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48.謝罪の言葉
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実家に帰るための準備は整った。あとは馬車に乗ってしまえばすべておしまい。
未練が歩みを遅くする。
城内を一歩一歩ゆっくりと歩いていると、庭の方でアエルバートの姿が目に入った。
アエルバートには挨拶していないけれど、別にいいわよね。
もうすでに婚約者ではないし、敵視もされている。わざわざこちらから危険な相手に近づいて行く必要はない。
でも――。
アエルバートはなんだかうなだれているように見えた。
そう感じてしまったから、ついついアエルバートの方へと足を向けてしまう。
「アエルバート様? どうかなさいまして?」
「……セラフィンか」
声に覇気が感じられない。
最近ではセラフィンに敵意よりももっと酷い――殺意の籠もった視線を向けてくるアエルバートが、騒ぐこともなくただ空中へと視線を投げていた。
「どうしてこうなってしまったんだろうな……おまえはそうは思わないか、セラフィン?」
「なんのことでしょうか?」
「オスリック兄さまとブレアナのことさ」
そうだったわ。
アエルバートはブレアナを好きだった。そのブレアナがオスリック殿下との結婚を画策しているのだから、アエルバートはフラれたことになる。
「オスリック兄さまはおまえと結婚するんじゃなかったのか?」
「……事情が変わったのでしょう」
オスリック殿下の毒のこともブレアナが治癒能力者であることも言えなくて、ただ曖昧に流した。
けれどその何気ない私の返答が、アエルバートはお気に召さなかったらしい。
「おまえにとってオスリック兄さまはその程度の相手だったというわけか。公爵家の令嬢とはいえ、随分と図に乗っているな」
「……私ごときが口出しできるお話ではありませんので」
「おまえが婚約を断ったから、オスリック兄さまはブレアナを次の候補として選んだんじゃないのか?」
アエルバートがとんでもない勘違いをしていると気付いて、私は思わず顔を上げる。そこで初めてアエルバートと目が合った。隈ができていて、いかにも体調が悪そうだ。
「私ではなく……ブレアナがオスリック殿下との結婚を望んだのでオスリック殿下がそれに応えたまでのことです」
「ブレアナがそんなことを望むはずがない!」
「……!」
「それにオスリック兄さまもそんなことを望むはずがない……兄さまはおまえとの結婚を望んでいた。じゃあ、いったい誰のせいでこんなことになっている? セラフィンしかいないじゃないか」
「……私だって……オスリック殿下と一緒にいたかったですよ……」
ポロリと口から零れたのは、ずっと胸にしまっておいた本音だった。
アエルバートの緑色をした瞳が見開かれる。
「……すまない。頭に血が上っていた」
驚いた。あのアエルバートが私に謝った。
「…………僕は、ずっとセラフィンのことを誤解していたのかもしれない」
アエルバートが腰を折り、深く頭を下げた。
驚いて、私はその様子をまじまじと見てしまう。
「今までのことも詫びさせてほしい。すまなかった」
未練が歩みを遅くする。
城内を一歩一歩ゆっくりと歩いていると、庭の方でアエルバートの姿が目に入った。
アエルバートには挨拶していないけれど、別にいいわよね。
もうすでに婚約者ではないし、敵視もされている。わざわざこちらから危険な相手に近づいて行く必要はない。
でも――。
アエルバートはなんだかうなだれているように見えた。
そう感じてしまったから、ついついアエルバートの方へと足を向けてしまう。
「アエルバート様? どうかなさいまして?」
「……セラフィンか」
声に覇気が感じられない。
最近ではセラフィンに敵意よりももっと酷い――殺意の籠もった視線を向けてくるアエルバートが、騒ぐこともなくただ空中へと視線を投げていた。
「どうしてこうなってしまったんだろうな……おまえはそうは思わないか、セラフィン?」
「なんのことでしょうか?」
「オスリック兄さまとブレアナのことさ」
そうだったわ。
アエルバートはブレアナを好きだった。そのブレアナがオスリック殿下との結婚を画策しているのだから、アエルバートはフラれたことになる。
「オスリック兄さまはおまえと結婚するんじゃなかったのか?」
「……事情が変わったのでしょう」
オスリック殿下の毒のこともブレアナが治癒能力者であることも言えなくて、ただ曖昧に流した。
けれどその何気ない私の返答が、アエルバートはお気に召さなかったらしい。
「おまえにとってオスリック兄さまはその程度の相手だったというわけか。公爵家の令嬢とはいえ、随分と図に乗っているな」
「……私ごときが口出しできるお話ではありませんので」
「おまえが婚約を断ったから、オスリック兄さまはブレアナを次の候補として選んだんじゃないのか?」
アエルバートがとんでもない勘違いをしていると気付いて、私は思わず顔を上げる。そこで初めてアエルバートと目が合った。隈ができていて、いかにも体調が悪そうだ。
「私ではなく……ブレアナがオスリック殿下との結婚を望んだのでオスリック殿下がそれに応えたまでのことです」
「ブレアナがそんなことを望むはずがない!」
「……!」
「それにオスリック兄さまもそんなことを望むはずがない……兄さまはおまえとの結婚を望んでいた。じゃあ、いったい誰のせいでこんなことになっている? セラフィンしかいないじゃないか」
「……私だって……オスリック殿下と一緒にいたかったですよ……」
ポロリと口から零れたのは、ずっと胸にしまっておいた本音だった。
アエルバートの緑色をした瞳が見開かれる。
「……すまない。頭に血が上っていた」
驚いた。あのアエルバートが私に謝った。
「…………僕は、ずっとセラフィンのことを誤解していたのかもしれない」
アエルバートが腰を折り、深く頭を下げた。
驚いて、私はその様子をまじまじと見てしまう。
「今までのことも詫びさせてほしい。すまなかった」
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