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01 ジンクス

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 しあわせは、ある日突然失われる。
 帰ってくる予定日が過ぎても両親が返ってこない。
 中学生になりたての僕にはどうしていいかわからない。
 美姫の母親が、警察に連絡してくれたのはそれからさらに一週間後のことだった。
 警察から電話があったのは、それから数日後のことだった。
 山奥で身元不明の遺体が見つかったとのことだった。
 しかし、ふたりの遺体は車と一緒に燃えたらしく黒焦げで……
 中学生の僕にはその遺体に合わせてもらうことは出来なかった。
 DNA鑑定の結果、両親のものだと教えられそして骨だけが残った。
 死因は不明。
 僕は、ジンクスのせいだと思っている。
 いや、きっとジンクスのせいだろう。
 僕はその後、心の底から笑えなくなった。
 笑ってしあわせになるのが怖くなった。
 しあわせになることが怖いんじゃない。
 しあわせが消えるのが怖いんだ。

「人間、成長するもんだよ」

 僕のその答えに美姫の表情が何故か悲しそうだ。

「そんなの一らしくない……」

「そう?」

「泣かなくなったし……
 怒らなくなったし……
 笑わなくなった……
 感情というか心が無いよ!」

「……もう一度言うね。
 人間は成長するんだ。
 いらない感情なんてゴミ箱にポイだよ。
 それに笑えるよ?ほら、ニッコリ」

 僕は、ニッコリと笑ってみせた。

「そんなのあの頃の一の笑顔じゃない」

 美姫は、目を潤ませる。

「そんな無理なこと言うなって……」

 護がフォローを入れてくれる。
 でも、ちょっと心が痛む。

「大丈夫ですよ。
 私、もう誰かを好きになりませんから……」

 川名さんが、そう言って話を僕から自分へとそらす。
 僕には、それが川名さんの優しさなんだとすぐにわかった。
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