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君の名は?

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最近美和は、下校途中に散策しながら帰るのを日課にしている。
人はそれを『寄り道』もしくは『道草』と言う(笑)
まだ部活にも入っていないし、まだ馴染みのない無いこの町を、探検気分でウロウロしながら帰路を楽しんでいる。

先日も美味しいタイ焼き屋さんを脇道で発見!私はご満悦だ。

知ってる?
量産の型で焼くタイ焼きは『養殖』、一個づつの型で焼きあげるのは『天然』って言うんだよ。

ここのお店は『天然』で粒あんの塩加減が絶妙。すっかり虜になってしまった。

で、今日は環ちゃんやおばさん達にも食べて貰おうと店先で焼きあがるのを待っている。

うーん?後ろから視線を感じるのだが?
順番待ちで急いでる人かなぁ?

そろりと後ろを振り返ると、バッチリと和服の男性と目がかち合った。
この人見覚えがあるぞ。

「こんにちは。」

「・・・・こんにちは?」

おや?なんか怪訝そうにしてる。
あーそうか。
こっちは覚えるけど、向こうからすれば、見ず知らずの女子高生に急に挨拶されても戸惑うよねー。

「えーこの間、ミレーヌさん所の食事会でお見掛けしました。私も参加してたんですよ。すいません不躾に挨拶して。」

「・・・そうでしたか・・お嬢さんは、私を覚えてたんですか?」

「はい。和服姿が印象的で覚えてたんです。綺麗に着こなしてるなぁって思って。今日も素敵な御着物ですね。」

「それは・・あの・・ありがとうございます。」

あらら。褒められて照れてるのかな?
ほんのり耳が赤くなってる。
大人の男性に失礼だけど、可愛らしい。

「ここのタイ焼き美味しいですよね。じゃあ、お先に失礼します。」

こんな如何にもお金持ちですって、若旦那風の方も並んでタイ焼きとか買うんだなぁなんて呑気に思いながら、冷めないうちにと、美和は帰路を急いだ。

美和が去った後、若旦那がタイ焼きを買う事は無かった。

「聞いた?・・・ふふっ・・私の事を覚えてたって・・。」

熱に侵されたようにウットリと美和の後ろ姿を見つめる。

「百々・・・あの子の事調べといて。」

「受け賜りました。」

夕方の雑踏の中、二人など最初からいなかった様に、その姿は掻き消えた。
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