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龍ノ97話「小休止」
しおりを挟むジークは、一日だけ安静にしている。
「随分、お強く成られました……ね」
アルスマグナは静かにジークを見つめる。
「そうかもしれない、次の相手はどこにいる?」
「スーサイドヴェノム、毒沼の領土になります」
「聞いたことあるな……たしか帰ってきた者がいない領土だったか」
アルスマグナは首を横に振る。
「アジサイさん、あの人が生態調査を完遂させております」
「あいつ、どこにでもいるな」
「伊達に全ての領土の報告書を書き上げていないですからね」
「マジかよ」
「ええ、アンタレス様の書斎に全九十八冊の内、六十二冊が保存されております」
「残りの三十六冊は?」
「捜査中です」
「アジサイの隠れ家か……何件見つかった?」
「六件です」
「いや、一年に一件か……」
「しかも、対天使用特殊弾や工房ですら肝を冷やす技術文書、はたまた鬼神演武、龍神演武についてのレポートなども見つかっており、冒険者の中にはそれ専門に探す者もいるとか」
「そんなにか?」
「ええ、特に弾丸作成に関する書は懸賞金がかけられています」
「どんだけやばいんだよ」
「ダチュラさんが言うには、十年先の技術だそうです」
「じゃあ、アジサイが生きてりゃ、もっとやばい物が出来ていたのか」
「やりかねないと思います。もっとも、一番まずいとされているのはダチュラさん曰く、この世界に無い言語で書かれているものだそうです」
ジークは、それを聞いてため息をつく。ベッドから天井を眺める。
「その書籍、持って来てくれないか?」
「わかりました」
ジークは目を閉じて、眠る。
この数年、竜と戦い続けろくに眠ることさえ許されなかったほどだ。いくら寝ても足りないのが正直なところである。
目を開く。窓は赤い夕日が差し込んでいる。
ダチュラとアルスマグナが何冊かの本を持ってくる。
「こちらが謎言語で書かれた本です」
ダチュラは数冊ある本をテーブルに置き、その一冊をジークに渡す。
ジークは本を受け取ると、タイトルを確認する。
「弾丸作成、やばいやつ、か」
ジークは本を開くと、故郷を思い出す形を目にする。
「この本を読んでいるということはジークか、ミオリア先輩のどちらかでしょう、どっちでもいいが、ジークの方が当たりだね。さてここに記載されている弾丸のレシピはマジでやばいものだから扱いには注意してね。願うなら使うことを祈っているよ」
ジークは前書きを読み上げる。
「ジークさん、読めるのですか?」
「ああ、これは日本語だ」
ジークは更に音読を続ける。
「第一章、対上位天使用魔力装甲貫通型内部炸裂弾、略して天裂弾の作り方……」
ジークはレシピを見た瞬間、そのコンセプトと製造方法に嫌気が差し本を閉じた。
「どうやって作るんですか?」
「ダチュラ、知らない方が良いものもあるんだ……」
「え?」
ジークは精読する。
「この癖のある小汚い文字、微妙に難読で疲れる感じのこれはアジサイだな」
「で、なんと書かれているのです」
「天使の殺し方、きっと何百回と試行錯誤しながら天使を殺したんだろうなでなきゃ、ここまで丁寧な殺し方、そしてそれから導いた最適な殺害方法、その怨嗟を背負うか?」
「それは……私が欲しいのは技術です感想ではありません」
ジークはそれを聞いて安堵する。アジサイの教え方は間違っていないのだと。
「天使族は基本的に心臓、脳と言った人間の急所に加え、翼がある。そして翼には魔力を司る臓器が析出した物だそうだ。要は魔力の異常に滅法弱い、金属製弾丸にルーンを刻むことで強制的な変調を与え内部から天使を破壊する。このルーン文字はダチュラでも読めるだろ?」
「え、ええ、一ヶ月ほどあれば……」
「そういうことだ。それ以外に書いてあることは適当なもんだ」
ジークはため息をつく。
「ありがとうございます」
ダチュラは黒髪を垂れ下げながら一瞥する。
「いいよ、残りは適当に読んでおく、それが終わる頃には竜狩り再開だ」
ダチュラを追い出すと、ジークは枕に天井を仰ぎ見る。
「で、ジーク様」
「なんだ?」
「本には何が書かれているのですか?」
「いや、内容はさっき言った通りだが」
「だが?」
「日付だ、今日の日付になっている」
「どういうことでしょうか?」
「わからん、アジサイが本当に今日この日に書いたのか、それともふざけて今日の日付にしたのか」
アジサイの性格上、悪ふざけも考えられるが、流石に真面目な書籍をしたためているところを考えるとその線は薄い。
むしろ、ジークがこの本を読むタイミングを充分理解しているかのようにも思えたが、それらは総じて憶測の域を出ない。何よりアジサイは死んでいるのだ。
亡骸は海の底へ落ち、今頃は骨も消えて無くなっているだろう。アジサイだったものは濃度が消え、水のように同化し、世界から忘れられるように。
ただ、妙な不自然さを胸に抱きながらジークは目を閉じた。
次この目を開くときは竜の眼前だろうと諦めながら。
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