夏至祭の時空の彼方

有嶺哲史

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第二章  インテルメディオの風来坊

中間界の科学と社会

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 夜の暇な時間、ランプの光の下でミーヤに現世界の古今東西の面白い話や諸知識を解説した。
資料も持ってこず記憶だけでは漫談にならざるを得ない。
ミーヤは科学に興味があるがフリアーナはそうではなく、現世界の話にも興味を持たないそうだ。
インテルメディオの科学レベルは現世界の中世段階で発達が止まっていた。
文明を発展させる専門家である〝科学者〟や〝芸術家〟は、大昔はいたらしいが現在はいなかった。
鍛冶屋、大工など一部を除いてほぼ職業的専門家はいないようだった。

「じゃあ、医学の研究者もいないの?」

「そうよ。病気になったら役所に行くの。役人が医者になって昔のままのあまり効かない薬を出すだけよ」

そう聞いたときは背筋が寒くなった。
長寿者が少ないのはそのせいか。

 種類は少ないが酒もあった。
庶民が飲むのは緩めの酒だがフリアーナの宮殿にはきつい酒があった。
一杯飲めば酔ってしまう。
年に一度の祭礼で配られる。
軍隊は無く警察官も裁判所もごく少人数で頻繁に交替する。
狭い世界なので逃亡してもすぐ見つかって自白してしまう。
狂暴な集団強盗などいないようだ。
そもそもここの住民たちは秘密を守らない。
聞いたことはすぐ誰かに話したくて我慢できないのだ。
嘘や陰謀など考える人間はいないのではないか。
寺子屋はあるが学校は無い。
現世界の常識では恐ろしいほど何もない社会だ。

 当然税金は安い。
ここでは一所帯一律十%の所得税だけなので誰も税金を気にしていない。
それでも君主であるフリアーナは事実上公私混同で、年収八十億の物凄い金持ちだ。
税金は貨幣で取っているがそれだけだとあっという間に国内の貨幣が無くなってしまう。
宮廷人の家禄、公務員給与や教育福祉その他の公共事業で社会に還流している。

「いつも取りすぎて税金が余り、逆に市場は常に貨幣が不足ぎみ。税金が余るのは国家が金を払えないことが起こってはならないからだと聞いたわ」

「それならば国債を発行するという手段がある。現金だけで国の経済財政を回すより柔軟性が有る」

「こくさい? 何それ」

ミーヤは国債を知らなかった。
おれは勢いで言ってしまった。

「そのためには中央銀行と債券市場が必要だ。中央銀行は金融システムの中核になり金利を決め各種の金融政策を決定する」

「銀行って何? 金融って何?」

銀行も無かったのか。
しかし聞かれたおれも実は名前以上のことはほとんど知らなかった。
おれは文明の表面的成果を知っていただけだった。
貧富の差がほとんど無いので金を目的とした犯罪は少ない。
金を溜め込みたがる人も団体もあまりいないようだ。
大企業も無い。
ほとんど変化のない社会だから使い道があまりないのだろう。
個人には金が無くなって困ることはないのか? それに対するすごい答えは国営の庶民金融だ。
困った庶民は誰でも無担保で国家に借金できる。
利息は取らないかわりに取り立ては厳しい。
狭い国だから隠れてもすぐ見つかる。
返せないなら強制労働だという。
債務を残して死んだら葬儀をしてもらえない。

 現世界と違ってここは全体が小さく限られた空間なので現世界の科学技術や社会構造をそのままここに持ち込むと大きな軋轢(あつれき)が出ることは容易に想像できる。
地球では〝ちょっと悪い人〟くらいの人物でもここに銃を持って来たら大悪人になれる。
銃についてミーヤに話したところ

「銃って嫌なものね。この世界に無くて本当によかった」

ここは現世界に比べると相当穏やかな社会だ。
狭い社会を安定的に維持するためには文明の発展を抑える必要があったからではないか。

 ところで空で光を発して地上を照らしている物は何か、と聞くと誰もが解らないという。
フリアーナも統治者の仕事といって天体観測はしていたが原理を説明する天文学は無かった。
星もないからここの人々は天体に興味を持たない。
自分で天体を調べてみよう、と思って望遠鏡の自作を考えたがこの世界にはレンズが無い。
レンズの元になるガラスを作るには超高温のるつぼが要る。
ガラス円盤をレンズに加工するための研磨技術も要る。
到底自作は無理だ。
身ひとつで来たおれは望遠鏡を再現できなかった。
文明の伝搬には知識だけではだめで原材料、加工具、人材など、必要な物すべてが揃っていなければならなかった。

 見た感じでは、ここの宇宙構造は住人達の性格とは対照的に存外複雑で、いずれ不安定になるかもしれない。
銀河のようにも見える光源だが後に我々現世界の銀河よりも桁外れに小さいような気がするようになった。
現世界では宇宙というものは知れば知るほど大きいのだが、他に天体が見当たらない。
体感では重力が小さいが、その理由はいろいろあり得る。
時間の過ぎる速さも地球と比較しようがない。
もし物理定数が違っていたら来た途端おれの体は一瞬で分解したかもしれない。

 何でも素直に聞き、大きな漆黒の瞳でおれをじっと見ているミーヤがとても可愛いかったので、つい図に乗って聞きかじり程度しか知らないのに相対性理論を話してしまった。
彼女は大いに興味を持った。
時間の不可思議さを聞いた彼女はタイムトラベルして亡き両親に逢いたいと夢を語った。
彼女の両親はまだ幼かった一人娘の彼女を残して亡くなっていた。
彼女は文明や心と魂の話にも、そして性にもなかなかの興味を示した。
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