夏至祭の時空の彼方

有嶺哲史

文字の大きさ
7 / 19
第二章  インテルメディオの風来坊

牧歌的な国の謎

しおりを挟む
 このところミーヤの眉毛や眼などの雰囲気が変わって大人びてきた。
潤いが宿り花のように美しくなった。
話を聞くミーヤはおれの漫談話に無警戒に笑うようになった。
そんなときわざと苦虫を噛み潰したような顔をした。
するとミーヤはのけぞって大笑いした。
その笑っている最中におれも笑ったら子が出来るから強姦になる……

 広いミーヤの家を探訪していた或る時、彼女の亡くなった両親の肖像画を見つけた。
今のミーヤからは想像できないほど父母ともに高度な肥満だった。
それからアルバ家の内々に興味を持ち始めた。
家の中を歩くことが増えた。
そして中間界の成り立ちに興味を持ち、図書館などあらゆる所を調べた。

 ミーヤが或る時レースに似た、透けて見える白い室内着を着て窓辺に座っていた。
陽光に庭の草花がキラキラ輝くのを眺めている姿には物思いに耽る若い娘らしい風情があった。
以前に比べて体型も魅力的に変わった。
彼女は現世界の年頃の若い女に似てきた。
今が彼女の生涯で一番、詩歌に謳われるような魅力に富んだ時期ではないかと思った。

「ミーヤは益々美しくなったね」

それを聞いて喜ぶミーヤに

「ご両親の肖像画を見たが、かなり肥満していたね?」

というとミーヤは表情を曇らせ

「うちの家系では一生のある時期、超肥満になるの」

「ミーヤも肥満が始まる前に嫁に行かなきゃならないね」

ミーヤはパッと振り返り天使のような透明な笑みをおれに向けて喜びを表した。
驚いたおれは反射的に自分の笑いを止めた。
その勢いが余って怖い表情になってしまった。
それを見た瞬間ミーヤは驚愕の表情に変わった。
ミーヤは体を震わせた。
その夜ミーヤは食事もせず自室に籠った。
おれは心配で眠れなかった。
翌朝になるとミーヤはいつもと変わらず明るい娘だった。
彼女の心の変化は判らない。
切り替わりの早さをどう解釈すべきか判らなかった。
そのころからミーヤはおれに〝お兄様〟と呼びかけてくるようになった。

「これからお兄様と呼んでも怒らないでね。あなたを本当にそう思っているから」



 一方、フリアーナは日常的に最も長時間おれのそばに居る女性となっている。
このころにはフリアーナとおれは普段相手を何も意識することは無くなっていた。
ところが一度だけ突然変なことをされた。
気候が素晴らしく良い季節のある晩、猫のパイヤが眠っていたときのこと。
フリアーナは上機嫌で珍しくおれに酒をふるまった。
彼女のふんわりした感じに魅せられるようにかなり酔ってしまった。
そのとき彼女が珍しく胸がよく透ける服を着ているのに気づいた。
この世界ではじろじろ見るのは全く失礼ではないので何気なく乳房を見ると、なんと頂上に乳首が有った。
おれが驚愕するのを見ていたフリアーナは穏やかに

「女護衛官と違って乳首があるの、わかるでしょ?」

ニッと笑って、さらに上衣を持ち上げ腹を見せた。
そろりと露出した臍はここの女に無いものだった。

「臍もあるのよ。驚いた? フフフ」

眼の前に突き付けられてタジタジとずりさがり頭の中は真っ白になった。
追い込むようにさらに女公爵の笑みは怪しげになり

「何か、思い出さない?」

心当たりなどあるはずがない。
彼女はとうとう足元の裾をつかんで持ち上げはじめた。
これは……ゆっくり膝が見えてきた。
パイヤ猫もタヌキ寝入りを止めて眼をまん丸にして見ていた。
とうとう太ももの上の方まで露出した。
その突き当りが見える直前おれは電光石火、慌てて退出した。
この世界にきて三番目の驚愕だった。
これが白い母の言った〝ちょっといいこと〟か? 



 その夜、寝ていると夢うつつの薄明の中にぼんやりと女の顔が現れた。
まるで恋人に再会したような大きな喜びの表情だが誰だか判らない。
心臓がぞわぞわしているおれに向かって妖艶に笑った。
夕方のこともあって、フリアーナが夜這いしてきたのかと思った。
しかし動きがキビキビしていて言葉が妙に田舎っぽいのが違和感を醸し出していた。
女は満面うれしそうな表情で言った。

「アンタ、これ見てよ」

女はテーブルの上に仰向けに寝そべりドレスを掻きあげ裸の下半身をすべて露出した。
突然のことに考える間もなくおれは興奮した。
それから女はゴロゴロ姿勢を変えて色々な部分を見せつけた。
途中で唐突に女の尻のてっぺんに大きなできものが見えた。
できものを見た途端おれの興奮は鎮まってしまった。
なおも女は自らの手で開き、股間の構造を見せた。
さらに引っ張ったので黒い穴が開いた。
この地の女に無い生殖用の穴だった。
しかし興奮が納まってしまったおれは茫然とするだけだった。
女はおれの体の一部である棒を掴もうと手を伸ばしてきた……そのとき顔がよく見えた。
それが、おれを呑み込みそうにギラギラした村の娘カルメンだと判ったとき全身から冷や汗が噴出した。
何でここにいるのだ、あまりの不可解さにパニックになったおれはダーッと走って逃げた。
逃げる途中ではっきり目が覚めた。
明るい金髪だったからフリアーナでないことは確かだ。
それがなんでカルメン? おかしい、ここにカルメンがいるはずがない。
古いことを思い出した。
あの地域の子どもたちは結構ませていた。
幼いころカルメンたちも親に隠れてあんな遊びをしていた。

 翌日のフリアーナの態度は何事も無かったようにいつもと変わりなかったし、おれも知らんぷりしていた。
フリアーナには地球人の女と同様に生殖用の孔があることを昨日おれに見せようとしたのだろう。
ミーヤによれば彼女が青年期に神代界で働いている時に何か事件が起こったという。
彼女が何か思い出さないかと言ったのは、そのときにおれが彼女と何か関りを持ったということかもしれない。
この世界へのおれの到来がたまたま起こったことではないとフリアーナは思っているらしい。
彼女はおれの知らない物語を持っている。
彼女の股間もあんな股間なら彼女もここの住人の血を全くひかない異界人だ。
中間界のリリオ国支配者フリアーナ・エルモーソ・アルコ公爵にはとんでもない秘密がある。
しかしおれを誘惑したいだけで麗しい女公爵があんなことをするだろうか。
一方、マリサは独自に勉強しておれの体にあの植物によく似た突起があるのではないかと疑い始めたようだ。
物陰で二人が密着したときの、おれの体の変化の意味が解ったらしい。
たまにマリサはおれの股間の膨らみを凝視して油汗をかいている。
本心の読めないフリアーナ、ただの謹厳女ではなさそうなマリサ、無邪気で可愛いミーヤの三人ともそれぞれ違う体の秘密を抱えていた。

 パイヤ猫は上品な淑女である。
いつも連れているのはフリアーナだ。
彼女の出身地を調べようと思い、抱きあげて天地をひっくり返して尻をおっぴろげた。
ミャアミャア鳴いて騒いだ。
ミーヤと同じように穴が二つしか無いことを確認し、それでこの近辺の生まれだと思った。
それは誤解だった。
知らなかったが現世界でも人間の女の体だけが動物の中で特殊なのだ。
それ以降猫がおれを見上げるとき色っぽい眼で見るようになった。



 あるとき年取った召使のセナイダと雑談していた。

「セナイダはいつ頃からこの家に仕えているの?」

老婆は懐かしそうに語った。

「子供の時からですよ。先々代の大奥様には家事や料理の作り方のほか剣の使い方も。憶えの悪い子供だったのに根気よく手を取るように教えていただきました。それはお優しい素晴らしい大奥様で御座いました」

「ここの家柄ってどうなの? 相当高貴な血筋のような気がする。この邸宅にはただならぬ格を感じる」

「よくお判りで。昔は……いや、こんな話は止めましょう。あのことを実際に見た者は私を除いていなくなりました。この世界の人間は誰も私の言うことを信じません」

老婆の眼に涙が光った。セナイダは〝あのこと〟について語りたくないようだった。
セナイダは一般公募の使用人ではなく代々アルバ家の従者をする家系の人だった。

 公国の図書館で調べたがインテルメディオの歴史書はミーヤの先々代の辺りより前は詳しくない。
ところが後日運動がてらに邸の庭で跳躍していたときのこと。
異界人のおれは身軽になっていたのでミーヤ邸の屋根の上に跳び上がってしまった。
まわりの木々を気持ちよさそうに揺らす風に吹かれながら屋根の上を巡っていると邸内部からは壁で行けないはずの所に部屋らしい空間があることに気づいた。
庭から見上げるだけではわからない所だ。
勝手に入ると中は長年誰も入っていない様子で、文書類が見つかった。
一つは系図で、公的な歴史書には無い古い頃まで遡っていた。
驚いたことにアルバ家はミーヤの祖父まではインテルメディオ全体の君主だった。
そこにあった初期の資料によると限られた土地で末永く暮らせるように色々掟を作った、とあった。
ところがミーヤの曾祖父の代に揉め事が起こった。
年老いてから得た可愛い実子に対する情が政治的判断を誤らせ、領地相続の遺言状を書き換えた。
もめ事が始まった。
結局最有力な臣下のアルコ家とニエベ家が結託し、君主になったばかりの若くて不慣れなミーヤの祖父を退位させた。
そして二つの家がこの世界を勝手に分割しそれぞれ公爵領として統治するようになったことが判った。
だから分裂当初、東インテルメディオ公国と西インテルメディオ公国が正式な国名だった。
後にどちらも改名してリリオ公国とエスクード公国になった。
ともかくこれは不当な統治権の簒奪だとおれは思った。
しかし元君主を家族もろとも皆殺しにする革命のような激しさはなかったようだ。
そこにあった日記の最後はミーヤの祖父が書いていた。
国家が分裂すれば戦争が起こり得る。
そうなるとインテルメディオ全体が滅亡するのではないか、力及ばず先祖に申し訳ないと彼は書いていた。
それぞれの家の名前は本来の序列を暗示していた。
退位したばかりの旧王家はなお民衆に人気があり、それを利用するために当時の公爵は配慮した。
いまおれが居候している邸宅は王の別荘だった。
これだけを残して住むこと、騎士にしては立派過ぎる馬車に乗るなど、かつての王家の栄光の一部だけ権利として残した。


 公の図書館では歴史文書が都合の良いように書き換えられ、アルバ家の隠し部屋にあったような反証情報が徹底的に除かれていた。
牧歌的に見えるインテルメディオにも悪知恵を発揮した者がいたようだ。
歴史教育も同じことで昔の真実はひた隠しに隠されている。
孫の代になってミーヤは護衛官としてフリアーナに仕えている。
本来屈辱的な主従逆転だがわだかまりも無く、明らかに信頼感がある。
ミーヤも真実の歴史を知らない。
しかしフリアーナはどうだろうか。公爵家であり支配者である彼女の家または宮殿倉庫には古い伝承があるはずだ。
少なくとも両公国で王国の領土分割をしたときに取り交わしたはずの相互不可侵の宣誓文ぐらいはないとおかしい。
おれは何しにここへ来たのか、答えが見つかったような気がした。
ミーヤを王位に復位させるためにおれが天から遣わされた、なんちゃって。
だがそれは白い母から聞いていたおれの使命とはなんか違和感がある。
話がちっちゃい? 
だが真実を知ってしまったら人間ならば何も義務が無いとは言えない。
落ち着かなくなってきた。
しかしおれは偶然選ばれて吹き飛ばされるようにやって来た一介の風来坊にすぎない。
おれは特別な能力など無いうえに元の世界の人生を途中で失ってこの世界に来たのに何をすべきか分らない。
悪政が行われているならともかく平和で民衆は生活を楽しんでいるように見えるのに、このままでも悪くない気もする。
再び思った。
おれはいなくてもいいんじゃないか、と。

 記録を調べた限り大きな天変地異は無かった。
気候も穏やかなままで飢饉も無く、疫病の流行も記録が無い。
それに加えて単純な経済システムと、あのつまんない性行為だ。
富と美人の価値が、激しく美女を奪い合う現世界ほどでない。
執着しないので強奪などが起こりにくい。
性行為があのやり方だと簡単に理性で制御できるから人口の増減も制御しやすい。
昔から変わらない生活を続けることがこの小さな世界を維持するためには一番の方法なのだと思われる。
社会が変化しているときや大災害のとき人々は痛みを感じるが、平穏であればどんな社会でも人々はそこそこ幸せと思う。
それを理解しない冒険心に富む若者はこの世界にはいないようだ。
定常的に世界が動いているとき不満はない。
人々の性格も穏やかになる。
もし個人の寿命が原始時代くらいの短かさだったら焦る者も出てくる。
そして自分だけ抜きんでようとしゃにむになって働き豊かになろうと思った途端閉じた世界は不安定に渦巻き始め、穏やかな生活は無くなる。
しわ寄せは不公平をもたらし、タチの悪い扇動者が出たら社会が崩壊する。
崩壊したら個人も生きてゆくのが困難になる。

 事実を知った責任を感じたが、おれはどうしたらいいのか判らなかった。
あるときセナイダに

「何かある時は必ずミーヤに味方するよ」

と言うと婆さんはほほ笑みながら頷(うなづ)いた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)

MisakiNonagase
現代文学
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

【アラウコの叫び 】第1巻/16世紀の南米史

ヘロヘロデス
歴史・時代
【毎日07:20投稿】 1500年以降から300年に渡り繰り広げられた「アラウコ戦争」を題材にした物語です。 マプチェ族とスペイン勢力との激突だけでなく、 スペイン勢力内部での覇権争い、 そしてインカ帝国と複雑に様々な勢力が絡み合っていきます。 ※ 現地の友人からの情報や様々な文献を元に史実に基づいて描かれている部分もあれば、 フィクションも混在しています。 また動画制作などを視野に入れてる為、脚本として使いやすい様に、基本は会話形式で書いています。 HPでは人物紹介や年表等、最新話を先行公開しています。 公式HP:アラウコの叫び youtubeチャンネル名:ヘロヘロデス insta:herohero_agency tiktok:herohero_agency

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー

黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた! あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。 さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。 この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。 さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

愛しているなら拘束してほしい

守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

処理中です...