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残念美人

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「環ちゃん、何の本読んでるの?」
 
母方の従妹で一つ年上のくくり たまきは、楚々とした美少女だ。
涼し気な目元、射干玉の様な黒髪は耳元で切りそろえられ、そこから見える首筋の細く白い事と言ったら、同性の美和みわがうっとりするほどである。
いつも子犬の様だと言われる美和は、こんな風に生まれていたら私の人生バラ色だったろうな、と思わずにはいられない。
親戚だと言うのに、このパーツの違いは何だろう、心の中でそっと溜息。
頑張れ美和。

「小説よ。」
 
そうつぶやきつつ、凛とした表情でページを読み進めていく姿は、『詩集よ』なんて聞き間違えそうなくらいの風情である。
その横顔をちらちらと、遠巻きに見ている男子生徒の視線に、恋事に慣れていない美和でさえ気が付くのだが、当の環は一向に気にした様子がない。
 
「えっと、だから、ジャンル。推理小説とか?」
 
「官能小説。」
 
電車内が、一瞬氷付いた気がするのは、気のせいではないだろう。
ごめん環ちゃん、聞いた私が悪かった。
 
「ジャンルは、びーえる。」

いやぁぁぁ!環ちゃん、ごめん!本当に、本当に、私が悪かった、それ以上、解説しないでぇぇぇぇ!
美和は慌てて、環の口元をふさいだ。
環は、きょとんとした表情を浮かべたが、美和の手をそっと下ろしていく、そのあと薔薇がほころんだ様な超絶な微笑を浮かべ、こうのたまった。
 
「ちなみにリーマンものよ。」
 
「たっ、環ちゃんっ!」焦りまくる私を、鈴の様に転がる声で笑う環ちゃん。
 
「大丈夫よ、美和ちゃん。人の目など気にしないから。私は私だし。」

はっ!腐女子宣言をしたにも関わらず、熱視線が確実に増えている。美人オーラ恐るべし。
 
「はぁー。美人なのに、相変わらず残念・・・。」しまった、本音があふれた。
 
「・・・美和ちゃんも相変わらずね。」
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