恋のおまじない ~好奇心で自分に淫紋つけたら合法ショタになってた~

なきいち

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三章 魔術の練習

1 魔術の使えない卒業生

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「そんなことがあったんですか」
「まあねぇ。いつの時代も、若い子は無茶をするもんだよ」
茶菓子などをつまみながら、クープ先生の話に相槌を打つ。
場所はこれから俺の拠点になる店のロビー。
流石に新築ではないが、一階には調合室と陳列棚を置ける広々空間、二階には居住スペースと、一人で切り盛りするには広すぎると言える贅沢な物件だ。
呪印のことで、俺は卒業後もしばしばこうしてクープ先生と個人的に会う機会が多かった。
あくまで診察のついでの雑談で、変なこととかはされていない。念のため。
まあ、先生に興味があるというわけじゃないけど、さすがに30が見えてくる年齢になって未だに出会いなしだと、『変なこと』の一つでも起きないかなという小さな焦りのようなものは感じなくもない。
いや、先生がいきなりそんなふうに迫ってきたら普通に嫌だけど。
別に、理想の相手のイメージとかは特にないんだ。
ただ、どんな人と縁があったとしても、そういうのはいきなりじゃなくちゃんと順序を持って育んでいきたい。
最初は別に何でもない相手だったとしても、デートを重ねるたびに気持ちが膨らんでいってお互いに惹かれ合っていく、そんな
(恋の一つでもしてみたいなぁ……)
自分で用意したお菓子を頬張りながら、適当に話の相槌を打ち、ふわふわとした妄想を浮かべる。
なんだか自分が絵にかいたような寂しい中年男性になりつつあるように思えて、急いでその考えは打ち切った。
「そういえば、卒業した子の中にちょっと気になる子がいてね」
「へえ、どんな子です?」
「うん。しょっちゅう実技で怪我をしては同級生に引きずられるようにやってくる子でね、なんでも、素手で魔術を殴り飛ばしたとか」
「……さすがに冗談でしょう?」
「それが本当なんだよ。どうも魔力操作が極端に下手で、術式を成立させることができないらしい。だから魔力そのものを拳に纏わせて殴り飛ばしたのだと」
「そんな非効率的な」
「僕もそう思うよ。でも、彼の悩みも深刻でね。そうでもしなければ単位をとれなかったんだろう」
「……それってもしかして、魔術の使えない卒業生の話だったりします?」
ふと、魔術を使えないのに魔導学術院を卒業した虎獣人がいる、と、どこでだったか、風の噂に聞いたのを思い出して、俺は先生に尋ねた。
どうやら正解だったようだ。
保健室の常連と聞いた時にはさすがに身構えもしたが、喧嘩っ早い子というわけではなく、単位を取るために自分の体を気にも留めないような無茶をするのが原因だったという。
入学直後はそうでもなかったが、実技が始まるころから年々そうした無茶が目立つようになり、留年した後は特に顕著になっていったらしい。
魔術を使えずに卒業できるわけがないだろう、と、噂話らしい誇張が付いているものと決めつけていたが、実際の話を聞いてみるとそれはどうして、血の滲むような努力をしてきたに違いない。
「まあ、無理を言いに来たわけじゃあないんだけどね。キミもこれからお店を持ったり、大変な時期だし。
 でも、もし余裕があったら気に留めておいてくれないかい?」
「わかりました」
俺がそう答えると、先生はほっとしたように顔をほころばせ、意気揚々と帰っていった。
なぜ先生が俺のところにそんな話を持ってきたか。
それは俺が錬金術師だからだ。
錬金術――魔法薬の調合とはただ材料を混ぜ合わせるものじゃない。
目的の効果を持った薬を作るために細かく魔力で反応を操作する必要があるのだ。
それこそ、下手な魔術より緻密で精密な調整が必要になる。
自分で言うのは恥ずかしいが、要するに魔力制御の達人ってことだ。
俺なら彼を助けてあげられるんじゃないか?
お世話になっている先生に言外でそう頼まれては、俺としても気にかけずにはいられない。
そして、街中をふらふらと、まだ飲める年齢になったばかりだろうに、酒の臭いを漂わせながら歩いている彼を見つけたのだった。
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