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「……勝った。ついに、ついに完璧な隠居のチャンスが巡ってきましたわ!」
大陸皇帝の戴冠式を来週に控えたある日、シビラは執務室で一人、ガッツポーズを決めていた。
今回の計画は、これまでのものとは次元が違う。
名付けて「影武者・リュミエール、完璧な皇帝即位作戦」である。
「リュミエール様。あなたに、私の『威圧的な笑い方』と『すべてを見透かしたような視線』、そして『完璧な事務処理能力』をすべて伝授いたしましたわね?」
シビラの目の前には、シビラと寸分違わぬドレスを纏い、扇で口元を隠したリュミエールが立っていた。
「……もちろんですわ、シビラ様。いえ……『私』。今日から、私があなたであり、あなたが私……。この大陸を、私がシビラ様として、永遠の残業へと導いてみせますわ!」
(よし、いい感じに狂っていますわね!)
シビラは満足げに頷いた。
リュミエールの変装魔法と、シビラが数年かけて叩き込んだ「シビラ・イズム」があれば、たとえアルフォンスであっても、数日は気づかないはずだ。
「さあ、リュミエール様。私はこのまま、秘密の地下通路から港へ向かい、今度こそ南の島でトロピカルジュースを浴びるように飲みますわ。あばよ、激務の毎日!」
シビラは身軽な旅装束に着替え、地下通路へと飛び込んだ。
真っ暗な通路を、鼻歌まじりに進む。
出口の扉を開ければ、そこには自由な海風が待っているはず——。
「——おや。南の島のトロピカルジュースもいいけれど、僕としては、君が淹れてくれる(はずの)苦いお茶の方が好みなんだがね」
出口の扉を開けた瞬間、そこには松明を持ったアルフォンスが、優雅に壁に背を預けて待っていた。
「……な、なぜ!? なぜここに!? リュミエール様が私の身代わりに……」
「ああ、彼女なら今、執務室で『私はシビラ様ですわ!』と叫びながら、猛烈な勢いで白紙の書類に署名をし続けているよ。……あまりに筆跡が完璧すぎて、財務卿が恐怖で泣いていたから、すぐに僕だと分かった」
アルフォンスは、シビラの荷物をひょいと取り上げた。
「それに、シビラ。君は忘れているようだけれど、君がこの地下通路を設計した際、『私が逃げ出そうとしたら、自動的に王の寝室へ繋がるように』という、君自身の『無意識の良心』が組み込まれていたんだよ」
「……なんですって!? 私、そんな恐ろしい呪いを自分にかけていたんですの!?」
「君の有能すぎる脳は、君が自分勝手な幸せを選ぶことを許さないらしい。……さあ、戻ろう。君が逃げ出そうとしたせいで、リュミエール嬢がショックのあまり『全大陸の税率をゼロにする』という、とんでもない経済テロを宣言し始めている」
「なっ……! あの子、何てことを! 税率をゼロにしたら、インフラ整備ができなくなって、私の隠居後の別荘までの道路が舗装されませんわ!」
シビラは反射的に、アルフォンスの手を引いて王宮へと走り出した。
「待っていなさい、リュミエール様! 今すぐ私が、適切な累進課税の計算式を叩き込んで差し上げますわ!」
「……ふふ。やっぱり君は、こうでなくてはね」
アルフォンスは、必死に「仕事」へ向かうシビラの背中を見つめ、満足げに微笑んだ。
結局、その日も、その次の日も。
シビラが南の島でジュースを飲む日は訪れなかった。
「……ああっ! また働いてしまいましたわ! 誰か、誰か私をクビにしてくださらない!?」
「「「シビラ様! 皇帝陛下! 万歳!!」」」
彼女の叫びは、今日も国民の熱狂的な歓声にかき消され、世界はまた少しだけ、彼女の手によって「完璧」に近づいていくのであった。
大陸皇帝の戴冠式を来週に控えたある日、シビラは執務室で一人、ガッツポーズを決めていた。
今回の計画は、これまでのものとは次元が違う。
名付けて「影武者・リュミエール、完璧な皇帝即位作戦」である。
「リュミエール様。あなたに、私の『威圧的な笑い方』と『すべてを見透かしたような視線』、そして『完璧な事務処理能力』をすべて伝授いたしましたわね?」
シビラの目の前には、シビラと寸分違わぬドレスを纏い、扇で口元を隠したリュミエールが立っていた。
「……もちろんですわ、シビラ様。いえ……『私』。今日から、私があなたであり、あなたが私……。この大陸を、私がシビラ様として、永遠の残業へと導いてみせますわ!」
(よし、いい感じに狂っていますわね!)
シビラは満足げに頷いた。
リュミエールの変装魔法と、シビラが数年かけて叩き込んだ「シビラ・イズム」があれば、たとえアルフォンスであっても、数日は気づかないはずだ。
「さあ、リュミエール様。私はこのまま、秘密の地下通路から港へ向かい、今度こそ南の島でトロピカルジュースを浴びるように飲みますわ。あばよ、激務の毎日!」
シビラは身軽な旅装束に着替え、地下通路へと飛び込んだ。
真っ暗な通路を、鼻歌まじりに進む。
出口の扉を開ければ、そこには自由な海風が待っているはず——。
「——おや。南の島のトロピカルジュースもいいけれど、僕としては、君が淹れてくれる(はずの)苦いお茶の方が好みなんだがね」
出口の扉を開けた瞬間、そこには松明を持ったアルフォンスが、優雅に壁に背を預けて待っていた。
「……な、なぜ!? なぜここに!? リュミエール様が私の身代わりに……」
「ああ、彼女なら今、執務室で『私はシビラ様ですわ!』と叫びながら、猛烈な勢いで白紙の書類に署名をし続けているよ。……あまりに筆跡が完璧すぎて、財務卿が恐怖で泣いていたから、すぐに僕だと分かった」
アルフォンスは、シビラの荷物をひょいと取り上げた。
「それに、シビラ。君は忘れているようだけれど、君がこの地下通路を設計した際、『私が逃げ出そうとしたら、自動的に王の寝室へ繋がるように』という、君自身の『無意識の良心』が組み込まれていたんだよ」
「……なんですって!? 私、そんな恐ろしい呪いを自分にかけていたんですの!?」
「君の有能すぎる脳は、君が自分勝手な幸せを選ぶことを許さないらしい。……さあ、戻ろう。君が逃げ出そうとしたせいで、リュミエール嬢がショックのあまり『全大陸の税率をゼロにする』という、とんでもない経済テロを宣言し始めている」
「なっ……! あの子、何てことを! 税率をゼロにしたら、インフラ整備ができなくなって、私の隠居後の別荘までの道路が舗装されませんわ!」
シビラは反射的に、アルフォンスの手を引いて王宮へと走り出した。
「待っていなさい、リュミエール様! 今すぐ私が、適切な累進課税の計算式を叩き込んで差し上げますわ!」
「……ふふ。やっぱり君は、こうでなくてはね」
アルフォンスは、必死に「仕事」へ向かうシビラの背中を見つめ、満足げに微笑んだ。
結局、その日も、その次の日も。
シビラが南の島でジュースを飲む日は訪れなかった。
「……ああっ! また働いてしまいましたわ! 誰か、誰か私をクビにしてくださらない!?」
「「「シビラ様! 皇帝陛下! 万歳!!」」」
彼女の叫びは、今日も国民の熱狂的な歓声にかき消され、世界はまた少しだけ、彼女の手によって「完璧」に近づいていくのであった。
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