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02 目覚める者たち

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「妻も子どももいないおじさんさ。
 バット(武器)を持たないおじさんは。
 マントを持たないおじさんさ。
 空は飛べないおじさんさ。
 なのにクビはすぐとぶのよ、おじさんは。
 かなしみのおじさん」

 男が涙を流しながらそう歌う。
 静かで安全な世界に生きたその男にもかつて家族がいた。

 しかし、ベルゼブブという王の存在が現れ……
 全てを奪っていった。

 男には、妻も子もいない。
 ベルゼブブに殺された。

 復讐を誓った。
 敵討ちを誓った。
 しかし、誓うだけではなにも産まれない。
 復讐をしたところで家族は戻ってこない。
 なぜならそれが、死なのだから。
 そしてなにより……
 そしてなにより……
 男には凶悪と戦う力がない。
 だから歌うしかない。

「妻も子どももいらいおじさんさ
 バット(武器)も持てないおじさんが。
 マントを持たないおじさんは。
 空は飛べないおじさんよ
 なのにクビはすぐとぶおじさん。
 ぜつぼうのおじさん」

「よう」

 そういって近づいてきたモノがいた。

「誰ですか?」

「私かい?私はそうだな。
 社長とでも名乗ろうか……
 ところで君、24時間働く力は欲しくないか?」

「24時間ですか?」

「ああ、永久に働ける力だ。
 私にはそれをお前に授ける力がある」

「社畜ですか?」

「そうだなある意味社畜だな。
 会社のために働くのではない。
 社会のために働くんだ」

「社会?なんのために……でしょうか?」

「ベルゼブブを倒すためにだ」

「え?」

「秘薬がひとつできたんだ」

 社長は、そういってカプセルを1錠手のひらに乗せた。

「これは?」

「これは、最強の武器を作ろうとしてできたものさ。
 これで、第二の武器を作る予定だった。
 この秘薬を飲めば、神々と同程度の力こそは得れないが。
 目の前の悪を倒すくらいの力は得れる。
 だが、失敗すると死ぬ」

 男は小さく笑う。

「いいですよ。
 死ぬのもいい。
 死んでもいい。
 失ったものはたくさんある。
 これから失うものがないのなら……
 僕は!!」

 男は、社長から秘薬を受け取るとそれを口の中に入れた。
 そして、ゴクリと音を立てて飲み込んだ。

 男の胸から溢れる感情。
 憎しみでもない、苦しみでもない。
 優しさでもない、愛でもない。
 それは、まさに太陽。
 天が平等に照らす温もり……

「おお、これは……」

 社長の胸が熱くなり涙があふれる。

「この暖かい感情これは」

「まさに太陽、まさに炎」

 歌が溢れる。
 歌が溢れる。

「妻も子どももいないサラリーマン。
 バットを持たないサラリーマン。
 マントを持たないサラリーマン。
 空を飛べないサラリーマン」

 男の心があふれる。
 涙があふれる。

「お前の名前は、サラリーマンだ!
 サラりとやってきて人々を救う男!
 それがサラリーマンだ!」

 社長は、そう言って叫ぶ。
 サラリーマンが誕生した瞬間だ。
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