竜が歌うは恋の歌 閨に響くは俺の声

後ろ向きミーさん

文字の大きさ
3 / 3

竜が歌うは恋の歌

しおりを挟む
次の日、自分に与えられた簡素な部屋で目が覚めた。

「・・夢・・?」

なんて幸せな夢だろう、途轍もない美女と夜を過ごすなんて・・。

自嘲気味に乾いた笑みを浮かべ、だるい体を起こすと、小指の先に金の髪が結ばれているのが目に飛び込んできた。

夢ではないのか・・俺はあの美しい人と・・。

体はさっぱりして、着衣に乱れも無い。
事後の世話をヒスイ殿がやってくれたのだろうか?

まさか彼女に抱きかかえられ、この部屋へ、戻ってきたのか?
何て事だ・・・穴があったら入りたいとはこの事か・・。

・・竜に選ばれなかった俺が、里を訪れる事は無い。
もう二度と会う事は出来ないだろう・・せめて最後に別れを告げたかったな。

金の髪をそっと包み、胸元に忍ばせた。


広場にて帰路の為の準備を整えているロアンの元へ、子息達が自分達の支度も疎かにニヤニヤしながらやって来る。

娶った竜の準備も、まだだろうに・・。
ロアンは深いため息をついた。

「昨晩は何処に雲隠れしていた?」

「娶れなかった者が宴席に出れるはずもないだろう。雲隠れも当然だな。」

相変わらずの嘲りに、真向反論したい所だが、まさか傾国の美女と野外で一晩中睦合っていたなど、口が裂けても言える筈がない。
昨晩の淫靡な肢体のさまが、ちらと頭を過っただけで、腹の下に熱が籠りそうになるのを必死で堪える。

「なっ!なんだ!その惚けた顔は!」

苦痛に歪む顔を期待していたのに、ロアンに浮かぶのは、明らかに閨事の後を滲ませた艶めいた顔。
日頃ない色気のあるロアンの表情に、子息達は動揺し、顔を赤らめた。


出立の時刻が近づき、里の者が見送りの為に集まっていたが、広場に居並ぶ竜達より一際大きく黄金色に輝く竜が上空から飛来し、騒然となった。

「おお!黄金色!あれは滅多に人前に現れない当代の龍王ですよ。」

その竜が、ロアンの前にふわりと舞い降りたのだ。

他の竜達は、黄金竜に恭順を示す様に、一斉に伏せ首を垂れる。

美しい翠色の瞳と目が合ったと思うと、その鼻先が、ロアンの目と鼻の先に近づいてくる。

「キュイーイイィ。キュイーイイィ。」

竜がロアンに向かって歌う。
これは竜の求愛の歌だ。

「えっ!俺をを選んでくれるの?俺竜騎士になれるの?」

そっと竜の鼻先に手を伸ばすロアン。
黄金の竜が嬉しそうに眼を細め、クルルと甘える声で鳴いた。

龍王を娶れるなんて、夢みたいだ!

「馬鹿な!ロアンの竜が王だと!」

「何か仕組んだのではないか?」

遠巻きに罵声を浴びせる子息達。

途端、側にいた己が娶った竜より容赦なく尾が振り落とさ、地面に叩きつけられた。
竜達は威嚇の声さえ上げ、荒ぶる様子で子息達を踏みつぶし、悲鳴があがる。

『我が夫に対する無礼は許さぬ!』

聞き覚えのある声だった。
黄金竜の姿が光と共に揺らぐと、そこに立っていたのは、ロアンを軽々と抱きかかえ、激昂しても美しさを損なわないヒスイだった。

「貴様達は身の程を弁える事を、理解できぬ様だな!己が娶った竜に、躾直して貰うが良い!」

「ヒスイ殿が・・龍王?」

「ロアン・・愛しい方。貴方は紛れもない『竜の愛し子』この龍王たる私の番なのですよ。」


竜達は『娶る』時、その人物の纏う色を見ている。
好ましい色を纏うもの選ぶのだ。

見合いを待つ竜達の前に現れたのは、小さな人族の騎士の中にあって、さらに一層小さな騎士。

竜達の目には、その騎士が金の光を纏い輝いているのが見て取れた。

金の光!
間違いない!この方は当代姫王様の愛し子様だ!

「待て!待て!いくら惹かれるとは言え、王の愛し子様を、我らが娶る事など出来る筈がないだろう!」

「姫様はいずこか?」

「おっ俺!姫王様に探してくる!」

「今日は火山の方では?姫様ぁ~!」

と恐慌をきたしたのが、娶りの儀の真相だった。


「さ・・ロアン様参りましょう。」

娶った竜と共に今から国へ帰路に就くはずなのに、ロアンを姫抱きに抱え直し胸に抱いたヒスイの足は里の方へ向けられていた。

「はえっ?何処へ?」

「勿論ねやですよ。蜜月ですもの。」

頬を桜色に染め、零れんばかりの笑みを浮かべたヒスイが、事も無げに衝撃の一言を告げる。

「ま!まって!まって!閨って!」

「旦那様、可愛がって下さいましね。」

それから二人の蜜月は、ゆうに3か月以上続いたという。

時折、零れ聞こえるロアンの啼き声を耳にする里の竜達は 『姫様がお幸せそうで何よりだ』 と満足げに頷きあった。


こうして美しい龍王を娶ったロアンは、後に竜騎士の団長にまで上り詰めた。

その生涯で成し遂げた数々の偉業と、砂糖を塗した様に甘々で、周囲が呆れるほどの仲睦まじさは、末永く後世へと語り伝えられたと言う。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

番など、今さら不要である

池家乃あひる
恋愛
前作「番など、御免こうむる」の後日談です。 任務を終え、無事に国に戻ってきたセリカ。愛しいダーリンと再会し、屋敷でお茶をしている平和な一時。 その和やかな光景を壊したのは、他でもないセリカ自身であった。 「そういえば、私の番に会ったぞ」 ※バカップルならぬバカ夫婦が、ただイチャイチャしているだけの話になります。 ※前回は恋愛要素が低かったのでヒューマンドラマで設定いたしましたが、今回はイチャついているだけなので恋愛ジャンルで登録しております。

呪われた黒猫と蔑まれた私ですが、竜王様の番だったようです

シロツメクサ
恋愛
ここは竜人の王を頂点として、沢山の獣人が暮らす国。 厄災を運ぶ、不吉な黒猫─────そう言われ村で差別を受け続けていた黒猫の獣人である少女ノエルは、愛する両親を心の支えに日々を耐え抜いていた。けれど、ある日その両親も土砂崩れにより亡くなってしまう。 不吉な黒猫を産んだせいで両親が亡くなったのだと村の獣人に言われて絶望したノエルは、呼び寄せられた魔女によって力を封印され、本物の黒猫の姿にされてしまった。 けれど魔女とはぐれた先で出会ったのは、なんとこの国の頂点である竜王その人で─────…… 「やっと、やっと、見つけた────……俺の、……番……ッ!!」 えっ、今、ただの黒猫の姿ですよ!?というか、私不吉で危ないらしいからそんなに近寄らないでー!! 「……ノエルは、俺が竜だから、嫌なのかな。猫には恐ろしく感じるのかも。ノエルが望むなら、体中の鱗を剥いでもいいのに。それで一生人の姿でいたら、ノエルは俺にも自分から近付いてくれるかな。懐いて、あの可愛い声でご飯をねだってくれる?」 「……この周辺に、動物一匹でも、近づけるな。特に、絶対に、雄猫は駄目だ。もしもノエルが……番として他の雄を求めるようなことがあれば、俺は……俺は、今度こそ……ッ」 王様の傍に厄災を運ぶ不吉な黒猫がいたせいで、万が一にも何かあってはいけない!となんとか離れようとするヒロインと、そんなヒロインを死ぬほど探していた、何があっても逃さない金髪碧眼ヤンデレ竜王の、実は持っていた不思議な能力に気がついちゃったりするテンプレ恋愛ものです。世界観はゆるふわのガバガバでつっこみどころいっぱいなので何も考えずに読んでください。 ※ヒロインは大半は黒猫の姿で、その正体を知らないままヒーローはガチ恋しています(別に猫だから好きというわけではありません)。ヒーローは金髪碧眼で、竜人ですが本編のほとんどでは人の姿を取っています。ご注意ください。

彼女は白を選ばない

黒猫子猫
恋愛
ヴェルークは、深い悲しみと苦しみの中で、運命の相手とも言える『番』ティナを見つけた。気高く美しかったティナを護り、熱烈に求愛したつもりだったが、彼女はどうにもよそよそしい。 プロポーズしようとすれば、『やめて』と嫌がる。彼女の両親を押し切ると、渋々ながら結婚を受け入れたはずだったが、花嫁衣装もなかなか決めようとしない。 そんなティナに、ヴェルークは苦笑するしかなかった。前世でも、彼女は自分との結婚を拒んでいたからだ。 ※短編『彼が愛した王女はもういない』の関連作となりますが、これのみでも読めます。

ただの新米騎士なのに、竜王陛下から妃として所望されています

柳葉うら
恋愛
北の砦で新米騎士をしているウェンディの相棒は美しい雄の黒竜のオブシディアン。 領主のアデルバートから譲り受けたその竜はウェンディを主人として認めておらず、背中に乗せてくれない。 しかしある日、砦に現れた刺客からオブシディアンを守ったウェンディは、武器に使われていた毒で生死を彷徨う。 幸にも目覚めたウェンディの前に現れたのは――竜王を名乗る美丈夫だった。 「命をかけ、勇気を振り絞って助けてくれたあなたを妃として迎える」 「お、畏れ多いので結構です!」 「それではあなたの忠実なしもべとして仕えよう」 「もっと重い提案がきた?!」 果たしてウェンディは竜王の求婚を断れるだろうか(※断れません。溺愛されて押されます)。 さくっとお読みいただけますと嬉しいです。

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

記憶を無くした、悪役令嬢マリーの奇跡の愛

三色団子
恋愛
豪奢な天蓋付きベッドの中だった。薬品の匂いと、微かに薔薇の香りが混ざり合う、慣れない空間。 ​「……ここは?」 ​か細く漏れた声は、まるで他人のもののようだった。喉が渇いてたまらない。 ​顔を上げようとすると、ずきりとした痛みが後頭部を襲い、思わず呻く。その拍子に、自分の指先に視線が落ちた。驚くほどきめ細やかで、手入れの行き届いた指。まるで象牙細工のように完璧だが、酷く見覚えがない。 ​私は一体、誰なのだろう?

貴方は私の番です、結婚してください!

ましろ
恋愛
ようやく見つけたっ! それはまるで夜空に輝く真珠星のように、彼女だけが眩しく浮かび上がった。 その輝きに手を伸ばし、 「貴方は私の番ですっ、結婚して下さい!」 「は?お断りしますけど」 まさか断られるとは思わず、更には伸ばした腕をむんずと掴まれ、こちらの勢いを利用して投げ飛ばされたのだ! 番を見つけた獣人の男と、番の本能皆無の人間の女の求婚劇。 ✻ゆるふわ設定です。 気を付けていますが、誤字脱字などがある為、あとからこっそり修正することがあります。

番が逃げました、ただ今修羅場中〜羊獣人リノの執着と婚約破壊劇〜

く〜いっ
恋愛
「私の本当の番は、 君だ!」 今まさに、 結婚式が始まろうとしていた 静まり返った会場に響くフォン・ガラッド・ミナ公爵令息の宣言。 壇上から真っ直ぐ指差す先にいたのは、わたくしの義弟リノ。 「わたくし、結婚式の直前で振られたの?」 番の勘違いから始まった甘く狂気が混じる物語り。でもギャグ強め。 狼獣人の令嬢クラリーチェは、幼い頃に家族から捨てられた羊獣人の 少年リノを弟として家に連れ帰る。 天然でツンデレなクラリーチェと、こじらせヤンデレなリノ。 夢見がち勘違い男のガラッド(当て馬)が主な登場人物。

処理中です...