【完結】29歳で「売れ残り」とお見合い勧告されましたが、裏では最強のアルファ部長が「運命だ」と逃がしてくれません

Marine

文字の大きさ
27 / 29

しおりを挟む
「若いオメガはダメだね。前の妻なんて、僕のカードでブランド品を買い漁るばかりで、夕飯の一つも作らないんだ」

 老舗ホテルにある、高級中華料理店の個室で、俺の表情は『無』になっていた。
 料理はとうに食べ終わり、二人の前には冷めたコーヒーが置かれている。

「精神的に未熟でね。ちょっと注意しただけですぐ泣くし、ヒステリーを起こす。疲れたよ」

 俺の目の前でべらべらと喋っているのは、会社が用意した『お見合い』相手、五洋物産の物流企画部、次長の佐藤さんだ。

「その点、牧田さんはいい。人事データを見せて貰ったけど、ずっと真面目にアシスタントをしてきたんだろう?」

 桐生部長と本格的に恋人になって、総務課長にもそのことを伝えたばかりだ。
 しかし、取引先の会社の見合い相手ということで、キャンセルはしないことになった。

「もうすぐ30だし、浮ついたところがないのがいい。君なら、前の妻みたいに僕を振り回したりしないだろうしね」

 終わるまで黙って話を聞くしかないのだが、この時間はいつまで続くのだろう。

「僕は年収1200万ある。同年代の平均よりかなり上だ。生活の心配はさせないよ」

 1200万……たしか、桐生部長の腕時計、一本分くらいかな……。

「だから君には、仕事を辞めて家事に専念してほしい。僕が帰ったら完璧な夕食と風呂、掃除の行き届いた部屋。それが君の『仕事』だ」

 家事はヘルパーにまかせればいいって、部長は言ってたよな。
 仕事も俺がやりたいかなら続けさせてくれるだろう。ハイヤーで送り迎えされるのは困るけど……。
 まあ年収1200万円では、そこまでは無理か。

「夜のほうは期待していないよ。君もその歳なら、もうフェロモンも枯れてるだろう?」

 枯れるどころか部長にめちゃくちゃ開発されて、出まくってるんだが……。
 こいつきっと、テクニックや経験も少ないんだろうな。

「そういう処理は僕も『店』で済ませるから、君も変に色気を出さなくていい。お互いドライにいこう」

 うわあ、こいつ最低だ。
 平然と浮気宣言かよ。
 桐生部長は、アメリカに1週間の出張でも、絶対に俺以外としようとはしなかったのに。

 
……って、なんで俺、いちいち比べちゃってるんだ。
 こんなこと、相手にとって失礼だと分かってはいる。
 だが、この退屈な話を聞いていると、どうしても桐生部長のことを考えてしまう。


「次は外で会う必要はないね。金もかかるし。
 来週の日曜、僕のマンションに来てくれ。夕食を作ってもらう。
 味付けと手際を確認したいから、食材は冷蔵庫にあるもので考えてくれ」


……あ、限界がきた。


 俺は財布を取り出して、一万円札を三枚、置いた。

「……そういうことでしたら、俺とは条件が合わないようなので、失礼させて頂きます」
「待ってくれ! 君の条件は? 僕は年収もあるし、充分なはずだ」
「俺の条件は『俺だけを愛して、俺のためならすべてを捨てられる人』です。……あなたのように、妥協で選ぶ人じゃなくて」

 佐藤は驚いたように目を見開いた。
 俺は軽く一礼して、その場を後にした。

 個室を出てロビーに進むと、桐生部長がソファに座っているのが見えた。
 俺を見つけて、歩み寄って来てくれた。

「……終わったか?」
「はい。待っていてくれたんですね」
「いや、攫いにきた」

 真面目な顔をして言うから、つい笑ってしまう。
 
「おい、待ってくれ! 話はまだ終わってないぞ!」

 背後から、佐藤さんの苛立った声が響いた。
 やはり、一方的に席を立ったのは不味かっただろうか。謝って、もう一度断りを入れようと俺が振り返りかけた、その時だ。

「見るな」

 桐生部長の大きな手が、俺の頬を包み込み、視線を遮った。
 そのまま、俺の顔を覗き込むようにして、背後の佐藤さんへ鋭い視線を投げる。
 彼の瞳はロイヤルゴールドに輝いていた。

「っ……ひ、あ……」

 佐藤さんの足音が、ピタリと止まった。
 今の今まで怒鳴り散らしていた人間が、まるで捕食者に睨まれた小動物のように、喉の奥で引きつった悲鳴を漏らす。

「部長……?」
「ゴミが落ちていただけだ。行くぞ、渉」

 部長は瞬時に甘い笑顔に戻り、俺の腰を抱き寄せた。
 背後で、佐藤さんが腰を抜かしたのか、ドサリと床へ崩れ落ちる音が聞こえた気がしたが、部長の腕に引かれて歩き出した俺には、もう関係のないことだった。
 
 ホテルの前に待たせていたハイヤーに乗り込むと、重厚なドアが音もなく閉められた。
 外界の雑音を完全に遮断する静寂と、肌に吸い付くような本革のシート。
 佐藤さんが誇っていた「ささやかな贅沢」とは、次元の違う世界がここにある。

「どこに連れて行かれるんですか?」
「俺のマンションだ」

 そうやって、またベッドに釘付けになる週末の続きを過ごすことになるのか。
 
 俺が「腹が減ったから、飯を作りたい」と言っても、まだここにいろと抱きしめてくる。
 その腕に、その必死さに、いつも絆されてしまう。
 
「……我慢できない。ここでお前を喰ってしまいたい」
「ダメですよ、ハイヤーじゃ」

 ここで抵抗しなかったら、今度からハイヤーでするのが標準になってしまう。
 慌てて断ったら、やっぱり少し拗ねた顔をしていた。
 それがかわいいと思うなんて、俺も随分変わってしまったかもしれない。

「……」
「家まで我慢できたら、……朝まで好きにしていいですから」

 俺はシートの隣に座っている彼の肩に、そっと身を預けた。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

冷酷なアルファ(氷の将軍)に嫁いだオメガ、実はめちゃくちゃ愛されていた。

水凪しおん
BL
これは、愛を知らなかった二人が、本当の愛を見つけるまでの物語。 国のための「生贄」として、敵国の将軍に嫁いだオメガの王子、ユアン。 彼を待っていたのは、「氷の将軍」と恐れられるアルファ、クロヴィスとの心ない日々だった。 世継ぎを産むための「道具」として扱われ、絶望に暮れるユアン。 しかし、冷たい仮面の下に隠された、不器用な優しさと孤独な瞳。 孤独な夜にかけられた一枚の外套が、凍てついた心を少しずつ溶かし始める。 これは、政略結婚という偽りから始まった、運命の恋。 帝国に渦巻く陰謀に立ち向かう中で、二人は互いを守り、支え合う「共犯者」となる。 偽りの夫婦が、唯一無二の「番」になるまでの軌跡を、どうぞ見届けてください。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

真空ベータの最強執事は辞職したい~フェロモン無効体質でアルファの王子様たちの精神安定剤になってしまった結果、執着溺愛されています~

水凪しおん
BL
フェロモンの影響を受けない「ベータ」の執事ルシアンは、前世の記憶を持つ転生者。 アルファ至上主義の荒れた王城で、彼はその特異な「無臭」体質ゆえに、フェロモン過多で情緒不安定な三人の王子たちにとって唯一の「精神安定剤」となってしまう。 氷の第一王子、野獣の第二王子、知略の第三王子――最強のアルファ兄弟から、匂いを嗅がれ、抱きつかれ、執着される日々。 「私はただの執事です。平穏に仕事をさせてください」 辞表を出せば即却下、他国へ逃げれば奪還作戦。 これは、無自覚に王子たちを癒やしてしまった最強執事が、国ぐるみで溺愛され、外堀を埋められていくお仕事&逆ハーレムBLファンタジー!

隠れオメガの整備士は自由になりたい。なのに暴走する最強騎士を身体を張って止めたら、運命の番だとバレて過保護な専属契約を結ばされました

水凪しおん
BL
※オメガバース設定。激しい戦闘描写や、執着攻めによるマーキング描写、軽度の性的な接触の描写がありますので、15歳未満の方の閲覧はご遠慮ください。 汚染された惑星を浄化する生体兵器『機装(ギア)』。 その搭乗者は優れた能力を持つ『アルファ』に限られ、彼らの精神を安定させる鎮静剤として『オメガ』が存在する世界。 整備士のエリアンは、オメガであることを隠し、ベータと偽って軍の最前線で働いていた。 オメガは道具のように扱われるこの社会で、自由を守るための必死の嘘だった。 だがある日、軍最強のエリートパイロット・クレイドの機装が暴走する事故に遭遇する。 死を覚悟して止めに入ったエリアンだったが、暴走する機体はなぜか彼にだけ反応し、沈静化した。 それは、隠していたオメガのフェロモンが、クレイドと強烈な『共鳴』を起こした瞬間だった。 「見つけた。俺の対になる存在を」 正体がバレたと戦慄するエリアンに対し、冷徹なはずのクレイドが向けたのは、処罰ではなく執着に満ちた熱い視線で……? 孤独なエリート騎士×身分を隠した健気な整備士。 星の命運と本能が交錯する、近未来SFオメガバース!

処刑エンドの悪役公爵、隠居したいのに溺愛されてます

ひなた翠
BL
目が覚めたら、やり込んだBLゲームの悪役公爵になっていた。 しかも手には鞭。目の前には涙を浮かべた美少年。 ——このままじゃ、王太子に処刑される。 前世は冴えない社畜サラリーマン。今世は冷徹な美貌を持つ高位貴族のアルファ。 中身と外見の落差に戸惑う暇もなく、エリオットは処刑回避のための「隠居計画」を立てる。 囚われのオメガ・レオンを王太子カイルに引き渡し、爵位も領地も全部手放して、ひっそり消える——はずだった。 ところが動くほど状況は悪化していく。 レオンを自由にしようとすれば「傍にいたい」と縋りつかれ、 カイルに会えば「お前の匂いは甘い」と迫られ、 隠居を申し出れば「逃げるな」と退路を塞がれる。 しかもなぜか、子供の頃から飲んでいた「ビタミン剤」を忘れるたび、身体がおかしくなる。 周囲のアルファたちの視線が絡みつき、カイルの目の色が変わり—— 自分でも知らなかった秘密が暴かれたとき、逃げ場はもう、どこにもなかった。 誰にも愛されなかった男が、異世界で「本当の自分」を知り、運命の番と出会う—— ギャップ萌え×じれったさ×匂いフェチ全開の、オメガバース転生BL。

隣の番は、俺だけを見ている

雪兎
BL
Ωである高校生の湊(みなと)は、幼いころから体が弱く、友人も少ない。そんな湊の隣に住んでいるのは、幼馴染で幼少期から湊に執着してきたαの律(りつ)。律は湊の護衛のように常にそばにいて、彼に近づく人間を片っ端から遠ざけてしまう。 ある日、湊は学校で軽い発情期の前触れに襲われ、助けてくれたのもやはり律だった。逃れられない幼馴染との関係に戸惑う湊だが、律は静かに囁く。「もう、俺からは逃げられない」――。 執着愛が静かに絡みつく、オメガバース・あまあま系BL。 【キャラクター設定】 ■主人公(受け) 名前:湊(みなと) 属性:Ω(オメガ) 年齢:17歳 性格:引っ込み思案でおとなしいが、内面は芯が強い。幼少期から体が弱く、他人に頼ることが多かったため、律に守られるのが当たり前になっている。 特徴:小柄で華奢。淡い茶髪で色白。表情はおだやかだが、感情が表に出やすい。 ■相手(攻め) 名前:律(りつ) 属性:α(アルファ) 年齢:18歳 性格:独占欲が非常に強く、湊に対してのみ甘く、他人には冷たい。基本的に無表情だが、湊のこととなると感情的になる。 特徴:長身で整った顔立ち。黒髪でクールな雰囲気。幼少期に湊を助けたことをきっかけに執着心が芽生え、彼を「俺の番」と心に決めている。

付き合っているのに喧嘩ばかり。俺から別れを言わなければならないとさよならを告げたが実は想い合ってた話。

雨宮里玖
BL
サラリーマン×サラリーマン 《あらすじ》 恋人になってもうすぐ三年。でも二人の関係は既に破綻している。最近は喧嘩ばかりで恋人らしいこともしていない。お互いのためにもこの関係を終わらせなければならないと陸斗は大河に別れを告げる——。 如月大河(26)営業部。陸斗の恋人。 小林陸斗(26)総務部。大河の恋人。 春希(26)大河の大学友人。 新井(27)大河と陸斗の同僚。イケメン。

氷の支配者と偽りのベータ。過労で倒れたら冷徹上司(銀狼)に拾われ、極上の溺愛生活が始まりました。

水凪しおん
BL
※この作品には、性的描写の表現が含まれています。18歳未満の方の閲覧はご遠慮ください。 オメガであることを隠し、メガバンクで身を粉にして働く、水瀬湊。 過労と理不尽な扱いで、心身ともに限界を迎えた夜、彼を救ったのは、冷徹で知られる超エリートα、橘蓮だった。 「君はもう、頑張らなくていい」 ――それは、運命の番との出会い。 圧倒的な庇護と、独占欲に戸惑いながらも、湊の凍てついた心は、次第に溶かされていく。 理不尽な会社への華麗なる逆転劇と、極上に甘いオメガバース・オフィスラブ!

処理中です...