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獣ノ80話「戦線復帰不可」
しおりを挟む一体何を間違えたのだろう。
アジサイには理解できなかった。
誰か教えてくれ、俺は何を間違えたのだ。しきりその言葉が脳の奥を引っ掻き回る。抉れた記憶の片隅で憎たらしく笑うあの翼を最後の光景にするのは虫酸が走る。どうせなら自分の手の中で冷たくなるスピカの最後をもう無くなった眼に焼き付けて起きたかった。アジサイは何度も心の中で毒づく。
調査は順調だった。アキー、ヘムロック、ダチュラは着実に情報を集め、天使の移動ルートをかなり正確に割り出していた。
三日目の晩にアジサイは、襲撃の話を持ち出すところから話は始まる。
「これで襲撃はできそうだな」
「順調に情報を集めることができました」
アジサイは一息ついて胸をなで下ろす。
「後は、天使族が留守の間に、建物に爆薬を設置して木っ端微塵にしてやるだけだな」
意気揚々とアジサイは天使族に殺意を向ける。
「そうですね、段取り八割とはよく言ったものですね――」
アキーが同調しようとした瞬間、彼女の胸に大穴が空いた。アジサイは焦りを押し込め冷静に周りの状況を確認すると、窓の外から天使族がこちらに向かって攻撃していた。
第二波は既に止まる状況ではない。次に狙われるのはアジサイの左側にいるダチュラだった。
アジサイはとっさに左手を伸ばすとダチュラを押し飛ばした。
そして次の瞬間、アジサイの左手は千切れ飛んだ――。
「チッ、クソがぁ!」
アジサイは獣のような声を漏らしながら火魔術を使い、止血のために切断面を焼いた。
「痛ってえぇなぁクソがぁ!」
大声で叫びながらアジサイは冷静さを取り戻す。
「ダチュラ、ヘムロック、アキーを連れて地下室に籠ってろ、後は俺がやる。五時間経っても俺が戻らなければあとはわかるな?」
二人は、頷くとアキーを抱えて地下室に駆け込んだ。アキーはリジェネレーターという特異体質ということもあり胸が貫通した程度は死にはしない。
アジサイは装具、季装を展開すると、ショットガンM870を取り出す。当然銃を支える腕がないため、空気を操る力でM870を保持する。弾薬も空気を操作する力で器用に取り出すと、一列に並べて八発装填する。
フォアエンドを引き薬室に弾薬を給弾すると、アジサイは外に飛び出した。
アジサイは怒りのままに天使を補足すると、ジェット噴射の要領で一気に天使に近づくとショットガンを空気を操り五発速射しプロテクトを削り取ると天使の翼を燃やし、地面に落下させる。アジサイはそれに飽き足らず天使を追従し、足を喉にかける。
背中に存在している空気を押し出して落下速度を加速させ、地面に叩き付ける。頸椎を粉々砕くとアジサイは状況を確認する。
窓が割られた形跡があり、天使が侵入している形跡があった。
アジサイは即座に建物内に戻る。周囲を見回し天使の痕跡を探す。呼吸を止めて五感を集中させると二階から僅かに足音が聞こえた。アジサイはM870に弾薬を装填させながら二階に上る。物陰に隠れ、一瞬だけ顔を出し天使の姿を捕らえるとM870を先行させて天使族の背後を取る。
壁をノックしてわざとアジサイは天使族に気づかれる。
想定通り、天使族の足音が近づき始めると、腰に装備しているナイフに手を伸ばす。
しかし、既にアジサイの両腕はない。錯覚が先走りあたかもナイフを手に取ったような状態になったが、ため息をついてから体を乗り出した。
先ほど倒した天使は誰か判別できなかったが、今度の天使は距離が近いそしてアジサイが冷静ということもあり誰かはすぐに理解できた。
「ダレットだな?」
アジサイは静かな声で問いかける。
「その通り、冥土の土産にするといい」
「ああ、そうだな、うちにはドロシーっていうメイドみたいな人がいるからね」
軽口を叩きながらアジサイは引き金を弾く。
あらぬ方向から発砲されたダレットは翼を守ろうとするが、アジサイが体当たりし方向転換を邪魔する。
「馬鹿め、その距離で私を撃ち抜けばお前も無事じゃ――」
軽快発砲音が三度なることには翼の生えた美女は肉塊に変貌していた。
「バーカ、今回の弾丸はスラッグ弾じゃねえ、バックショット弾は貫通しねえよ素人が、素人はAVだけにしてろカス」
死体に唾を吐き捨ててアジサイはM870に弾薬を装填する。残りの天使はあと一人、ベートかギーメルのどちらかだ。
アジサイは二階に誰も居ないことを確認すると一階へと下る。
階段を降りかかった瞬間、何かに引っ張られ顔面から地面に叩き付けられた。脳震盪を起こし意識が混濁しているアジサイは何が起こったか理解できなかった。
脳震盪を起こすのはこれが初めてではない。おそらく後頭部を殴ら、そのまま地面に突っ伏したのだろうと冷静に判断できた。しばらくその場に安静にし視界の確保を務めるが一向に視界は暗転したままで何も見えない。
徐々にアジサイは現実を理解し始める。
後頭部に痛みはなく、顔全体が痛む、舌を動かすと頬がない。そして視界がないところから、顔面の肉が引きちぎられているのであった。
瞼も眼球も鼻も全て引きちぎられていたのである。
アジサイは状況を理解して狼狽する。
「視界さえ奪ってしまえばお前など何一つ怖くないと言いたいが、噂によれば熱も音も見えているらしいな、ベートとダレットの仇を討たせてもらう」
小気味よい金属の擦れる音からナイフを抜いた推察できた。ギーメルは恐る恐るアジサイとの距離を詰める。
アジサイはギーメルの言葉で我を取り戻す。装具を切り替えて、季装から義装へと装具を切り替える。
ウインドウを操作して、視界を展開させる。義装はさも当然の機能であるかのように視界を展開する。
ギーメルの姿を捕らえるとアジサイはぬるりと立ち上がり、顔面から大量に血を滝の様に垂らしながらうめき声挙げる。
「クソが、見えねえ! クソ!」
アジサイは見えていない素振りを見せる。
ギリギリまで天使を引き寄せると、アジサイは体を捻り、上段回し蹴りをギーメルに食らわせる。
腕がないせいかアジサイもバランスを崩し、尻餅をつく。即座に片膝をつきバランスを取ると床を蹴り上げて倒れ込んでいるギーメルに馬乗りになる。
プロテクトがかけられているせいか、胸部を圧迫しきることができずアジサイは苦肉の策で口を大きく広げ喉元に噛みつく。
プロテクトの術式を義装で強化された咬合力で食い破るとギーメルの白い肌に歯を立てる。
嬌声にも聞こえる悲鳴が木霊する、喉仏の辺りの関節を食いちぎると肉を吐き出してさらに奥へとアジサイは噛みつく。
無論、ギーメルも抵抗するべく、手に持っていたナイフをアジサイの脇腹に突き立てるが、アジサイはアドレナリンとエンドルフィンが大量に分泌してるため痛みを無視することができた。
左側腹部にナイフが刺さりながらアジサイはギーメルの頸動脈を噛むと強引に引きちぎる。鮮血と共にアジサイは紅の液体を全身に浴びる。
既に死亡しているギーメルだが脊髄反射によって体をビクビクと動かしている。アジサイは本当に死んだのか冷静に判別できずギーメルが完全に動かなくなるまで喉をひたすら噛みつき、肉を食いちぎり、吐き出し、また噛みついた。頸椎を奥歯でかみ砕く頃、ようやく平常を取り戻すと、食いちぎった頭を口で押さえたまま、地下に向かった。
独特のリズムでノックをするとアキーが応答した。
「アジサイさ――きゃああ!」
悲鳴と共にアジサイは何でアキーこんな声を出しているのか考えた末、ギーメルの頭を口で持ったまま戻ってきたのだとアジサイは静かに首を吐き捨てた。
それからは三人に連れられ、王城へ吹き飛ぶように帰還した。
「という訳ですね。まぁ、まさか敵に水を操るものが居るとは」
「俺がもうちょっと早く応援に行ってりゃ……」
ミオリアは複雑な顔をしている。
「そうは成らなかったんですよ、それだけの話です。それに装具さえ使えれば視界はまだ使えますし、生きてはいけるかと」
「いや、それは……」
「何でお前ばっかりこんな目に遭うんだろうな」
ジークも露骨に顔を歪めていた。
「さぁな、人間、死は平等だが生は不平等だからな」
「……流石にそれで戦うのも無理だろうし、これからどうする?」
ミオリアは今後の話を切り出す。
「顔はなんとか元通りになるらしいですからしばらくは治療ですね。その後はヴェスピーアで仕事をしようかなと、といっても仕事というより余生ですかね」
「そうか、少なくともこれ以上危険な目に遭わなくていいのか」
「まぁ、大丈夫ですよ、さてそろそろ治療時間なので」
アジサイは二人を帰すと、エレインと二人きりとなる。
「いやぁ、流石に眼球くらい治せないですか?」
「無理だ。眼球が治せてもお前の場合視神経が引っこ抜けてしまっている。再生しても視力回復は見込めない」
「まじか」
「まぁ、私より有能な魔術師や医療班が天使に存在すれば直せるかもしれんがな」
「そりゃ無理そうだ」
心の底から天使を嫌っているアジサイが頭を下げて目を治してくださいなどと吐き捨てられる訳もない。それをやるくらないアジサイは自害する方がいくらかましであるとさえ思っていた。
「まぁ、顔は直せる」
「男前に整形してくれたっていんだぜ?」
「すまんな、原型再現の方が腕を鳴らせるんだ、付き合って貰う」
「よろしくお願いします。ちなみに療養ってどのくらいかかります?」
「全て含めて一週間で動けるようになる。失血は半年くらいかかると思う」
「んじゃあ、一週間で退院か」
「ただその分、痛いぞ?」
アジサイはエレインのハードな治療に悲鳴を上げながら、なんとか一週間でほぼ元通りの姿に戻った。
「マジ、一週間で直った……」
「顔も元通りだ」
「すげえほっぺに肉があるよ」
「よかったな」
ジークとミオリアが退院を祝いがてらアジサイの自室に集まる。
「なんとかなるもんですね、あとは目と腕ですかね、それはまぁ、追々なんとかしますよ」
アジサイは季装を展開するとリュックを浮かせて器用に背負うと義装に換装し視界を取り戻す。
「さて、じゃあ俺は旅立ちです」
「ずいぶん早いな」
「こんな形じゃ、気味悪がられてしょうがないですし」
「もうちょっとゆっくりしてりゃいいのに」
「やることいっぱいですよ、脳みそはまだ使えるので」
ジークもミオリアもアジサイを止めなかった。厳密には止めることができなかった。
「これお前に」
ミオリアはアジサイの首にネックレスを付ける。
「あら、おしゃれ、真珠のようであり緑のはクロムスフェーンのような独特の反射光がありますね」
「牛乳に緑の絵の具を垂らしたような……」
「先輩の表現が合いますね。これは勿忘石ですかね?」
「勿忘石……あ、それだ! やっと名前を思い出した!」
ミオリアは突っかかていた謎がようやく解けて、あーと声を漏らす。
「また面白い鉱物ですね……ふむ、じゃあ死なないようにします。とは言えヴェスピーアによるときは寄ってください」
ミオリアとジークはなぜこんなにアジサイが急いでいたのかわからなかった。それはアジサイ自身も同じだった。ただ何故かアジサイは胸に残る一抹の不安に従っていた。
アキー、ダチュラ、ヘムロックが手配した馬車に乗り込むとアジサイは旅立っていった。
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