ジンクス∞漁猫∞~君と僕の物語

はらぺこおねこ。

文字の大きさ
53 / 71
05 夏休み

10

しおりを挟む
 場所が場所なだけに行くことはできなかった。
 数日後、美姫と護が返って来た。
 冷たくなり二度と笑わぬその姿に成り果てて……

「美姫……護……
 なにがあったの?」

 答えは返ってこない。
 もう死んでいるから……

 美穂と護の動くことのない体を見て川名さんが声を上げて涙する。
 僕は声が出ることすらなかった。
 涙すらこぼれなかった。

「なんで……?
 いったい誰が……」

 あとから到着した宮崎さんが驚いている。

「宮崎さん来てくれたんだね……」

「いったいなにがあったの?」

 宮崎さんに起きた出来事を説明した。
 美姫と護が空港で通り魔によって刺され、犯人は今逃亡していること……
 護は美姫を守るために必死で守ったけどナイフでめった刺しされたこと。
 美姫は、動かなくなった護に泣きながら抱きしめ、そしてそのまま犯人にナイフで背中を何度も切りつけられたことを……

 すべてが絶望、すべてに失望。

 どうして美姫は、死んだの?
 僕のジンクスが弱くなった?
 僕が好きだったら美姫はしあわせで済んだよね?
 どうして?

 答えはわからない。
 僕にはなにもわからない。

 ただ誰かが頭をチョップする。
 振り向くと葉月先輩がそこにいた。

「なにするんですか?」

 僕は、葉月先輩に尋ねた。

「目の前で女の子が泣いているの!
 今できることをしてあげなさい!」

 僕は、川名さんの方を見る。
 川名さんは大声を上げて泣いている。
 どうして川名さんがここまで泣いているかわからない。
 だけど、僕は川名さんの肩をたたいた。
 川名さんが振り向く。

「大丈夫?」

 僕はそれしか言葉が出なかった。

「すみません。
 でも、今は……」

 僕は、川名さんの体を抱きしめてみた。
 体が勝手に動いたんだ。

「ごめん」

 そして、何故か謝る僕……

「ありがとうございます」

 川名さんが耳元でお礼をいう。

「うん」

「これからは、私があなたを護りますから。
 毎日、ご飯作りに行きます。
 毎日、起こしに行きます。
 だから……だから、私を嫌わないでください」

「大丈夫。
 もう誰も傷つけない。
 もう誰も傷つかない。
 僕が護るんだ」

 僕は、そう言ったときはじめて涙がこぼれた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

靴屋の娘と三人のお兄様

こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!? ※小説家になろうにも投稿しています。

屋上の合鍵

守 秀斗
恋愛
夫と家庭内離婚状態の進藤理央。二十五才。ある日、満たされない肉体を職場のビルの地下倉庫で慰めていると、それを同僚の鈴木哲也に見られてしまうのだが……。

愛しているなら拘束してほしい

守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。

課長と私のほのぼの婚

藤谷 郁
恋愛
冬美が結婚したのは十も離れた年上男性。 舘林陽一35歳。 仕事はできるが、ちょっと変わった人と噂される彼は他部署の課長さん。 ひょんなことから交際が始まり、5か月後の秋、気がつけば夫婦になっていた。 ※他サイトにも投稿。 ※一部写真は写真ACさまよりお借りしています。

処理中です...