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【拓斗×愛乃】知らない顔
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週に一度のLHRの時間。今日の議題は一か月後の日帰り遠足のリーダー決めだ。
リーダーの仕事は、前日までの準備や当日の点呼といった幅広い物だった。
「女子のリーダーは愛乃ちゃんがいいと思いまーす」
「え!」
友達の一人が手を挙げて大声で宣言する。
突然の指名にわたしは驚いたものの、強く拒否をするほどのことでもなくて、周囲の様子をうかがう。
「いいじゃん」
「愛乃ちゃん、しっかりしてて頼りになるし」
「賛成! 賛成!」
反対の声は一つとして挙がらず、黒板にわたしの名前が書かれた。
わたしの名前の隣に視線を移す。男子リーダーの欄はまだ空欄のままだ。
男子の方のリーダーを女子が推薦してはいけないなんてルールはないけど、それでもやっぱり女子が推薦するということはない。
「んじゃあ、男子は拓斗でいいんじゃないか?」
「あー……いいと思う」
ぽつりぽつりと男子の声が出てきた。
指名された当の本人へと視線を向けると、他人事のような涼し気な表情だ。これが拓斗くんの通常運転だと知ってはいるけど、すぐに動揺してしまう自分との違いに尊敬さえしてしまう。
どうするんだろう、と思っていると拓斗くんの顔がわたしの方へ向いた。
「愛乃さんはどう思う?」
「え、わ、わたし?」
「うん。だって一緒に作業することになるから、愛乃さんが嫌なら俺じゃない方がいいかと思って」
「ぜ、全然そんなことないよ。拓斗くんがいいなら、ぜひ拓斗くんにお願いしたいもの」
まったく嫌なんて気持ちないのに誤解されたらいけない。そう考えて否定したら、なんだか前のめりな返答になってしまった。
拓斗くんは一瞬目を丸くした後、小さく笑った。……うぅ、恥ずかしい。
「じゃあ、男子のリーダーは俺が引き受けるよ」
一か月後の日帰り遠足のリーダー役として、わたしと拓斗くんが選ばれた。理由はシンプルで、頼りになるかららしい。
「確かに拓斗くんは頼りになるって思うど、わたしはそんなことないのに。ねぇ?」
「ふふ、それは愛乃さんが自分を過小評価しすぎ」
空き教室まで遠足のしおりを運ぶ道すがら、拓斗くんに同意を求めたけれど笑い飛ばされてしまった。
「拓斗くんは落ち着いてて何に対しても冷静に見えるし、実際対応できる人だし……尊敬するわ」
「そこまで褒めてもらえるなんて光栄だね」
空色の瞳を細めるその姿はとても絵になる。
左手でしおりを支えながら、拓斗くんは器用に空き教室のドアを開けた。
「どうぞ」
実にスマートな態度に思わず拍手を送りたくなったくらいだ。こんな風にわたしもできたらいいのに……そしたら期待を裏切るかもって怯えなくて済むもの。
中に入って机の上にしおりを置くと、少し遅れて拓斗くんも隣に並べて置いた。
「――愛乃さんってさ、かわいいよね」
「は……え!?」
「性格の愛らしさが顔に出てるタイプでしょ。あ、もちろん顔の造り自体もかわいいと思うよ」
幸運にも容姿に恵まれて生まれてきた自覚はあるけど、こうして褒められるのは何度経験しても慣れない。しかも今回に限って言えば性格まで褒められていて、どう返すのが適切なのか頭の中でまとまらなかった。
「そ、そんなこといきなり言われても……えっと、ありがとう?」
思わず距離を取りながら、頭に浮かんだことを口から出す。
後ずさったときに背中の下の方に何か当たった気がして目を向けると、黒板の粉受けだった。それで、いつの間にか壁際に追い込まれていたのだと気付く。
拓斗くんは近づいてくると、わたしの顔の高さに身をかがめた。
「だから、こうして二人きりで作業できて役得って思ってたんだ」
こんなに近くで拓斗くんの顔を見たのは初めてで、破裂しそうなほど心臓がドキドキしてる。
青味がかった銀色の髪は神秘的で、空色の瞳はどこまでも優しそう。
「……綺麗な顔」
「この状況でそんなこと言っちゃうんだ」
そのまま顔が近づいてきて……!?
嘘、嘘でしょ!?
わたしは思わず目を閉じていた。この行動が正解じゃないと気付いたのはすでに目を閉じた後で、どうすることもできない。
頬に温かくて柔らかい感触が触れる。
そっと目を開けると、まだ近くにいた拓斗くんと見つめ合ってしまう。
「さすがにまだ口にする勇気はないかな」
彼は眉を下げて苦笑した。
「それに……口にしたら嫌われちゃうかもしれないけど、ほっぺだったら俺のことを意識してくれる程度だろ」
頬をつんとつつかれたことで、現実感を取り戻した。何が起こったのかをじわじわと理解して、すごく恥ずかしい。
「キミといると真面目じゃない俺が顔を出すんだ。俺にそんな風に思わせるなんて愛乃ちゃんはいい子だね」
「………………分からない。拓斗くんのことが分からないわ」
「分からないってことは分かろうとしたって事だね。俺のことを分かろうと思ってもらえただけでも収穫かな」
拓斗くんがようやく離れてくれてホッとする。
そのまま彼は部屋を出ていこうとしたけれど、今はすぐに跡を追う気になれなかった。
「……じゃあ、またね」
その場を動かないわたしを数拍眺めて、でもそれ以上は何も言わずに教室を出て行った。わたしが今すぐに拓斗くんと普通に接することができないのを、見抜かれていたのだろう。
一人になったというのに、頬はまだまだ熱かった。
リーダーの仕事は、前日までの準備や当日の点呼といった幅広い物だった。
「女子のリーダーは愛乃ちゃんがいいと思いまーす」
「え!」
友達の一人が手を挙げて大声で宣言する。
突然の指名にわたしは驚いたものの、強く拒否をするほどのことでもなくて、周囲の様子をうかがう。
「いいじゃん」
「愛乃ちゃん、しっかりしてて頼りになるし」
「賛成! 賛成!」
反対の声は一つとして挙がらず、黒板にわたしの名前が書かれた。
わたしの名前の隣に視線を移す。男子リーダーの欄はまだ空欄のままだ。
男子の方のリーダーを女子が推薦してはいけないなんてルールはないけど、それでもやっぱり女子が推薦するということはない。
「んじゃあ、男子は拓斗でいいんじゃないか?」
「あー……いいと思う」
ぽつりぽつりと男子の声が出てきた。
指名された当の本人へと視線を向けると、他人事のような涼し気な表情だ。これが拓斗くんの通常運転だと知ってはいるけど、すぐに動揺してしまう自分との違いに尊敬さえしてしまう。
どうするんだろう、と思っていると拓斗くんの顔がわたしの方へ向いた。
「愛乃さんはどう思う?」
「え、わ、わたし?」
「うん。だって一緒に作業することになるから、愛乃さんが嫌なら俺じゃない方がいいかと思って」
「ぜ、全然そんなことないよ。拓斗くんがいいなら、ぜひ拓斗くんにお願いしたいもの」
まったく嫌なんて気持ちないのに誤解されたらいけない。そう考えて否定したら、なんだか前のめりな返答になってしまった。
拓斗くんは一瞬目を丸くした後、小さく笑った。……うぅ、恥ずかしい。
「じゃあ、男子のリーダーは俺が引き受けるよ」
一か月後の日帰り遠足のリーダー役として、わたしと拓斗くんが選ばれた。理由はシンプルで、頼りになるかららしい。
「確かに拓斗くんは頼りになるって思うど、わたしはそんなことないのに。ねぇ?」
「ふふ、それは愛乃さんが自分を過小評価しすぎ」
空き教室まで遠足のしおりを運ぶ道すがら、拓斗くんに同意を求めたけれど笑い飛ばされてしまった。
「拓斗くんは落ち着いてて何に対しても冷静に見えるし、実際対応できる人だし……尊敬するわ」
「そこまで褒めてもらえるなんて光栄だね」
空色の瞳を細めるその姿はとても絵になる。
左手でしおりを支えながら、拓斗くんは器用に空き教室のドアを開けた。
「どうぞ」
実にスマートな態度に思わず拍手を送りたくなったくらいだ。こんな風にわたしもできたらいいのに……そしたら期待を裏切るかもって怯えなくて済むもの。
中に入って机の上にしおりを置くと、少し遅れて拓斗くんも隣に並べて置いた。
「――愛乃さんってさ、かわいいよね」
「は……え!?」
「性格の愛らしさが顔に出てるタイプでしょ。あ、もちろん顔の造り自体もかわいいと思うよ」
幸運にも容姿に恵まれて生まれてきた自覚はあるけど、こうして褒められるのは何度経験しても慣れない。しかも今回に限って言えば性格まで褒められていて、どう返すのが適切なのか頭の中でまとまらなかった。
「そ、そんなこといきなり言われても……えっと、ありがとう?」
思わず距離を取りながら、頭に浮かんだことを口から出す。
後ずさったときに背中の下の方に何か当たった気がして目を向けると、黒板の粉受けだった。それで、いつの間にか壁際に追い込まれていたのだと気付く。
拓斗くんは近づいてくると、わたしの顔の高さに身をかがめた。
「だから、こうして二人きりで作業できて役得って思ってたんだ」
こんなに近くで拓斗くんの顔を見たのは初めてで、破裂しそうなほど心臓がドキドキしてる。
青味がかった銀色の髪は神秘的で、空色の瞳はどこまでも優しそう。
「……綺麗な顔」
「この状況でそんなこと言っちゃうんだ」
そのまま顔が近づいてきて……!?
嘘、嘘でしょ!?
わたしは思わず目を閉じていた。この行動が正解じゃないと気付いたのはすでに目を閉じた後で、どうすることもできない。
頬に温かくて柔らかい感触が触れる。
そっと目を開けると、まだ近くにいた拓斗くんと見つめ合ってしまう。
「さすがにまだ口にする勇気はないかな」
彼は眉を下げて苦笑した。
「それに……口にしたら嫌われちゃうかもしれないけど、ほっぺだったら俺のことを意識してくれる程度だろ」
頬をつんとつつかれたことで、現実感を取り戻した。何が起こったのかをじわじわと理解して、すごく恥ずかしい。
「キミといると真面目じゃない俺が顔を出すんだ。俺にそんな風に思わせるなんて愛乃ちゃんはいい子だね」
「………………分からない。拓斗くんのことが分からないわ」
「分からないってことは分かろうとしたって事だね。俺のことを分かろうと思ってもらえただけでも収穫かな」
拓斗くんがようやく離れてくれてホッとする。
そのまま彼は部屋を出ていこうとしたけれど、今はすぐに跡を追う気になれなかった。
「……じゃあ、またね」
その場を動かないわたしを数拍眺めて、でもそれ以上は何も言わずに教室を出て行った。わたしが今すぐに拓斗くんと普通に接することができないのを、見抜かれていたのだろう。
一人になったというのに、頬はまだまだ熱かった。
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