夏至祭の時空の彼方

有嶺哲史

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第四章  帰還

カルメン

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 眼を開けるとおれはベッドに寝かされて、すぐ横にカルメンが床に膝をついておれを覗き込んでいた。
咄嗟におれは叫んだ。

「あっ! 黒宰相、策女、毒婦、ヴァンピール!」

すると月面以来久し振りに白い母の声が聞こえた。

「吸血鬼だと? バカ! くたばりかけて伸びちまったおまえを介抱してくれた、気立てのいい子だよ」

やけに下品な言葉だなあ、と思ったら初老の母のダミ声だった。
おれは少し混乱した。
現世界の母だ。
若い時は上品だったのに。

あくびをしたとき吸い込んだ空気の匂い、味、爽やかさに自分の故郷を感じた。
何度も深呼吸をした。
日没のときだった。
窓の外を見ると偉大な山々の峰を残照が染めていた。

 すっかり邪気が抜けたように、間近で見るカルメンには乙女らしい清潔感と柔らかさがあった。
心配そうに震える青い眼は優しく可憐で美しい。
以前はこんなこと感じなかった。
なんと、いつもなら見下すような勝気な上がり眉が天に祈るような下がり眉に変わっていた。

「カルメン、どういうこと?」

彼女はやさしい声で言った。

「アンタは望遠鏡を覗いていた時急に気を失ったのでここに運んで来たのよ」

「まさか。月へ行き、別の宇宙へ行ったあの大冒険が夢だと? 君も行ったじゃないか?」

しかし言われてみれば望遠鏡を覗いていたのはついさっきのようで時間も経っていないような気がする。
いやいや、またいつものようにカルメンに言いくるめられようとしているかもしれない。

母が出て行って二人だけになった時カルメンが、耳に息がかかるほど近づいて小声で訊いた。
このときおれは初めて彼女が異性であることを肌で感じて恥ずかしかった。

「アタシたち一緒にどこかに行っていたって、何のこと?」

おれは起き上がり、あの大冒険をかいつまんで話した。
勿論いろいろあった恥ずかしいことは言わなかった。
すると

「なぜアタシたちだけがここにいるの? 他の皆はどこへ行ったの?」

カルメンはおれの話を最後まで聞いたのだ。
以前の彼女ならおれがしゃべり始めた途端ダッハッハッと笑い飛ばし、しょっぱなでおれの話の腰を折るところだ。
確かに彼女は素直になった。

「おれたち二人だけが戻ってきたのか? まさか。皆本当に消えてしまったのか。長い間文明の発展を止めてまで平和に暮らしていた人々だったのに、我々の出現がきっかけで戦争も起こり空間も崩壊して結局その世界ごと消えてしまったのだろうか」

「……アタシのせいだ。人々をけしかけたアタシがいけなかった。みんな、ごめんなさい。ワーッ」

それは嘘泣きだと思ってほうっておいてしばらく考えた。
そして独り言を言った。

「我々がいなくても狭い世界に二国が並立すると常に戦争の種は芽生える。よほどおとなしく生きていなければいずれ戦争は起こる。もともと空間構造に不安定なタネを持つ宇宙の中で大勢が同時に動けば世界の崩壊の引き金となる。そうでなくても宇宙構造がややこしそうな中間界は、いつかは重力崩壊する運命にあった。戦争の絶えない現世界で発達した知識をおれが素人なりにも持っていたおかげで中間界の人々は転生という形で避難できた。彼等は現世界に来たのだ」

カルメンはケロッと泣き止み興味津々で

「現世界への避難のからくり、アンタならどう説明する? 面白そうだから聞かせてよ」

「真実を確かめるすべはない。おれは専門家でもないし間違っているかもしれないよ」

「まずアンタが聞かせてくれたらアタシの考えた解釈を言うわっ!」

話を聞く前から異論を用意しているとはいつものカルメンらしい。
おれがしゃべり終わった途端機関銃のように反論するのだろうか。
下がり眉毛になっていたのに水平眉毛まで戻っていた。
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