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ショートショート:おとしだま
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もーいくつねるーと
おしょうがつー
毎日毎日毎日。
僕は、お正月が来るのが楽しみ。
心の中はルンルン。
心の中はウキウキ。
お年玉で何を買おうかな。
ゲームを買おうかな。
おもちゃを買おうかな。
いっぱい貰っても買えるのはひとつだけ。
買いすぎるといけないので買うのはひとつだけ。
とってもそんなに貯まらない。
だって、お年玉をくれるのはパパとママ。
そしてお婆ちゃんだけ。
パパとママには兄弟はいません。
ふたりともひとりっ子。
僕と同じです。
でも、僕はそのひとりっことももうすぐお別れ。
なぜなら、もうすぐ僕には妹が産まれるからだ。
ママのお腹に耳を当てるとドクンドクンって音が聞こえるんだ。
ママは、僕にこう言ったんだ。
「これはね命の鼓動なんだよ」
「命の鼓動ってなに?」
「生きているってことよ。
赤ちゃんがお腹で一生懸命生きているのよ」
「そうなんだー」
お正月も楽しみだけど妹が産まれるのも楽しみ。
ウキウキ、ワクワク。
早く妹産まれないかな……
それから過ぎたころ。
ママは、病院に入院することになった。
僕は怖くなった。
ママがどこかに行ってしまうようで……
でも、パパが僕に言ったんだ。
「お前はもうすぐお兄ちゃんになるんだぞ」って……
僕は、それを聞いて少し安心した。
お兄ちゃんになる。
なんかドキドキ。
なんかワクワク。
早くお兄ちゃんになれるといいな。
次の日。
僕はお兄ちゃんになった。
元気な妹が産まれた。
僕は正真正銘お兄ちゃんになった。
そして、僕の名前もお兄ちゃんとなった。
妹の名前は、春。
1月1日に産まれたから春なんだって。
冬に産まれているのに春。
僕には、どうして春なのかわかりません。
毎日、毎日、僕はお兄ちゃん。
毎日、毎日、パパとママは春につきっきり。
毎日、毎日、僕はひとりぼっち。
寂しいな。
寂しいな。
寂しいな。
「ママ絵本読んで」
「あとでね、お兄ちゃん」
ママは春にミルクを作るのに大忙し。
「パパ公園連れて行って」
「もうお兄ちゃんなんだからひとりで行けるだろう?」
パパは、春のオムツを変えるのに大忙し。
「お兄ちゃん」
「お兄ちゃん」
「お兄ちゃん」
違う!
僕の名前はお兄ちゃんなんかじゃない!
僕は、泣きながら家を飛び出した。
誰も追いかけてくれない。
もう、ぐれてやろう。
僕はいっぱい走った。
走って走っていっぱい走った。
どこまで走ったかはわからない。
知らない道に知らない人たち。
そう僕は、迷子になってしまったのだ。
知らない公園を見つけたので知らない公園のベンチに座った。
僕は、怖くなった。
僕は、不安になった。
泣いてしまった。
大きな声を出して泣いてしまった。
だけど、誰も助けてくれない。
そうだよね。
みんな知らない人だもんね……
パパもママも春にとられた。
きっと僕はいらない子なんだ。
僕の涙は止まらない。
泣いて泣いて泣きまくった。
夕方になったころ。
パパが息を切らせて僕の前にやって来た。
「こんな所にいたのか……」
パパは、そう言って僕の頭を撫でた。
「パパ……」
僕は、パパに抱き着いた。
「もうお前はお兄ちゃんだろ?
こんなことで、泣いてちゃダメだぞ?」
それを聞いたら僕の涙がさらに溢れる。
「僕、お兄ちゃんって名前じゃないもん」
パパは、困った顔をしたあと頭をポリポリと書いた。
そして、僕の体を持ち上げ肩車をしてくれた。
「一。
お前は、お兄ちゃんになるんだぞ?
だから、こんなことで泣いちゃダメだ。
お前が泣いたらこれから先、春を護れないだろう?」
「護る?」
「そうだ。
妹を護るのがお兄ちゃんの仕事だ」
「どうすれば護れるの?」
「そうだなー
春が喜びそうなことをすればいい」
「わかった」
僕は、頷いた。
「ほい。
お年玉」
パパは、そう言ってポケットからお年玉袋を出してそれをくれた。
「お年玉?」
「ああ。
なんだかんだ忙しくて渡せなかったからな。
ごめんな、春のことで忙しくて一と遊んであげれなかった」
「ううん。
僕は、お兄ちゃんだもん。
頑張る!
お年玉ありがとう」
僕は笑顔でそのお年玉を受け取った。
「よし!
じゃ、ゲーム屋さんに行くか?
一、欲しいゲームがあるんだよな?」
「うん!
でも、おもちゃ屋さんがいい」
「何を買うんだ?」
「んっとね。
ぬいぐるみ」
僕がそう言うとパパは、笑った。
「一は、男の子だろ?
ぬいぐるみが欲しいのか?」
「ううん。
春にあげるの」
「春に?」
「うん。
僕から春へのお年玉」
「わかった。
じゃ、おもちゃ屋さんに行こう」
パパは、笑顔で答えた。
「うん!」
パパは、小さく笑うと僕を肩車したままおもちゃ屋さんまで連れて行ってくれた。
「なんのぬいぐるみを買うんだ?」
パパが僕に尋ねる。
僕は、指さした。
「あのぬいぐるみがいい」
僕は、そう言ってクマさんのぬいぐるみを指さした。
「かわいいな」
「うん!」
僕は、お年玉全部使ってぬいぐるみを買いました。
足りない分はパパが出してくれました。
ありがとうパパ。
家に帰るとママが、走って僕の元まで来ました。
そして、抱きしめてくれました。
「一、寂しい思いをさせてごめんね」
ママは、涙を流しながらいいまいた。
「んっとね。
今日はね。
春にお年玉を用意したんだー」
「お年玉?」
ママが首を傾げました。
「はい!
クマさん!」
「これ、高かったんじゃないの?」
「お年玉全部使ったよー
足りない分はパパが出してくれた」
「そう……
春の所に持って行ってあげて」
「うん」
僕は、ベッドで眠る春の隣にクマさんのぬいぐるみを置いた。
僕のはじめてのお年玉。
春、喜んでくれるかな?
僕は、ほんの少しだけ大人になれた気がする。
-おわり-
おしょうがつー
毎日毎日毎日。
僕は、お正月が来るのが楽しみ。
心の中はルンルン。
心の中はウキウキ。
お年玉で何を買おうかな。
ゲームを買おうかな。
おもちゃを買おうかな。
いっぱい貰っても買えるのはひとつだけ。
買いすぎるといけないので買うのはひとつだけ。
とってもそんなに貯まらない。
だって、お年玉をくれるのはパパとママ。
そしてお婆ちゃんだけ。
パパとママには兄弟はいません。
ふたりともひとりっ子。
僕と同じです。
でも、僕はそのひとりっことももうすぐお別れ。
なぜなら、もうすぐ僕には妹が産まれるからだ。
ママのお腹に耳を当てるとドクンドクンって音が聞こえるんだ。
ママは、僕にこう言ったんだ。
「これはね命の鼓動なんだよ」
「命の鼓動ってなに?」
「生きているってことよ。
赤ちゃんがお腹で一生懸命生きているのよ」
「そうなんだー」
お正月も楽しみだけど妹が産まれるのも楽しみ。
ウキウキ、ワクワク。
早く妹産まれないかな……
それから過ぎたころ。
ママは、病院に入院することになった。
僕は怖くなった。
ママがどこかに行ってしまうようで……
でも、パパが僕に言ったんだ。
「お前はもうすぐお兄ちゃんになるんだぞ」って……
僕は、それを聞いて少し安心した。
お兄ちゃんになる。
なんかドキドキ。
なんかワクワク。
早くお兄ちゃんになれるといいな。
次の日。
僕はお兄ちゃんになった。
元気な妹が産まれた。
僕は正真正銘お兄ちゃんになった。
そして、僕の名前もお兄ちゃんとなった。
妹の名前は、春。
1月1日に産まれたから春なんだって。
冬に産まれているのに春。
僕には、どうして春なのかわかりません。
毎日、毎日、僕はお兄ちゃん。
毎日、毎日、パパとママは春につきっきり。
毎日、毎日、僕はひとりぼっち。
寂しいな。
寂しいな。
寂しいな。
「ママ絵本読んで」
「あとでね、お兄ちゃん」
ママは春にミルクを作るのに大忙し。
「パパ公園連れて行って」
「もうお兄ちゃんなんだからひとりで行けるだろう?」
パパは、春のオムツを変えるのに大忙し。
「お兄ちゃん」
「お兄ちゃん」
「お兄ちゃん」
違う!
僕の名前はお兄ちゃんなんかじゃない!
僕は、泣きながら家を飛び出した。
誰も追いかけてくれない。
もう、ぐれてやろう。
僕はいっぱい走った。
走って走っていっぱい走った。
どこまで走ったかはわからない。
知らない道に知らない人たち。
そう僕は、迷子になってしまったのだ。
知らない公園を見つけたので知らない公園のベンチに座った。
僕は、怖くなった。
僕は、不安になった。
泣いてしまった。
大きな声を出して泣いてしまった。
だけど、誰も助けてくれない。
そうだよね。
みんな知らない人だもんね……
パパもママも春にとられた。
きっと僕はいらない子なんだ。
僕の涙は止まらない。
泣いて泣いて泣きまくった。
夕方になったころ。
パパが息を切らせて僕の前にやって来た。
「こんな所にいたのか……」
パパは、そう言って僕の頭を撫でた。
「パパ……」
僕は、パパに抱き着いた。
「もうお前はお兄ちゃんだろ?
こんなことで、泣いてちゃダメだぞ?」
それを聞いたら僕の涙がさらに溢れる。
「僕、お兄ちゃんって名前じゃないもん」
パパは、困った顔をしたあと頭をポリポリと書いた。
そして、僕の体を持ち上げ肩車をしてくれた。
「一。
お前は、お兄ちゃんになるんだぞ?
だから、こんなことで泣いちゃダメだ。
お前が泣いたらこれから先、春を護れないだろう?」
「護る?」
「そうだ。
妹を護るのがお兄ちゃんの仕事だ」
「どうすれば護れるの?」
「そうだなー
春が喜びそうなことをすればいい」
「わかった」
僕は、頷いた。
「ほい。
お年玉」
パパは、そう言ってポケットからお年玉袋を出してそれをくれた。
「お年玉?」
「ああ。
なんだかんだ忙しくて渡せなかったからな。
ごめんな、春のことで忙しくて一と遊んであげれなかった」
「ううん。
僕は、お兄ちゃんだもん。
頑張る!
お年玉ありがとう」
僕は笑顔でそのお年玉を受け取った。
「よし!
じゃ、ゲーム屋さんに行くか?
一、欲しいゲームがあるんだよな?」
「うん!
でも、おもちゃ屋さんがいい」
「何を買うんだ?」
「んっとね。
ぬいぐるみ」
僕がそう言うとパパは、笑った。
「一は、男の子だろ?
ぬいぐるみが欲しいのか?」
「ううん。
春にあげるの」
「春に?」
「うん。
僕から春へのお年玉」
「わかった。
じゃ、おもちゃ屋さんに行こう」
パパは、笑顔で答えた。
「うん!」
パパは、小さく笑うと僕を肩車したままおもちゃ屋さんまで連れて行ってくれた。
「なんのぬいぐるみを買うんだ?」
パパが僕に尋ねる。
僕は、指さした。
「あのぬいぐるみがいい」
僕は、そう言ってクマさんのぬいぐるみを指さした。
「かわいいな」
「うん!」
僕は、お年玉全部使ってぬいぐるみを買いました。
足りない分はパパが出してくれました。
ありがとうパパ。
家に帰るとママが、走って僕の元まで来ました。
そして、抱きしめてくれました。
「一、寂しい思いをさせてごめんね」
ママは、涙を流しながらいいまいた。
「んっとね。
今日はね。
春にお年玉を用意したんだー」
「お年玉?」
ママが首を傾げました。
「はい!
クマさん!」
「これ、高かったんじゃないの?」
「お年玉全部使ったよー
足りない分はパパが出してくれた」
「そう……
春の所に持って行ってあげて」
「うん」
僕は、ベッドで眠る春の隣にクマさんのぬいぐるみを置いた。
僕のはじめてのお年玉。
春、喜んでくれるかな?
僕は、ほんの少しだけ大人になれた気がする。
-おわり-
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