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第四章 帰還
サン・ジョアンの火祭り
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カルメンは再びおれを見上げた。
下がり眉毛になった。
それを見ておれは彼女に勝ったと思い調子に乗った。
彼女の格好は、信心深い田舎娘が平べったい胸に手を当てているように見えた。
このときおれはシーツを被り右手を彼女の方に差し出していた。
我々二人の姿は何かに似ている、そうだ、受胎告知の大天使と聖母だ。
北欧的ノルマン顔の開ききった青い眼に魂の善良さを感じた。
以前のように彼女を嫌いと思わなくなり可愛さを感じていた。
もはや中間界にいた黒宰相ではないので奸智を巡らすこともないだろうし、話を合わせてくれるので昔のようにおれに嫌味なかかわり方をすることもないだろう。
おれの気分は最高になり、閃いた出まかせを突然厳かに託宣した。
「君の邪悪な部分は転生した方にすべて持ち去られた。無原罪となったカルメンは愛されよう。金色のピレネー百合よ、汝はなんと純潔で高貴なことよ!」
彼女は唖然とした。
おれは花瓶から百合を引き抜き、カルメンに差し出した。
彼女は花を受け取り、それに顔を寄せて言った。
「黄金のアル!」
「何っ! 黄金のアルだと?」
天使の声だと思っていたのはカルメンの声だったのか。
体を揺すり目を醒ませ、と言ったのは白い母ではなく地上の母だったかもしれない。
やっぱりおれは家で寝ていたのか。
でも実際に時空の彼方に飛んで行ってそこでの大冒険を終わり元の時刻に戻ったと考えても問題ない?
いや、月で天使の声を聞いたおれと、ベッドの横のカルメンの声を聞いたおれが重なっている。
すると、おれはあのとき二重に存在していたことになる。
どちらのおれが本当のおれか?
うわぁ、なんてことだ。
その時隣室から退屈そうなダミ声が聞こえた。
さっきからのカルメンの声が怪しく悶えるように聞こえたらしい。
「そこで、二人で何やってんのよ」
我に返ったおれは寸劇を止めた。
彼女は小声で言った。
「ところで転生した方のアタシは邪悪の塊になっているの?」
「地球に来る途中で道が捻じれたのだと思えばよい。表裏が反転して邪悪な田舎娘が大帝国の善良な皇女に生まれ変わっているだろう」
それを聞いたカルメンは嘘本当すべて包み込んでおしまい、という聖母のような微笑みをした。
「そうなの。善人に生まれ変わっているならよかった」
「おれの生まれ変わりはどこの誰だろう。一緒に転生した人々も近くにいて関わり合っているのだろうなあ」
こういった時に大事なことをすべて中途半端にほったらかしてきたことに気づいた。
騎士道的恋、隠された真実の歴史、これら全てを自分の分身が背負って転生した。
そう思ったとき記憶の鮮度が急に落ちてきて本当に夢のように消え始めた。
早めに書き残さなければ、と思った。
そのとき子供のような笑顔でカルメンは
「ねえ、サン・ジョアンの祭りに行こうよアル。今からでも。ねえ行こうよ、ねえったらあ」
すぐに二人はサン・ジョアンの火祭りに行った。
それでこの冒険譚は村の年代記に記録されることはなかった。
山中の松明行列は既に終わって火祭りは中盤にさしかかり、大勢の人々が音楽に合わせて踊っていた。
その中に入るとすぐに手拍子が始まり、皆に囲まれて二人が踊った。
こんなに嬉しそうに踊るカルメンは見たことがなかった。
夏至の短い夜は終わり、どこまでも爽やかな南フランスの初夏の朝がやってきた。
(第一部 夏至祭の時空の彼方 終わり)
下がり眉毛になった。
それを見ておれは彼女に勝ったと思い調子に乗った。
彼女の格好は、信心深い田舎娘が平べったい胸に手を当てているように見えた。
このときおれはシーツを被り右手を彼女の方に差し出していた。
我々二人の姿は何かに似ている、そうだ、受胎告知の大天使と聖母だ。
北欧的ノルマン顔の開ききった青い眼に魂の善良さを感じた。
以前のように彼女を嫌いと思わなくなり可愛さを感じていた。
もはや中間界にいた黒宰相ではないので奸智を巡らすこともないだろうし、話を合わせてくれるので昔のようにおれに嫌味なかかわり方をすることもないだろう。
おれの気分は最高になり、閃いた出まかせを突然厳かに託宣した。
「君の邪悪な部分は転生した方にすべて持ち去られた。無原罪となったカルメンは愛されよう。金色のピレネー百合よ、汝はなんと純潔で高貴なことよ!」
彼女は唖然とした。
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「黄金のアル!」
「何っ! 黄金のアルだと?」
天使の声だと思っていたのはカルメンの声だったのか。
体を揺すり目を醒ませ、と言ったのは白い母ではなく地上の母だったかもしれない。
やっぱりおれは家で寝ていたのか。
でも実際に時空の彼方に飛んで行ってそこでの大冒険を終わり元の時刻に戻ったと考えても問題ない?
いや、月で天使の声を聞いたおれと、ベッドの横のカルメンの声を聞いたおれが重なっている。
すると、おれはあのとき二重に存在していたことになる。
どちらのおれが本当のおれか?
うわぁ、なんてことだ。
その時隣室から退屈そうなダミ声が聞こえた。
さっきからのカルメンの声が怪しく悶えるように聞こえたらしい。
「そこで、二人で何やってんのよ」
我に返ったおれは寸劇を止めた。
彼女は小声で言った。
「ところで転生した方のアタシは邪悪の塊になっているの?」
「地球に来る途中で道が捻じれたのだと思えばよい。表裏が反転して邪悪な田舎娘が大帝国の善良な皇女に生まれ変わっているだろう」
それを聞いたカルメンは嘘本当すべて包み込んでおしまい、という聖母のような微笑みをした。
「そうなの。善人に生まれ変わっているならよかった」
「おれの生まれ変わりはどこの誰だろう。一緒に転生した人々も近くにいて関わり合っているのだろうなあ」
こういった時に大事なことをすべて中途半端にほったらかしてきたことに気づいた。
騎士道的恋、隠された真実の歴史、これら全てを自分の分身が背負って転生した。
そう思ったとき記憶の鮮度が急に落ちてきて本当に夢のように消え始めた。
早めに書き残さなければ、と思った。
そのとき子供のような笑顔でカルメンは
「ねえ、サン・ジョアンの祭りに行こうよアル。今からでも。ねえ行こうよ、ねえったらあ」
すぐに二人はサン・ジョアンの火祭りに行った。
それでこの冒険譚は村の年代記に記録されることはなかった。
山中の松明行列は既に終わって火祭りは中盤にさしかかり、大勢の人々が音楽に合わせて踊っていた。
その中に入るとすぐに手拍子が始まり、皆に囲まれて二人が踊った。
こんなに嬉しそうに踊るカルメンは見たことがなかった。
夏至の短い夜は終わり、どこまでも爽やかな南フランスの初夏の朝がやってきた。
(第一部 夏至祭の時空の彼方 終わり)
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