【完結】29歳で「売れ残り」とお見合い勧告されましたが、裏では最強のアルファ部長が「運命だ」と逃がしてくれません

Marine

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ロイヤルゴールドの瞳①

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​ 月曜日の朝。ハイヤーで桐生部長と出社した俺は、死ぬような思いでデスクに座っていた。
 週末、彼のタワマンにお持ち帰りされて……腰が砕けるほど愛された代償は大きい。

 ふと顔を上げると、瀬名と目が合った。
 彼は目の下にクマを作っていて、俺を見たら頭を下げて小さく「すいませんでした」と言ってきた。
 よくよく考えたら、桐生部長にあんなこと言われたら、そりゃ怯えても当然だ。

 俺は笑って「気にしなくていいよ」と言っておいたが、瀬名が俺を見る目が、いつもと違う。

 あれは『姐さん』を見る目だ……。


「……っ」
 俺はじくりとした痛みに、うなじを押さえた。
 もしかして、発情期が早まってしまったのだろうか。

「あれ~? もしかして、牧田さん、『発情期』っすか? めっちゃいい匂いしますね」 

 営業の日野が話しかけてきた。
 うわあ、頼むから放っておいてくれと思いながら、桐生部長のデスクをちらりと見た。
 いない、よかった。

「オレがケアしましょうか? そういうの得意っすから。牧田さんでもヨユーっすよ。でもなんか、ほんとにいい匂いっていうか……まじそそられちゃうかも。なんて~」
「日野! 馬鹿、お前、牧田さんは……」
 
 瀬名が青い顔で言いかけた直後――。

 「……ひっ」

 その声は引きつるような悲鳴で止まった。

 俺はゆっくり後ろを振り返った。
 そこには、氷点下の背景を背負った男が立っていた。

「日野……牧田のケアは俺がやる。お前は仕事に戻れ」

 日野は、ぽかんとしていた。
 
「……部長が……なんで?」
「牧田のことは、業務も、体調も、全て俺が統括しているからだ」

 日野が悪いわけではない。
 彼は善意で言ってくれているんだ。
 だからそんな、独占欲丸出しの顔で、部下を牽制しないで……!

「はあ……」

 日野はなぜ自分が、桐生部長の極寒攻撃を受けているのか、よく分からないという顔だった。
 部長は俺に向き直ると、とろけるような声で言った。

「牧田……ラウンジに行くか?」

 15階にある、オメガがリラックスするためのラウンジ。
 しかしそこに行けば皆の前で、彼に背を撫でてもらう姿を見せることになる。
 でも、もう隠すことはできないだろう。

「……はい」

 俺は小さく頷いた。
 周囲がざわつく中で、彼は俺の腰を抱いた。

「……歩けるか?」
「大丈夫です。……あの、すいません」
「どうした?」
「今朝も、あんなにしていただいたのに、また」
「……お前のからだは全て俺が責任をもつ」
 
 営業メンバーは、彼のこんな甘い声を聞くのは初めてなのだろう。ホラー映画でも見ているような顔をしている。
 だが、合コンにいた瀬名たち数名のアシスタントは、顔を赤くしていた。
 彼らだけが、俺たちを恋愛映画として楽しんでいるようだ。



 彼にエスコートされて、ラウンジに入った。
 瞬間、そこにいた数名のアルファとオメガたちは動きを止めた。
 桐生部長は、他の人間などまるで目に入っていないかのように、俺だけを見ている。

「桐生部長が……」
「あの人、誰?」
「確か桐生部長の営業アシスタントをしている……」

 周囲からざわめきが聞こえてきて、オメガの若い男の子が燃えるような視線で俺を睨みつけてきた。

 桐生部長は俺のシャツのボタンを一つだけ外した。
 俺の胸には、彼が今朝も上書きしたキスマークが、無数に散らばっている。
 それが露わになったとき、向こうからざわめきが起きた。
 見ると、併設されているカフェに見物客?がひしめいている。

 彼が、今朝つけたばかりの真っ赤な所有印に唇を重ねた。
 たくさんの人がいるなかで、見せつけるような上書き。
 恥ずかしすぎて、現実感がなくなっていく。

 そのあと、彼は発情を鎮めるように、優しく背を撫でてくれた。
 ふっと落ち着いて彼に体を預けていると、若いアルファの声が聞こえてきた。

「あのオメガ……誰だっけ……あんな綺麗なヤツ、いたか?」
「さすが桐生部長の……」

 体中が、かあっと熱くなる。もう無理だ。

「……も、いいですから」

 彼は周囲を一瞥した。

「見世物じゃないぞ。仕事へ戻れ」

 その一言で、蜘蛛の子を散らすように、見物人たちは一斉に帰っていった。
 俺を守る彼の瞳は、理知と情熱を宿した美しいゴールドだった。
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