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第四章 帰還
時空の旅の全否定?
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ここからは、おれの憶測である。
正しいという保証は無い。
「母宇宙・子宇宙の存在を前提としよう。母宇宙の中に現世界と中間界をつなぐ太い道があったが不安定だった。その入り口がたまたま望遠鏡あたりを通過するときおれと君を吸い込んだ。しかし不安定なので一度月に取り落とした。月で呼吸が出来たのはおれ達の周囲の地球の時空もひっぱっていったからだろう」
「でも、『嫌だ』と言う言葉でなぜ月まで飛んでいったの? なぜその言葉が効いたの?」
「偶然の一致だと思う」
「あっ、そう。でも他の宇宙というものが存在しても原理的に観測さえ出来ないよ」
「宇宙間の道を往くという、観測とは違う方法でかかわりを持ったと考えられる」
月の母は他に誰も見ていない。
自分が作り出した幻影だから穴に入る前に間違いに気づけなかったのだ。
極めて宗教的奇跡的体験をしたと思ったのに、ただの幻影だったとは残念だ。
おれが初めてフリアーナに会って説明した月の母は偶然彼女の生母とそっくりだったのだろう。
いかに不思議でも偶然の一致はあり得る。
「憶測を進めよう」
そこからカルメンにおかまいなくしゃべっていった。
聞きながら彼女はポワンとなっていった。
「インテルメディオに崩壊が迫り最後にみんなで入ったあのチャンネルのことだが……後で思えばあれはブラックホールではなかった気がする。現世界では球体をしているブラックホールだが高次元の母宇宙では土星型や二重ドーナッツ型など多様な形態を取り得る。中には細長い道のような形で、途切れたり繋がったりを繰り返すものもある。そのまわりに安定な軌道が存在すればそれを使って移動できる。ところが月経由で地球の時空を引きずっていたおれと君が皆と同じようにあの細いチャンネルを通って地球に戻ったら現世界の時空にループが出来てしまう。それではタイムパラドックスが起きるので時空に嫌われ跳ね返された。ブラックホールの強い潮汐力ゆえに体が引き裂かれたと思ったあの現象は、おれと君の肉体が地球に戻ってくる転換点の現象だったのだ。そして月に飛ばされる前の庭先にいた時点に戻された」
「よくわからなかったけど、途中の月まで戻ったところで放置されなくてよかったね。あちらの世界に何年もいたのにこちらに戻ってきたとき時間が経っていなかったのはなぜ?」
「現世界、中間界いずれも別々の時間が流れている。中間界の中でそこの時間で大冒険が進行していたが戻る先は地球での出発時点なのが当然だろう」
「アタシたちは皆と同じようにチャンネルを通って現世界に行かなかったの?」
「分身が出来て行っている可能性が有る。その経路には人の情報を伝える機能もあって、時空にはじき返される直前に我々二人の情報は既に取り出されていて経路を伝って地球に来たのだろう。吐き出された情報により逆の過程、すなわち情報から実体への再構成=転生が起こった。神経ネットワークの意識情報が地球のどこかの胎児の脳にコピーされて、おれたち二人もどこかで生まれかわって転生が成就しているだろう」
「人は生まれた時の星座に影響されるという星占いみたいね」
「おれ達みたいにオリジナルがここに残りながら同時に転生もした人は他にいないだろう。中間界の人々は既に到着して転生していると思う。それぞれの人が自分に似た相手を見つけて乗り移ったのだ。皆はおそらく今から数十年前の地球に来た。個人ごとに時間差があって、老人は少し前の、子供は少し後の時代で転生する相手を探す」
「過去に来た? うはぁ~、ぎゃあぁ! ちょっと待ってよ。精神の情報だけだから小規模とはいえやっぱり過去の改変になる。これではやっぱりタイムパラドックスが起るわ。タイムトラベルが禁止されている理由は?」
「因果関係を破壊するからだ。それでも有るとすれば過去が改変される時点に遡ってそこから世界が分岐するからだ、ってのはどう?」
「たまに聞く説明だけど、タイムトラベルは因果関係を破壊するって言ったよね。物理学は因果関係が大前提。だから物理学的説明は全部間違いよっ!」
「なるほど。おっしゃるとおりかも」
おれの気楽な出まかせは簡単に破られた。
「過去に来たと考えるからおかしくなる。インテルメディオの現在からは現世界の三十年前が見えているのだ。いや、よく解らなくなってきた」
「じゃあ、このアタシと転生者のアタシは二重身になっているの?」
「別人と見るべきだ。転生する前の人に転生後のことは判らない。転生後の人にとって転生前は自分の人生ではなく、その記憶は記憶というより幻影だと感じる。しかし転生によって無意識に前世の心残りに動かされることはあり得る。前世の記憶が断片的に思い出されてもそれは夢と区別がつかないだろう」
おれの話が終わったと見たカルメンは胸を張って自信ありげにニッと笑った。
「それじゃあアタシの解釈を言うわ! すべてはアンタが望遠鏡を覗いているとき失神したあとの、僅かな時間に見た夢なのよ」
「夢だと? それじゃあ今までの壮大な冒険が全部パーだ。でも、なぜ失神したと?」
「あのときアンタはとても眠そうだったわ。アタシも望遠鏡をのぞこうとしたら、あの匂いよ。凄かったわよ。アンタペンキをどんだけ使ったの? 揮発性物質の中毒で失神したのよ」
カルメンの全否定論はものすごく簡単だった。
「薬剤の影響で見た夢だとすれば、唐突に月に飛ばされて白い母を見た不自然さも納得できる。しかしその続きがあまりに長いことは変じゃないか」
とはいえ登場する美女達がみんな主人公に恋するなんてのも変だ。
あれ? カルメンの眉毛が元の上がり眉毛に戻りかかっている。
そのとき思い出した。
「君はその〝夢〟の中で……憶えているか? おれの寝室に入ってきて眼の前のテーブルに乗ってドレスをたくし上げて裸の下半身を露出して、さらに自分の手で左右に開いてポッカリと……」
「あっ!」
急にカルメンは落ち着きを無くした。
「そっ、それはアンタのいやらしい性欲が作り出した夢よっ! そうよ、夢よっ!」
「左の尻のできものは太かったなあ」
カルメンは赤くなった。
「あの状況でそっちの方を見てたの? アンタも変わってるね。できものはアッチの世界で太ったけど今もあるわ!」
「じゃあ、そのことを認めるならインテルメディオが実際に存在していたことも認めるね?」
「そういうことにしようか。今のテーブルの話だけは忘れてね、夢じゃないとするならね!」
彼女の尻のできものは大冒険を全否定から救った。
横に酸素ボンベのようなものが転がっていた。
正しいという保証は無い。
「母宇宙・子宇宙の存在を前提としよう。母宇宙の中に現世界と中間界をつなぐ太い道があったが不安定だった。その入り口がたまたま望遠鏡あたりを通過するときおれと君を吸い込んだ。しかし不安定なので一度月に取り落とした。月で呼吸が出来たのはおれ達の周囲の地球の時空もひっぱっていったからだろう」
「でも、『嫌だ』と言う言葉でなぜ月まで飛んでいったの? なぜその言葉が効いたの?」
「偶然の一致だと思う」
「あっ、そう。でも他の宇宙というものが存在しても原理的に観測さえ出来ないよ」
「宇宙間の道を往くという、観測とは違う方法でかかわりを持ったと考えられる」
月の母は他に誰も見ていない。
自分が作り出した幻影だから穴に入る前に間違いに気づけなかったのだ。
極めて宗教的奇跡的体験をしたと思ったのに、ただの幻影だったとは残念だ。
おれが初めてフリアーナに会って説明した月の母は偶然彼女の生母とそっくりだったのだろう。
いかに不思議でも偶然の一致はあり得る。
「憶測を進めよう」
そこからカルメンにおかまいなくしゃべっていった。
聞きながら彼女はポワンとなっていった。
「インテルメディオに崩壊が迫り最後にみんなで入ったあのチャンネルのことだが……後で思えばあれはブラックホールではなかった気がする。現世界では球体をしているブラックホールだが高次元の母宇宙では土星型や二重ドーナッツ型など多様な形態を取り得る。中には細長い道のような形で、途切れたり繋がったりを繰り返すものもある。そのまわりに安定な軌道が存在すればそれを使って移動できる。ところが月経由で地球の時空を引きずっていたおれと君が皆と同じようにあの細いチャンネルを通って地球に戻ったら現世界の時空にループが出来てしまう。それではタイムパラドックスが起きるので時空に嫌われ跳ね返された。ブラックホールの強い潮汐力ゆえに体が引き裂かれたと思ったあの現象は、おれと君の肉体が地球に戻ってくる転換点の現象だったのだ。そして月に飛ばされる前の庭先にいた時点に戻された」
「よくわからなかったけど、途中の月まで戻ったところで放置されなくてよかったね。あちらの世界に何年もいたのにこちらに戻ってきたとき時間が経っていなかったのはなぜ?」
「現世界、中間界いずれも別々の時間が流れている。中間界の中でそこの時間で大冒険が進行していたが戻る先は地球での出発時点なのが当然だろう」
「アタシたちは皆と同じようにチャンネルを通って現世界に行かなかったの?」
「分身が出来て行っている可能性が有る。その経路には人の情報を伝える機能もあって、時空にはじき返される直前に我々二人の情報は既に取り出されていて経路を伝って地球に来たのだろう。吐き出された情報により逆の過程、すなわち情報から実体への再構成=転生が起こった。神経ネットワークの意識情報が地球のどこかの胎児の脳にコピーされて、おれたち二人もどこかで生まれかわって転生が成就しているだろう」
「人は生まれた時の星座に影響されるという星占いみたいね」
「おれ達みたいにオリジナルがここに残りながら同時に転生もした人は他にいないだろう。中間界の人々は既に到着して転生していると思う。それぞれの人が自分に似た相手を見つけて乗り移ったのだ。皆はおそらく今から数十年前の地球に来た。個人ごとに時間差があって、老人は少し前の、子供は少し後の時代で転生する相手を探す」
「過去に来た? うはぁ~、ぎゃあぁ! ちょっと待ってよ。精神の情報だけだから小規模とはいえやっぱり過去の改変になる。これではやっぱりタイムパラドックスが起るわ。タイムトラベルが禁止されている理由は?」
「因果関係を破壊するからだ。それでも有るとすれば過去が改変される時点に遡ってそこから世界が分岐するからだ、ってのはどう?」
「たまに聞く説明だけど、タイムトラベルは因果関係を破壊するって言ったよね。物理学は因果関係が大前提。だから物理学的説明は全部間違いよっ!」
「なるほど。おっしゃるとおりかも」
おれの気楽な出まかせは簡単に破られた。
「過去に来たと考えるからおかしくなる。インテルメディオの現在からは現世界の三十年前が見えているのだ。いや、よく解らなくなってきた」
「じゃあ、このアタシと転生者のアタシは二重身になっているの?」
「別人と見るべきだ。転生する前の人に転生後のことは判らない。転生後の人にとって転生前は自分の人生ではなく、その記憶は記憶というより幻影だと感じる。しかし転生によって無意識に前世の心残りに動かされることはあり得る。前世の記憶が断片的に思い出されてもそれは夢と区別がつかないだろう」
おれの話が終わったと見たカルメンは胸を張って自信ありげにニッと笑った。
「それじゃあアタシの解釈を言うわ! すべてはアンタが望遠鏡を覗いているとき失神したあとの、僅かな時間に見た夢なのよ」
「夢だと? それじゃあ今までの壮大な冒険が全部パーだ。でも、なぜ失神したと?」
「あのときアンタはとても眠そうだったわ。アタシも望遠鏡をのぞこうとしたら、あの匂いよ。凄かったわよ。アンタペンキをどんだけ使ったの? 揮発性物質の中毒で失神したのよ」
カルメンの全否定論はものすごく簡単だった。
「薬剤の影響で見た夢だとすれば、唐突に月に飛ばされて白い母を見た不自然さも納得できる。しかしその続きがあまりに長いことは変じゃないか」
とはいえ登場する美女達がみんな主人公に恋するなんてのも変だ。
あれ? カルメンの眉毛が元の上がり眉毛に戻りかかっている。
そのとき思い出した。
「君はその〝夢〟の中で……憶えているか? おれの寝室に入ってきて眼の前のテーブルに乗ってドレスをたくし上げて裸の下半身を露出して、さらに自分の手で左右に開いてポッカリと……」
「あっ!」
急にカルメンは落ち着きを無くした。
「そっ、それはアンタのいやらしい性欲が作り出した夢よっ! そうよ、夢よっ!」
「左の尻のできものは太かったなあ」
カルメンは赤くなった。
「あの状況でそっちの方を見てたの? アンタも変わってるね。できものはアッチの世界で太ったけど今もあるわ!」
「じゃあ、そのことを認めるならインテルメディオが実際に存在していたことも認めるね?」
「そういうことにしようか。今のテーブルの話だけは忘れてね、夢じゃないとするならね!」
彼女の尻のできものは大冒険を全否定から救った。
横に酸素ボンベのようなものが転がっていた。
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