脆弱作家は今日も元気に異世界奇譚を綴ります

そんそん

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第一部

悔やむ過去と憂う現在

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    あの頃はみんな輝いてた。なのにどうして俺は今、こんなに暗くて冷たい世界で孤独なんだろう。
    やっぱり死ぬのは怖い。俺はぼんやり光る希望に手を伸ばした。



    3年前ーーーーー

    隼人すげぇな!優秀賞だって!
    綿石くんすごい!出版もされるって噂よ!
    はっきり言ってそんなセリフ何百回と聞いた。

「たまたまみたいなもんだからそんな騒ぐなって。」

    俺はいつもそう答えていた。これからの人生もこんな感じなんだろうと何の危機感も持っちゃいなかったが周りの期待が心底邪魔だった、いや邪魔だと感じているとしか思っていなかった。そんな天狗の鼻をへし折るかのようにあんなことが起こってしまった。



    出版社の人から連絡があり、優秀賞を取った俺の作品を出版するという話を持ちかけられた。その日はいわゆる打ち合わせというやつだった。

「…ということで君の実力は相当なものだ。その力が世間に知られずに埋もれてしまうのは本当にもったいない。僕が編集長に直接掛け合って出版の許可を得たんだ。」

「本当ですか!ありがとうござ…」

    続く言葉が出なかった。あまりの腹部の痛みに俺はイスから転げ落ち悶え苦しんでいた。出版社の人は大慌てで救急車を呼び、俺が運ばれる頃にはどこかに電話をかけていた。


    目を開けると知らない天井が見える。まだ腹が疼いている。横を向くと母親と白衣の男が会話している。

「息子は大丈夫なのでしょうか…?」

「ストレス性の胃潰瘍なので恐らく命の心配はないと思います。ですがあまりにも重症なのでしばらくの間…そうですね、3ヶ月ほどは入院してもらうことになるでしょうね。」

    3ヶ月だと?俺の小説の…『現代奇譚』の出版まで1ヶ月もないってのに… どうなるんだろうか。
    俺の心配は最悪の形で実現することになった。胃潰瘍で倒れてからちょうど1週間後、出版社からメールが来た。気取った言葉で飾られていたが内容はスカスカで意訳するとこんなところだ。

(君みたいな大事な時期に倒れる人材に用は無いよ。優秀賞取れるだけの実力は認めてあげるから本は他で出してね。
追伸 出版は金賞作品の『赤の皇国』に決まりました。)

    その日から俺の人生は変わった。周囲からの期待の目などもはや無く、どれだけ執筆しても認めてくれる人間はいない。高校生活は灰色へと変わりその代わりに俺は赤いものが大嫌いになった。とりあえず大学には行っておきたい という理由でそれなりの勉強をして文学部へと進んだが文学部を選んだのは俺にまだ小説家になりたいという夢があるからなのかもしれない。一度は叶うと思った夢を得るために俺は新生活を始めた。



「はぁー…今日もポイントは0。売り込みもイマイチ。あの時の小説と何が違うんだっていうんだよ…」

    時刻は深夜23時を回った頃、俺は1人アパートの部屋でため息をついていた。あれから3年間、必死になって頑張ってきたつもりだが一向に認められそうにない。ハタチを目前にして叶うはずもない夢にしがみついてる俺自身が惨めで、情けなくて、気づくと俺は泣いていた。

「明日もダメだったら… どうしよう。」

    誰にも評価されないことには慣れっこだったが、恐怖を感じない訳ではない。

「俺には才能が無いんだろうな。下手の横好きってやつか。」

    もはや悲しみを通り越してうっすら笑みを浮かべた俺はそうつぶやいて目を閉じた。



    大学の講義は14時には終わって、売り込みに行っていた出版社からの帰り道、ナントカ大橋とかいう橋の上で俺は黄昏ていた。

「もうダメなんだろうなぁ… あの時胃潰瘍になった時から全部狂っちまった。って言っても憎むなら俺の豆腐メンタルくらいしかないんだけどな。」

    夕方だからだろうか、橋の上には誰もいない。朝通る時には沢山いるから、もう少しして終業時刻になれば人が増えるかもしれない。そんなことを考えながら俺は

「生きるってのは大変なんだな。」

    などと哲学めいた独り言をつぶやきながら何気なくうつむくとはるか下に水面があった。

「ここから落ちたら…」

    いっそ死んでしまった方が楽かもしれない。優秀賞を取ったあの日、プレッシャーに押しつぶされて倒れたあの日、出版取り消しのメールを受け取ったあの日、俺の記憶に鮮明に残っているものといったら小説に関することばかりだ。

「小説家としてデビューしたかったなぁ…」

    そうつぶやきながら、俺は何のためらいもなく欄干を乗り越え、その身を投げた。
    一瞬の浮遊感の後に訪れるザボンという水音。そして俺を包み込む暗闇と静寂。息が漏れるゴボゴボという音が聞こえないのは俺が壊れていってるからだろう。
    あれ、ちょっと待って、これ苦しすぎない?やばいこの死に方は俺には無理だ!無理無理無理!そう思った俺は頭上に見える夕焼けであろう光に手を伸ばした。



    そこにはいつもの帰り道、河川敷と遠くに見えるビル群が広がっている… はずだった。
    なんだここは… 真っ赤な建物に… あれは城か?見覚えのない景色なのにどこか懐かしい感覚に心は支配されていた。大嫌いな赤色の街なのに。

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