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変わりゆく王国
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◇◇◇
レガーリア王国の玉座の間にて
玉座には国王アルガストが座り、第二王子であるライエル、宰相リシュア、冒険者ギルドのギルドマスターであるダグラン、そして知に長けていると評判の第一王子ウィリスが側に控えていた。
「陛下、近頃王都周辺に多数の魔物が出現しており、行商人や旅人から不満が上がっております」
宰相であるリシュアは王都の現状をアルガストに報告する。
「だが冒険者は、魔物の素材が取り放題で大喜びだぜ」
反論したのは王の御前であろうが態度を変えない、冒険者ギルドの長であるダグランだ。
「しかし被害に遭っている者もいます。やはりこれは聖女様のお力がなくなったせいではないかと」
聖女という名前が出てきたことで、ライエルの顔が歪む。
「被害が出ていると言っても微々たるものだ。ならば私が兵を率いて魔物を退治してやろう。さすれば民の王家への忠誠心もさらに上がり、一石二鳥ではないか」
「おお! ライエルよ! そなたの勇気ある行動、余は頼もしく思うぞ」
息子の言動に喜びを見せるアルガスト。だがその光景を見て、心の中でため息をつく者が二人いた。
「ライエル王子。魔物討伐はおやめになられた方がよろしいかと」
「なぜだ!」
「魔物の数は増加しているだけではありません。今まで見たことのない強力な魔物もいると聞いています」
「まさかこの私が負けるとでも思っているのか!」
「いえ、そのようなことは⋯⋯ですがライエル様はレガーリア王国にとって大切なお方。わざわざ危険なことをされなくてもよろしいかと」
「リシュア! お前は私を舐めているな! その程度のことは兄上と違って私には造作もない。行くぞダグラン!」
そしてライエルは怒りを露にしながら、ダグランと共に玉座の間を去る。
「ふう⋯⋯ライエル王子も困ったものですな。以前はもう少しこちらの意見も取り入れてくれたものですが」
「確かにライエルは以前より傲慢になっています。父上、このままでよろしいのですか?」
「だが魔物は誰かが討伐せねばならぬ。ライエルがやらならそれでよいではないか」
ウィリスとリシュアは再び心の中でため息をつく。
「父上、聖女様がいなくなってからこの国は少しずつおかしくなっています。そのことがおわかりですか?」
「魔物が多少増えただけであろう。さして大きな問題ではあるまい」
ここで二人は三度目のため息をつく。
「それだけではありませんよ」
「ウィリス王子の仰る通りです。作物の育ちがここ数日でとても悪くなっています」
「それは偶々気候の影響で悪くなっているだけではないか?」
「ここ数日⋯⋯いえ、今年の気候は例年と同じです。このままでは昨年の半分程の収穫量になるかもしれません」
「半分だと! それでは我が国が食糧難になってしまうぞ!」
「ですから聖女の力の重要性について、父上に報告しているのです」
「もしそれが本当なら大変なことではないか!」
アルガストは基本、都合が良い言葉しか耳に入らないため、聖女の力について頭から抜け落ちていたのだ。
「だが聖女は横領し、私腹を肥やしていたと聞いている。ライエルの決断も強ち間違ってはいないと思うが」
「そのことに関してですが、少し私に時間を下さいませんか? 以前聖女リリアと会った時は、とてもそのようなことをする人物には見えませんでした。これには何か裏があるように思えてなりません」
「裏だと?」
「はい。それにライエルが婚約者と紹介した侯爵令嬢。彼女からも何やらきな臭いものを感じます」
「まさかイザベラが聖女を陥れたというのか!」
「それは詳しく調べてみないとわかりません」
アルガストは二人の言葉を聞いて、いくらライエルの意見とはいえ、聖女を追放してしまったことを後悔し始めていた。
「ともかく今は、ライエルの討伐が上手く行くことを願うだけですが」
だがウィリスのその願いは、経った一日で脆くも崩れ去るのであった。
翌日夕方、王城の救護室にて
「くそっ! どいつもこいつも使えない奴ばかりだ!」
ベッドに座っているライエルは、右側にあるガラスのコップを左手で取り、壁に投げつける。
「ライエル王子、落ち着いて下され。すぐに他の者をお連れ致しますので」
「早くしろ!」
ライエルは苛立ち荒れていた。
何故なら見たことのない魔物の襲撃を受け、右手を食われてしまったからだ。
幸い回復魔法によって止血は済んでいるが、肘より先はなく、魔物討伐を甘く見ていた代償を払うことになってしまったのだ。
「本当に大丈夫なのか! さっきの奴も失くした腕を再生できなかったではないか!」
レガーリア王国では、失くした身体の一部を魔法で再生できる者が四人いる。一人は聖女であるリリアで、残りの三人の内の二人は既にライエルに回復魔法をかけて失敗しているのだ。
「王子であるこの私に片腕がないなど、屈辱以外の何者でもないぞ!」
「お、お待たせ致しました」
血相をかいた救護員と教会の枢機卿、そしてウィリス王子が部屋に入ってきた。
「早く私の腕を治せ!」
「はっ! 承知しました。私はこれまで何百人も失くした腕や足を治したことがあります。安心してお待ち下さい」
「うむ。頼むぞ」
枢機卿は、王国で一番の回復魔法が使えることをライエルも知っていた。そのため自分の腕は治ると信じて疑わなかったが、結果は⋯⋯
「貴様! どういうことだ!」
「そ、そんなバカな⋯⋯こんなこと今まで一度も⋯⋯」
王国一の回復魔法の使い手でも、ライエルの腕が治ることはなかった。
「まさかこれは兄上の仕業か! 王位継承争いで自分が有利に立つために⋯⋯なんという卑劣なことを!」
ライエルは腕が治らなかったショックのせいなのか、ありもしない妄想を掻き立てる。
「バカなことを言うなライエル」
「兄上は私の醜態を見にきたというわけか!」
「違う」
「ならなぜ私の腕は⋯⋯」
ライエルは怒りで握った拳をベッドに下ろす。
「⋯⋯何故ライエルの腕が治らないのか。一つだけ思い当たることが」
「それはなんだ!」
「聖女の力だ」
「聖女の力⋯⋯だと⋯⋯」
「そうだ。お前が追放した聖女の力は、ここにいる者達の能力を引き上げていたのだ。だから聖女リリアが王国から去ることによって、この者達の力も本来あるべきものに戻ったらという訳だ」
「そんなバカな⋯⋯聖女の力は本当にあったというのか」
「そうとしか考えられない。お前は自分が犯した失態のせいで、これから一生腕が治らないかもしれないな」
ウィリスはそう言葉を残して救護室を去る。
「一生このまま⋯⋯だと⋯⋯そんなバカなことがあるか! うわぁぁぁぁっ!」
そして自分の選択ミスを悔やんでいるのか、その日はライエルの喚き声が一晩中部屋に鳴り響くのであった。
レガーリア王国の玉座の間にて
玉座には国王アルガストが座り、第二王子であるライエル、宰相リシュア、冒険者ギルドのギルドマスターであるダグラン、そして知に長けていると評判の第一王子ウィリスが側に控えていた。
「陛下、近頃王都周辺に多数の魔物が出現しており、行商人や旅人から不満が上がっております」
宰相であるリシュアは王都の現状をアルガストに報告する。
「だが冒険者は、魔物の素材が取り放題で大喜びだぜ」
反論したのは王の御前であろうが態度を変えない、冒険者ギルドの長であるダグランだ。
「しかし被害に遭っている者もいます。やはりこれは聖女様のお力がなくなったせいではないかと」
聖女という名前が出てきたことで、ライエルの顔が歪む。
「被害が出ていると言っても微々たるものだ。ならば私が兵を率いて魔物を退治してやろう。さすれば民の王家への忠誠心もさらに上がり、一石二鳥ではないか」
「おお! ライエルよ! そなたの勇気ある行動、余は頼もしく思うぞ」
息子の言動に喜びを見せるアルガスト。だがその光景を見て、心の中でため息をつく者が二人いた。
「ライエル王子。魔物討伐はおやめになられた方がよろしいかと」
「なぜだ!」
「魔物の数は増加しているだけではありません。今まで見たことのない強力な魔物もいると聞いています」
「まさかこの私が負けるとでも思っているのか!」
「いえ、そのようなことは⋯⋯ですがライエル様はレガーリア王国にとって大切なお方。わざわざ危険なことをされなくてもよろしいかと」
「リシュア! お前は私を舐めているな! その程度のことは兄上と違って私には造作もない。行くぞダグラン!」
そしてライエルは怒りを露にしながら、ダグランと共に玉座の間を去る。
「ふう⋯⋯ライエル王子も困ったものですな。以前はもう少しこちらの意見も取り入れてくれたものですが」
「確かにライエルは以前より傲慢になっています。父上、このままでよろしいのですか?」
「だが魔物は誰かが討伐せねばならぬ。ライエルがやらならそれでよいではないか」
ウィリスとリシュアは再び心の中でため息をつく。
「父上、聖女様がいなくなってからこの国は少しずつおかしくなっています。そのことがおわかりですか?」
「魔物が多少増えただけであろう。さして大きな問題ではあるまい」
ここで二人は三度目のため息をつく。
「それだけではありませんよ」
「ウィリス王子の仰る通りです。作物の育ちがここ数日でとても悪くなっています」
「それは偶々気候の影響で悪くなっているだけではないか?」
「ここ数日⋯⋯いえ、今年の気候は例年と同じです。このままでは昨年の半分程の収穫量になるかもしれません」
「半分だと! それでは我が国が食糧難になってしまうぞ!」
「ですから聖女の力の重要性について、父上に報告しているのです」
「もしそれが本当なら大変なことではないか!」
アルガストは基本、都合が良い言葉しか耳に入らないため、聖女の力について頭から抜け落ちていたのだ。
「だが聖女は横領し、私腹を肥やしていたと聞いている。ライエルの決断も強ち間違ってはいないと思うが」
「そのことに関してですが、少し私に時間を下さいませんか? 以前聖女リリアと会った時は、とてもそのようなことをする人物には見えませんでした。これには何か裏があるように思えてなりません」
「裏だと?」
「はい。それにライエルが婚約者と紹介した侯爵令嬢。彼女からも何やらきな臭いものを感じます」
「まさかイザベラが聖女を陥れたというのか!」
「それは詳しく調べてみないとわかりません」
アルガストは二人の言葉を聞いて、いくらライエルの意見とはいえ、聖女を追放してしまったことを後悔し始めていた。
「ともかく今は、ライエルの討伐が上手く行くことを願うだけですが」
だがウィリスのその願いは、経った一日で脆くも崩れ去るのであった。
翌日夕方、王城の救護室にて
「くそっ! どいつもこいつも使えない奴ばかりだ!」
ベッドに座っているライエルは、右側にあるガラスのコップを左手で取り、壁に投げつける。
「ライエル王子、落ち着いて下され。すぐに他の者をお連れ致しますので」
「早くしろ!」
ライエルは苛立ち荒れていた。
何故なら見たことのない魔物の襲撃を受け、右手を食われてしまったからだ。
幸い回復魔法によって止血は済んでいるが、肘より先はなく、魔物討伐を甘く見ていた代償を払うことになってしまったのだ。
「本当に大丈夫なのか! さっきの奴も失くした腕を再生できなかったではないか!」
レガーリア王国では、失くした身体の一部を魔法で再生できる者が四人いる。一人は聖女であるリリアで、残りの三人の内の二人は既にライエルに回復魔法をかけて失敗しているのだ。
「王子であるこの私に片腕がないなど、屈辱以外の何者でもないぞ!」
「お、お待たせ致しました」
血相をかいた救護員と教会の枢機卿、そしてウィリス王子が部屋に入ってきた。
「早く私の腕を治せ!」
「はっ! 承知しました。私はこれまで何百人も失くした腕や足を治したことがあります。安心してお待ち下さい」
「うむ。頼むぞ」
枢機卿は、王国で一番の回復魔法が使えることをライエルも知っていた。そのため自分の腕は治ると信じて疑わなかったが、結果は⋯⋯
「貴様! どういうことだ!」
「そ、そんなバカな⋯⋯こんなこと今まで一度も⋯⋯」
王国一の回復魔法の使い手でも、ライエルの腕が治ることはなかった。
「まさかこれは兄上の仕業か! 王位継承争いで自分が有利に立つために⋯⋯なんという卑劣なことを!」
ライエルは腕が治らなかったショックのせいなのか、ありもしない妄想を掻き立てる。
「バカなことを言うなライエル」
「兄上は私の醜態を見にきたというわけか!」
「違う」
「ならなぜ私の腕は⋯⋯」
ライエルは怒りで握った拳をベッドに下ろす。
「⋯⋯何故ライエルの腕が治らないのか。一つだけ思い当たることが」
「それはなんだ!」
「聖女の力だ」
「聖女の力⋯⋯だと⋯⋯」
「そうだ。お前が追放した聖女の力は、ここにいる者達の能力を引き上げていたのだ。だから聖女リリアが王国から去ることによって、この者達の力も本来あるべきものに戻ったらという訳だ」
「そんなバカな⋯⋯聖女の力は本当にあったというのか」
「そうとしか考えられない。お前は自分が犯した失態のせいで、これから一生腕が治らないかもしれないな」
ウィリスはそう言葉を残して救護室を去る。
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