?」
「牧田のことは、業務も、体調も、全て俺が統括しているからだ」
日野が悪いわけではない。
彼は善意で言ってくれているんだ。
だからそんな、独占欲丸出しの顔で、部下を牽制しないで……!
「はあ……」
日野はなぜ自分が、桐生部長の極寒攻撃を受けているのか、よく分からないという顔だった。
部長は俺に向き直ると、とろけるような声で言った。
「牧田……ラウンジに行くか?」
15階にある、オメガがリラックスするためのラウンジ。
しかしそこに行けば皆の前で、彼に背を撫でてもらう姿を見せることになる。
でも、もう隠すことはできないだろう。
「……はい」
俺は小さく頷いた。
周囲がざわつく中で、彼は俺の腰を抱いた。
「……歩けるか?」
「大丈夫です。……あの、すいません」
「どうした?」
「今朝も、あんなにしていただいたのに、また」
「……お前のからだは全て俺が責任をもつ」
営業メンバーは、彼のこんな甘い声を聞くのは初めてなのだろう。ホラー映画でも見ているような顔をしている。
だが、合コンにいた瀬名たち数名のアシスタントは、顔を赤くしていた。
彼らだけが、俺たちを恋愛映画として楽しんでいるようだ。
彼にエスコートされて、ラウンジに入った。
瞬間、そこにいた数名のアルファとオメガたちは動きを止めた。
桐生部長は、他の人間などまるで目に入っていないかのように、俺だけを見ている。
「桐生部長が……」
「あの人、誰?」
「確か桐生部長の営業アシスタントをしている……」
周囲からざわめきが聞こえてきて、オメガの若い男の子が燃えるような視線で俺を睨みつけてきた。
桐生部長は俺のシャツのボタンを一つだけ外した。
俺の胸には、彼が今朝も上書きしたキスマークが、無数に散らばっている。
それが露わになったとき、向こうからざわめきが起きた。
見ると、併設されているカフェに見物客?がひしめいている。
彼が、今朝つけたばかりの真っ赤な所有印に唇を重ねた。
たくさんの人がいるなかで、見せつけるような上書き。
恥ずかしすぎて、現実感がなくなっていく。
そのあと、彼は発情を鎮めるように、優しく背を撫でてくれた。
ふっと落ち着いて彼に体を預けていると、若いアルファの声が聞こえてきた。
「あのオメガ……誰だっけ……あんな綺麗なヤツ、いたか?」
「さすが桐生部長の……」
体中が、かあっと熱くなる。もう無理だ。
「……も、いいですから」
彼は周囲を一瞥した。
「見世物じゃないぞ。仕事へ戻れ」
その一言で、蜘蛛の子を散らすように、見物人たちは一斉に帰っていった。
俺を守る彼の瞳は、理知と情熱を宿した美しいゴールドだった。
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