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退屈なお見合い①
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日曜日の朝、けたたましくスマートフォンが鳴っていた。
俺は重い桐生部長の手の中から何とか抜け出して、やっとそれを止めることができた。
土日は絶対にアラームをかけないのに、どうしてこんな早い時間に?
不思議に思った瞬間、電撃のように思い出した。
――そうだ、今日は会社から強制されていたお見合いの日だった!
急いで桐生部長を起こして、見合いの件を告げた。
怒るかな、と思ったけど、彼は何とも言えない表情になっただけだった。
「そうか……なるほど。……というか、そういうことは早く言え」
「すいません。どうせ断るし……と思って、忘れてました」
「まあ確かに、俺以外の男は眼中にないのも分かる」
「凄い自信ですね」
「俺以上にお前を愛しているヤツなんていないからな」
少しだけ笑ってしまった。
これはもう、混乱ではないと信じられる。
彼は本気で、俺のことを想ってくれている。
「お前からは、返事を聞いてないがな」
少し拗ねたような言い方。
こんなに権力があって格好いいのに、可愛いところがずるい。
受け入れてあげたくなっちゃうじゃないか。
でも、やっぱりいいのかな、と思ってしまう。
甘やかされて、形を無くしたりしないかな?
そのとき、心の中のキーケースがチャリッと音を立てた。
大丈夫だ、彼は強引なところもあるけど、伝えれば、きっと待ってくれる。
「俺も……です」
顔がじわっと熱い。
俯き加減に言うと、彼の大きな手が、そっと頬に触れた。
「やっと捕まえた。……もう逃さない」
――よく言うよ。一度も逃がしてくれたこと、ないくせに。
「でもお見合いは行かないと。お相手に失礼になりますよね」
「ああ、行ってこい。送ってやる」
……ハイヤーで?
「お見合いに行くのに、かっ、彼氏の……車で行くなんて、聞いたことありません」
恥ずかしくて堪らなかったのに、彼は不服そうだった。
「夫じゃないのか?」
「ぶっとびすぎです!」
「じゃあ結婚前提で」
言っていることは切羽詰まっているのに、その余裕のある笑みが悔しい。
俺は彼の肩に額を置いて「はい」と小さく呟いた。
※ ※ ※
お見合い会場のホテルに現れた俺を見て、付添人の総務の吉田課長は魂が抜けたような顔になっていた。
なにしろ、ハイヤーで乗り付けて来て、桐生部長にエスコートされてきたのだから。
「吉田くん、お疲れさま。ちょっと情報の行き違いがあったようで、渉にお見合いの話がいってしまったようだが」
俺の腰を抱いた桐生部長に、全てを察したのか、彼は必死に頭を下げてきた。
「も、申し訳ありません。桐生部長の……その、ような方とは知らずに」
「恋人だ。彼の体調には、俺が全責任をもつ。もちろん、仕事は俺のサポートを続けてもらう」
「承知しました」
桐生部長の声は淡々としていて怒りはない。
もちろん、総務課長は何も知らなかったのだし、俺も金曜日まではここまでのことになるなんて思いもしなかったんだから、仕方がない。
思えば、ジェットコースターのような一週間だった。
「では、お見合いは中止と……」
「いや取引先の方だし、それはまずいだろう。話だけ聞いて帰ってくるように渉には言ってある」
「はい、申し訳ないので行くだけは行きます」
「あ、ありがとうございます」
俺はほっとしたような総務部長を後にして、個室の方に歩いて行った。
俺は重い桐生部長の手の中から何とか抜け出して、やっとそれを止めることができた。
土日は絶対にアラームをかけないのに、どうしてこんな早い時間に?
不思議に思った瞬間、電撃のように思い出した。
――そうだ、今日は会社から強制されていたお見合いの日だった!
急いで桐生部長を起こして、見合いの件を告げた。
怒るかな、と思ったけど、彼は何とも言えない表情になっただけだった。
「そうか……なるほど。……というか、そういうことは早く言え」
「すいません。どうせ断るし……と思って、忘れてました」
「まあ確かに、俺以外の男は眼中にないのも分かる」
「凄い自信ですね」
「俺以上にお前を愛しているヤツなんていないからな」
少しだけ笑ってしまった。
これはもう、混乱ではないと信じられる。
彼は本気で、俺のことを想ってくれている。
「お前からは、返事を聞いてないがな」
少し拗ねたような言い方。
こんなに権力があって格好いいのに、可愛いところがずるい。
受け入れてあげたくなっちゃうじゃないか。
でも、やっぱりいいのかな、と思ってしまう。
甘やかされて、形を無くしたりしないかな?
そのとき、心の中のキーケースがチャリッと音を立てた。
大丈夫だ、彼は強引なところもあるけど、伝えれば、きっと待ってくれる。
「俺も……です」
顔がじわっと熱い。
俯き加減に言うと、彼の大きな手が、そっと頬に触れた。
「やっと捕まえた。……もう逃さない」
――よく言うよ。一度も逃がしてくれたこと、ないくせに。
「でもお見合いは行かないと。お相手に失礼になりますよね」
「ああ、行ってこい。送ってやる」
……ハイヤーで?
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恥ずかしくて堪らなかったのに、彼は不服そうだった。
「夫じゃないのか?」
「ぶっとびすぎです!」
「じゃあ結婚前提で」
言っていることは切羽詰まっているのに、その余裕のある笑みが悔しい。
俺は彼の肩に額を置いて「はい」と小さく呟いた。
※ ※ ※
お見合い会場のホテルに現れた俺を見て、付添人の総務の吉田課長は魂が抜けたような顔になっていた。
なにしろ、ハイヤーで乗り付けて来て、桐生部長にエスコートされてきたのだから。
「吉田くん、お疲れさま。ちょっと情報の行き違いがあったようで、渉にお見合いの話がいってしまったようだが」
俺の腰を抱いた桐生部長に、全てを察したのか、彼は必死に頭を下げてきた。
「も、申し訳ありません。桐生部長の……その、ような方とは知らずに」
「恋人だ。彼の体調には、俺が全責任をもつ。もちろん、仕事は俺のサポートを続けてもらう」
「承知しました」
桐生部長の声は淡々としていて怒りはない。
もちろん、総務課長は何も知らなかったのだし、俺も金曜日まではここまでのことになるなんて思いもしなかったんだから、仕方がない。
思えば、ジェットコースターのような一週間だった。
「では、お見合いは中止と……」
「いや取引先の方だし、それはまずいだろう。話だけ聞いて帰ってくるように渉には言ってある」
「はい、申し訳ないので行くだけは行きます」
「あ、ありがとうございます」
俺はほっとしたような総務部長を後にして、個室の方に歩いて行った。
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