マーメイド

05 振り上げた拳

81

「くるくるくるくるくるー」

　ピノが回る。

「くるくるくるくるくるー」

　それを見る壱の目も回る。

「壱！お寿司が回ってるよ！
　回るよお寿司！」

「回転寿司だからね」

「お寿司がぐるぐるだー」

　ピノが喜ぶ。

　戦争があるなんて思えないそんな状況。
　ああ、戦争なんだって思う状況がたまにある。

　例えば今。

　銃を持ったエルフたちが回転寿司を占拠している。

　でも、壱は警備員。
　そのへんの傭兵なんて一撃だ。

「お前は何者だ？」

　エルフの一人が言う。

「僕は斎藤壱。
　そのへんの警備員だよ」

「そんなバカな。
　この力……我らエルフの遥か上だぞ」

「君等が雑魚なんだよ」

「なんだと？」

　エルフが壱を睨む。

「壱、お寿司美味しいよ！」

　ピノが喜ぶ。

「でしょ！ここの回転寿司美味しいんだ」

　壱がニッコリと笑う。
　そうこうしている間に、警察が来てエルフを逮捕していった。
　他の客は救急車で一応運ばれた。

「壱さん、ありがとうございます」

　拾壱が壱にお礼を言った。

「いいですよ、通りすがりの警備員だもん」

「あの……お礼をしたいのですが」

　寿司屋のオーナーが壱に声を掛けてくる。

「あー、じゃビジネスの話をしてもいいですか？」

「え？」

　壱は寿司屋のオーナーに警備員を雇って欲しいと頼んだ。
　破格の価格で。

「いや、こんな価格無理です」

「んじゃ、下げましょう」

「私達の命の恩人にそんな安い価格で雇うなんて……」

「安い強い最強がモットーだからいいんですよ」

壱が小さく笑った。