この異世界は理不尽で残酷で儚く、そして竜を狩り、国を護り、獣が吠えた。

白井伊詩

文字の大きさ
30 / 117

天ノ29話「プレゼント企画」

しおりを挟む
 事は六月も終わりを迎えそうな夏の日に起きた。
 ミオリア達はある知らせを受けて、王城に緊急招集がかけられた、
 
 なぜなら、アクバ王の暗殺未遂事件が起きたからだ。
 ミオリア達は、三か月の間、、警備のインフラが整うまで、アクバ王の身辺警護を行う緊急任務を全うしていた。
 そして今日を以ってその任務が解かれるのであった。

「刹那のミオリア、此処に――」 
「厄災のネフィリ、此処に――」
「雪華のエレイン、此処に――」
「忠誠のレオニクス、此処に――」
「狂乱のグーラント、此処に――」
「神罰のアンタレス、此処に――」
「灰燼のりゅーしゃー、きょきょに……」
 
 懐刀たちはルーサーが噛んだ瞬間に爆笑した。

「何で自分の名前を噛むんだよ!」

 ミオリアがツッコミを入れるとルーサーが不機嫌そうに涙で目を潤わせていた。

「うるせえ!」

 金髪に燃え盛るような赤い瞳に端正な顔つきの男がミオリアにそう吐き捨てた。

 この男が灰燼のルーサーであり、類稀なる炎の使い手である。

「いやいや、流石ルーサー殿でありますな」

 全身に分厚い漆黒の鎧を纏っている男、レオニクスが陽気な声で笑う。

「ヒィー、今のはマジでねえぞ!」

 特徴的な笑い声に、耳にいくつも付いたピアスが特徴の青い髪の男、グーラントが笑いを堪えられず玉座の前で腹を抱えていた。

 老婆姿のアンタレスはローブで顔を覆っているが体を小刻みにしているのが遠目からでもわかった。

「そのあたりにしておけ――」


「はっ!」

 一同が同調するかのように返事をすると、今までの朗らかな空気が一瞬で張り詰めた。
 
「さて、この三か月、寝ずに余の警護をしてくれたこと感謝する。部屋に報酬を届けさせておく」

「ありがたく頂戴させていただきます」

 全員が返事をするとアクバ王はため息を付きながら、背もたれに体を預けた。
 
「して、本題に入るが、余の暗殺を企んでいる者が分かった。イライザ・エアルトル、大きな声で言いたくはないが、余の妾だったのだが、どうやら本性はピーシーと言って、ウィズアウトの構成員だった。まんまとしてやられた、暗殺など仕掛けられるのが久々過ぎて気が緩んでおった」

 アクバ王は苦笑いをしながら長く伸びた白い顎髭を撫でていた。

「此度の一件、タンドレッサが独自に動き、ピーシーの二度目の暗殺はタンドレッサが食い止めたが、聞くに、これはアジサイの差し金だったと聞いている。ミオリアの部下が早速手柄を立てたようだな。実行したタンドレッサには昇級を約束したが、アジサイには何を与えれば良いのやら、ミオリア、アジサイの欲しい物はなにかないか?」

 ミオリアは暫時口を塞いだままであった。

 元々、アジサイという男は割合無欲で権力や金に貪欲でもなく、女にも目がないということはない。技巧派で色々な物を作るのは好きだが、それは作る過程を楽しんでいる。
 
「いやぁ、あいつだけは欲しい物わからないですね」

 アクバ王は静かにミオリアの言葉を頷くと懐刀の顔を見回す。

「意見がある者は提案してほしい、誰でも構わぬ」
 
「肉とか美味い物を食わせるのはどうでしょう?」

 ルーサーが当たり障りのない意見を提言する。

「食事か」
「アジサイ殿の好みは把握していますか?」

 レオニクスが冷静に突っ込む。

「ボクは知らないよ」
「言われてみれば私も知らないな」

 エレインとネフィリも揃って降参する。

「肉か魚だろ、どっちかなら誰だって好きに決まってるだろ!」

 グーラントは安直な意見を考え無しに述べる。

「ハンドレットバードの卵はおいしそうに食べておりましたな、しかし、あれは今、時期が離れておりますからね、手に入れるのは難しいかと」

 老婆姿のアンタレスがローブ越しに微笑んでいる。

「あいつの好きな物かぁ……何かな……」

 ここのメンバーで一番、アジサイに詳しいミオリアですら頭を悩ませる事態であった。
 

「食材はやめて服とか、アクセリーとかどうだろうか?」

 ネフィリが提案するが、懐刀の男性陣は首を傾げた。

「いやいや女じゃねえんだから」

 半笑いでグーラントは指摘するとネフィリはふくれっ面になった。

「武器とかいいんじゃないですか? 盾とかシールドとか鎧とか、ロマンがありますし、戦いが多い我々ならいくつあってもいいのではないでしょうか?」

 レオニクスが頭を捻りながら言ってみるものの、アジサイは武器を自作しているため、道具へのこだわりと言う面からレオニクス自身ですぐに言葉を撤回した。
 
「アジサイという男は難儀な人物のようだな」
「真面目で良い奴なんですけどねぇ、自己完結している男なんすよ」

 ミオリアも困り果てていた。

「そう言えばアンタレスはあの者と今、行動しておったな、どういう者か申してみろ」
「はい、仕事面の話からまず、今はギルドの内部調査も兼ねて、アジサイ様と共に新米冒険者という設定で内部を探らせております。元々強いのもありますが、慎重な気質のためかダブルピーから受けた傷よりも深手を負っているところは見ておりません。仕事ぶりは、ストイックなところがあり、ちょっと気がかりといったところでしょうか。人間性の面では、そうですね、温和で人当たりも良く、のんびりした性格ですね。仕事になると人格が変わったように鋭い目つきになり、表情ががらりと変わるのが見ていて面白いかと、あと、アジサイ様の持つ、装具と呼ばれる武具、あれについてですが、中々興味深い武具ですね」

 興味を持ったのかアクバ王は顔を前に出し、アンタレスの方を見つめた。

「話には聞いている。たしか風を操る武具だとか」

「ええ、それもありますが、あの装具、いくつか種類がございまして、風を操る装具起装『雪解』、黒い禍々しい何かを操る悪装『津罪』、物理現象と呼ばれる物を観測する論装『怜青』の三つですがこれ以外にもあると本人が言っておりました」

「ほう、余は風を操る装具しか聞いていなかったが、そんなものまで、悪装『津罪』は見たことがないがこれはどれほどの強さを持っているのだろうか、知っておる者はいるか?」
「それならジークが詳しいので今度聞いてみるのは如何でしょうか?」
「なるほど、エレインの言葉に従って楽しみにしておこう」
「はっ! 有り難きお言葉!」

 エレインは深々と頭を垂れた。

「アジサイへの褒美は直接本人に聞くことする。次はジークになるが、竜狩りジークにも褒美を与えねばならぬな、豊穣を与えるアルスマグナの魂をもう一つまとめ上げ、力を回復させることでイシュバルデの豊穣をよる永遠の物にする。そのために竜を狩らねばならない、本来であれば懐刀全員で一頭ずつ狩る相手をたった一人で倒すあの剛力には驚嘆の声しか上げられぬ」

 アクバ王はジークを褒め称える、

「ジークにも褒美を与えたいが、何をしたものか……」
「あー、あいつそう言えば、家が欲しいと言ってましたね。城下町からちょっと離れた静かな場所でひっそりと暮らしたいとか言ってましたね」
「家か……わかりやすくて良い、すぐに郊外に家を建てさせよう」
「それで良いかと」

 ミオリアの提案がすぐに採用された。

「それ以外に何を与えようか、食事、宝物……」
「それ以外なら、旅行などが良いかなと、アルスマグナもいることですし、二人でのんびり慰安なども良いかと」

 エレインが提案するとすぐにそれも認められた。

「ジークは欲しい物が決まっておって非常にわかりやすくて助かる」

 アクバ王は気を楽にした。
 それからアクバ王は一息つき、天啓が降りたかのように不意に妙なことを口に出す。

「アジサイとジーク、懐刀とどちらが強いか……」
 
 この一言が、懐刀のプライドに火をつけた――
 
 
「成し得たことは認めますが、それでも、我々には及びますまい」

 レオニクスが笑いながら、アクバ王に言い返した。

「ほう……秋の王座決定戦を楽しみにしておるぞ」
 
 アクバ王は楽しそうに言っているが、懐刀たちは笑い事ではなかった。
 なにせ懐刀はイシュバルデ王国最強と謳われる猛者たちである。それがここ数か月でポンと出た男二人に敗北するようなことがあれば、国の威信に関わるのである。冗談でも全員が敗北とあれば国防面において国民の信用が失墜するというのと同義である。

 したがって、ジークとアジサイだけには負けるわけにはいかないのである。
 
 だが、ジークは竜を狩った実績、アジサイは毒を一服盛られた状態でタンドレッサを圧倒している。タンドレッサの実力は魔導騎士団の中でも上位だが、懐刀には及ばないが実力は隠しているだろうという予想は容易にできた。

 エレインとミオリアはアジサイの持つ、装具と魔術の技量が伸びていた時、どのようなことが起きるか簡単に想像していた。予想が間違っていなければ、懐刀を脅かす脅威となっている。エレインはこの時、アジサイの魔術へのセンスの無さに安堵する自分を恥じた。
 
「実際戦うとなった時、アジサイが持つ風を操る装具への対策を練らないといけませんね、私は白兵戦しかできないので、ジークを引きつけている間にエレイン殿が魔術で対処するのが妥当かと思います」

 レオニクスはまじまじと二人と対峙した想定を始める。

「まず俺、ミオリア、レオニクス、ネフィリでジークの足止め、エレイン、ルーサー、アンタレスでアジサイを迎撃が無難だろうな、アジサイを片付け次第、総出で撃破すれば何とかなるな」

 七人は意見を出し合い議論に花が咲き始めた。
 しばらくの間、議論と続けていると、その日の会議は終わりとなった。
 
 
 ミオリアたちは部屋に戻らず、すぐに王城を後にして、ウィズアウト討伐に向かった。

「んじゃ、そろそろ行きますか」
「はーい」
「九月二十七日、旅立ち。記録完了」

 エレインは報告書用の冊子に日付と出来事を書き込むとぱたんと冊子を閉じて懐にしまった。

「次はサイエストかぁ……長旅になりそうだな」
「まぁ、気楽に行くとしよう、エスエッチ……どんな力の持ち主か……」

 好奇心を強く、エレインは言う。

「サイエストはなんかキモチワルイから行きたくない……」

 ネフィリが駄々をこねながら、嫌そうな顔をした。

「まぁ、そう言うな、これも仕事なんだからさ」
「はーい、ガンバリマーズ」

 酷く棒読みの声がミオリアの耳に入った。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

ずっとヤモリだと思ってた俺の相棒は実は最強の竜らしい

空色蜻蛉
ファンタジー
選ばれし竜の痣(竜紋)を持つ竜騎士が国の威信を掛けて戦う世界。 孤児の少年アサヒは、同じ孤児の仲間を集めて窃盗を繰り返して貧しい生活をしていた。 竜騎士なんて貧民の自分には関係の無いことだと思っていたアサヒに、ある日、転機が訪れる。 火傷の跡だと思っていたものが竜紋で、壁に住んでたヤモリが俺の竜? いやいや、ないでしょ……。 【お知らせ】2018/2/27 完結しました。 ◇空色蜻蛉の作品一覧はhttps://kakuyomu.jp/users/25tonbo/news/1177354054882823862をご覧ください。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

御家騒動なんて真っ平ごめんです〜捨てられた双子の片割れは平凡な人生を歩みたい〜

伽羅
ファンタジー
【幼少期】 双子の弟に殺された…と思ったら、何故か赤ん坊に生まれ変わっていた。 ここはもしかして異世界か?  だが、そこでも双子だったため、後継者争いを懸念する親に孤児院の前に捨てられてしまう。 ようやく里親が見つかり、平和に暮らせると思っていたが…。 【学院期】 学院に通い出すとそこには双子の片割れのエドワード王子も通っていた。 周りに双子だとバレないように学院生活を送っていたが、何故かエドワード王子の影武者をする事になり…。  

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...