ありがとうまぁ兄…また逢おうね

REN

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第七章 再出発

想い人

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恋と美紀が久しぶりに会うことになった。
恋は仕事。美紀は子育てで会う機会が激減したが、この日はどうしても会わなきゃならなかった。
恋が美紀にどうしても相談したい事があるとの事だった。
「恋、久しぶり!なんかキャリアウーマンみたいになったよねー」
「そっかな?美紀もすっかりママやってるの?」
「大変だよー。でもなんだか幸せだよ」
「そっかーよかったねー」
ふたりは注文を済ませると
「んで?恋の相談ってなぁに?」
「あ…うん…その…実はさ…」
「うん…」
「わたし…まぁ兄が好きみたい…なの」
「…うん!で?」
「いや、うんって!驚かないの?」
「いやいや、知ってたし」
「えぇ!わたし言ってないでしょ?」
「そんなん!あんたを見てればわかるってぇの」
「あれだよ!兄としてじゃないよ!男としてだよ」
「うん。知ってるよ…」
「…マジか…」
「龍ちんも知ってるよ」
「…マジか…」
「相談ってそれ?」
「うん…」
「あははははは!なんだぁー」
美紀は大きな声で笑った。
「ちょっ!美紀!声がでかい」
「だってぇ~深刻そうな声だったから」
「深刻だもん…」
「龍ちん、言ってたよ。あいつら早くくっついちまえばいいのにって」
「…そう簡単じゃないでしょ」
美紀がコーヒーを啜る。
「うーん。あんたの事はさておき、問題はまぁやんさんの事だよね」
「さておかれても困るけど…まぁ…そうだね」
「ねぇ、まぁやんさんはもう一生恋愛しないのかな?」
「それがわかんないの…」
「だってもう七回忌も終わったし」
「うん…」
「よし!わかった!龍ちんに聞いてもらおうよ!」
「えぇ!龍兄に?」
「ふたりで飲ませてさ、何気なしに聞き出す作戦!」
「やってくれるかな?」
「龍ちんはやってくれるよ。私から頼んでみるから」
「わかった…」
「って言うか、恋が女の顔になってるぅ~」
「茶化さないでよぉ~」
「あははは」
その後は他愛のない話をたくさんして、久々の再会を分かち合った。

「…そんでね、恋ったら私たちが気づいていることを本気でわかってなかったみたいなの」
「マジかよ…あんなわかりやすいのにな」
龍弥は晩酌をしながら、美紀の話を聞いていた。
「んでね、龍ちんにさ、まぁやんさんの気持ちをそれとなぁーく聞いてもらいたいの」
「なるほどな…あいつ、口を割るかな…」
「そこは龍ちんの腕次第でしょ?」
「そう来るかぁ…まぁ、やってみるか」
龍弥は携帯を取り出し、まぁやんにLINEを打ち始めた。
「今週末…おまえんちに…行っていいか…っと」
「返ってくるかな?」
「あいつ、意外とレスポンスいいんだよ。ほら、もう既読ついた!」
「はや!さすがまぁやんさん。龍ちんはレスポンス悪すぎなのに…」
「うるへー!おっ!スタンプでオッケーって来た」
「まぁやんさん…意外と可愛いスタンプ使うんだ…」

そして週末…
龍弥はまぁやん宅を訪ねた。
「よぉ!久しぶり」
「まぁ、上がれよ」
「おっじゃまっしまーす」
「あー痛ったぁー」
まぁやんが腰を押さえて痛みを堪えていた」
「おい!どうした?」
「いや、最近腰とか背中が痛むんだよなー」
「おじいちゃんかよ!歳かぁ?」
「かもな…まぁそのうち治るべ!」
ふたりは龍弥が買ってきた焼酎を飲みながら談笑をした。
「もう…7年にもなるんだな…」
「舞華の事か?」
龍弥は舞華の仏壇のほうを見た。
「あぁ…ほんっとお前には勿体ない人だったよ」
「それな…俺だってそう思ってたくらいだ」
「舞ちんの事だ。今のお前を見たら、絶対説教すると思うぞ」
「ふ…だろうな」
龍弥は舞華の仏壇に焼酎のグラスを供えて、線香を焚いた。
「舞ちんの…最期の言葉…覚えてるか?」
「忘れるわけねぇよ」
「舞ちん、お前には自分のことを引きずらずに、新しい恋愛をしてって言ってたな…」
「…あぁ…」
まぁやんは焼酎のグラスを空けた。
「まぁやん、お前は今なんか気になってる娘とかいねぇのかよ?」
「今か?いねぇな。そんな気分にもなれなかったし」
「どうするつもりだ?一生恋愛しないつもりか?」
「……」
「結婚だってあるし、お前子供が好きじゃないか!子供欲しいとは思わないのか?」
「龍弥…正直、解らねぇんだ」
「ん?」
「舞華の遺言はわかるけど、それを踏まえて俺と付き合ってくれる人なんて…いねぇだろ?」
「まぁ…普通は重いよな…」
「ふふ…相変わらずはっきり言いやがる…まぁ、そうなると思うんだ」
「じゃあよぉ、舞華の事も飲み込める女だったらどうよ?」
「そんな酔狂なやつ…いるかよ…」
「……恋…なんか…どうよ?」
龍弥はつい、口を滑らせて恋の名前を出してしまった」
「はぁ?おめぇ酔っ払ってんのか?恋は妹だろ?」
「まぁ…妹みてぇなもんだ。でもよ、恋も年頃の女だぜ。しかも最近綺麗になったと思わねぇか?」
「…まぁな…」
「あいつよ…何人かの男と付き合ったけど、うまくいかなかったみたいだぞ」
「そうなんか?なんで?」
「心の中で想っている人がいるんだよ…」
「誰よ?お前知ってるのか?」
まぁやんは前のめりに聞いてきた。
「気になるのか?」
「いや…ほら…兄貴としてな…」
龍弥はこの時、まぁやんも少しは恋の事を気になっているんだろうと確信した。
「いや!今は言えねぇな」
「なんだよ…勿体ぶりやがって」
「まぁ、とにかく居るんだよ。恋にも。好きな人がな」
「そっか…そうだよな…うん…」
「なに?まぁやん、気になるのか?」
「まぁ…気にならないっていうと嘘になるな」
「そっか…ところでお前はどうなんだよ。好きな人とか作らねぇのか?」
「またその話かよ?男ふたりで恋バナって気持ち悪いだろうよ」
「まぁまぁ、そう言わずに」
龍弥はまぁやんに焼酎を注いだ。
「まったくよぉ」
「で?作らないのか?」
「そうだな。作らないってわけでもない。こんな重たい過去をもってるやつでも、愛してくれる人がいるんだったら…しなくもない」
「ほぉ~」
「ほぉ~じゃねぇよ!なんだよ!今日のこの会は?」
「いやいや、俺の一番の友でもあるまぁやんが、このまま幸せを放棄し続けるのが忍びないのよ」
「ありがとよ」
「今日はお前の気持ちが聞けて、大収穫だよ」
「ほぼ尋問だったけどな。あっ!お前この話、美紀ちゃんに言うんじゃねぇぞ!」
「あーうん。多分ね」
「お前…言う気満々じゃねぇか」
「はははは!まぁまぁ」
「んで?恋の好きなやつって?どんな奴よ?」
「ん~となぁ。背は普通で、髪はあまり長くない奴」
「…お前…むかつくな…」
「んで、男気があって、頼れるやつだな」
「そっか。龍はそいつに恋を任せてもいいと思ってる奴なのか?」
「あぁ。俺は良いと思ってる。むしろそいつしかダメだろうな」
「そっか…お前がそういうなら…大丈夫そうだな」
「あとはお前だ!ちゃんと前向けよ」
「わぁーたって!しつけぇなぁ」
そしてその後は談笑が続き、その日龍弥はまぁやんの家に泊まった。

「恋、まぁやんさんね、全く恋愛するつもりないわけじゃないみたいだよ」
「ほんと?そうなんだ!」
美紀は龍弥から得た情報を恋に報告した。
「でもね、雰囲気からして今すぐっていうのは難しいかも知れないね」
「わたしは今すぐどうこうとは考えてないよ。まぁ兄のその気持ちだけ知れただけでも嬉しい」
「あとね、龍ちんがちょっと口を滑らせちゃって…」
「ん?なにを?」
「恋に想い人がいるっていうのを、まぁやんさんに言っちゃったの…」
「え…えぇぇぇぇぇ~」
「ごめん!恋!」
「え?え?ちょっと待って?まさかわたしの好きな人がまぁ兄だってことも?」
「いや、それは言ってない!ただ想い人がいるってだけ。まぁやんさんも誰だ?って聞いてたみたいだけど、教えなかったって」
「あーもう!龍兄のバカ…」
「ほんとバカだよね…ごめんね」
「なんで美紀が謝るのさ」
「その話した時ね、龍ちんがね、まぁやんさん、少しは恋の事…気になっているんじゃないかって」
「ま…まさか…」
「でもでも、全く有り得ないことでもないでしょ?」
「う~ん。でもぉ…」
「だからさ、あんたはあんたの想いを貫きな!よそ見しないで、まぁやんさんひと筋を貫きな!」
「うん!わかった!ありがとう。美紀」
「なんのなんの!私は龍ちんを動かしただけだから」
恋はこの日から、まぁやんに対しての想いを大切にして、いつかこの想いを伝えることを心に誓った。
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