堅物生徒会長様とわたしとクラスの人気者

娯遊戯空現

文字の大きさ
2 / 2

後編

しおりを挟む
「いやー、面白い子だね。夢川さん」

 家に帰った夏希は春斗に対してそう切り出した。
 夏希が唐突なのはいつものことなので普段なら気にしないが、夏希の口から出てきた名前に引っ掛かって、春斗は夏希へと視線を向けた。

「今日ね、夢川さんと話す機会があったんだけど、いいリアクションしてくれるんだよ」
「あまり夢川をからかうなよ」
「保護者面しちゃってまぁ……話聞きたくないの? 春斗のこと好き? って聞いてみたんだけどさ、なんて返ってきたと思う?」
「…………」

 春斗の眉間にはしわが寄る。
 あまり怒らせても怖いので、夏希はさっさと答えを告げることにした。

「友達として好き、だって」
「そうか」

 春斗にとっては予想できた答えであってなんの問題もない。だがどうも満足いかない気分だ。

「それで次におれのことは? って聞いたんだけどさ、そしたらおれのことも友達として好きだって」
「…………」

 春斗と琉莉は一年以上前からの付き合いだ。それなのに夏希と同じ評価なのは納得がいかない。だがそれを顔に出すのは悔しくて、春斗はノーリアクションを貫いた。

「おれにからかわれないように頑張ったんだろうね。負けん気が強くて可愛いよね、夢川さん」
「さっきも言ったが、あまり夢川をからかうな」

 そこで春斗は話を切り上げて自分の部屋へと戻った。
 自室でベッドに横になった後も、夏希の言葉が離れない。

『負けん気が強い』

 夏希は確かにそう言った。けれど春斗は琉莉のことをそう思ったことは一度もない。一年以上一緒に役員の仕事をしていて、一度もないのだ。
 自分の見たことのない琉莉の一面を夏希だけが知っている。その事実がひどく不愉快だった。
 その日から、夏希が見ている琉莉を見たくて観察を始めた。
 学校で夏希が琉莉といるときには話し掛けずに、遠くからそのやり取りを見守る。そして気付いたのは、琉莉が自分と一緒のときとはまるで違う表情をしている事実だった。
 春斗といるときの琉莉は優秀だが遠慮がちなところがあった。けれど夏希と話している琉莉ははきはきしていて明るい。
 ああいう琉莉の姿が夏希の目には映っていたのだと知った。
 もう一つ。気付いたことがあった。
 夏希は誰とでも仲良くしているが、その中でも琉莉は特別なようだった。他のみんなは気付いていないようだったが、春斗の目は誤魔化せない。
 夏希は琉莉のことが好きなのだ。
 夏希は中学のときから尋常じゃなくモテるし、自分よりも夏希の方が琉莉の相手に相応しい。春斗はそう感じた。

「春斗、今日も放課後生徒会あるんだろ」
「ああ。夏希はバイトだったな」

 ちょうどよく廊下ですれ違った夏希に声を掛けられた。そうだ、と名案が浮かぶ。
 役員の仕事が終わったら、琉莉を誘って夏希のバイト先であるコンビニに行こう。そうして二人の接触機会を増やせばいい。
 夏希のようにいたずらをしない春斗の言うことに琉莉は簡単に従った。
 コンビニに琉莉を連れて行くと、春斗が予想していなかった珍客がそこにいた。

「あらあら、春斗が夏希のいる時間にコンビニ来るなんて珍しいわね」
「……姉貴」

 春斗と夏希の姉・秋菜あきな
 話を聞くと、秋菜は仕事帰りにお酒とつまみを買って帰るところだったらしい。

「この子が春斗の彼女?」

 春斗の横に立つ琉莉を見るなり、ルージュの引かれた唇が弧を描く。

「え、いえ……あのわたしは」
「あら、じゃあ夏希の彼女? まぁどっちでもいいわ。どっちと結婚しても私の妹になるんですものね」

 笑いながらそんな冗談を言う。
 秋菜は単なる冗談のつもりだったのだろうが、春斗は真剣に想像してしまった。

(そうか。もし夏希と上手くいったら、俺の妹になるのか)

 微笑ましさより苦々しさの方が勝る。みんなが笑う中、ひとり口を引き結んでいた。

「秋菜さんは夏希くん似なんですね」
「夏希が私に似てるのよ」
「あ、それもそうか」

 そのやり取りが耳に届いて、ようやく春斗も笑いの輪の中に戻る。
 レジ打ちと支払いが終わると、夏希が「はーい、ありがとうございましたー」とさっさと帰れというメッセージのこもった挨拶をした。

「ばいばい、柊くん」

 手を振って帰る琉莉に対して、夏希がはにかむ。
 やっぱり夏希は琉莉が好きなんだな、と改めて春斗は思った。




 なんかおかしい。
 ついこの間まで普通だったのに、春斗くんの様子がおかしい。

「柊くんは何か知ってる?」
「……さぁ? 分からないな」

 どうにもわたしは春斗くんに避けられてるみたい。春斗くんの機嫌を損ねることをした覚えがなくて、困惑してしまう。
 春斗くんは尊敬できる生徒会長というだけでなく、大切な友達だ。そんな彼に距離を置かれるなんてことになれば苦しい。

「もしかして彼女ができたとかかな?」

 夏希くんに可能性を告げると、思いの外胸が痛んだ。
 自分で言っておいてなんだけど、春斗くんに彼女ができたなんて信じられない。役員の仕事があるときには一緒に帰っていたし、彼女の姿なんて影も形もなかった。

「それはないんじゃないかな。夢川さん以外の女の子の話しないし」
「……そっか」

 心がわずかに浮上する。
 嬉しい。春斗くんと一番仲がいいのはわたしなんだ。

「夏希」
「うわ、春斗! いつの間に!」

 教室の後ろのドアから入ってきたらしい春斗くんが柊くんに話しかける。

「今日もコンビニでバイトだろ。帰りに期間限定の中華まん五個買って来てって連絡来た」
「知ってる。さっき俺にも届いてるし」
「ちゃんと見てたのか」
「あのさ、春斗はおれのこと信用してなさすぎ」
「二人とも性格は反対なのに仲いいよね」

 春斗くんと柊くんのやりとりが面白くて声を掛けると柊くんは笑ってくれたけど、春斗くんは仏頂面で顔を逸らしてしまった。

「春斗くん?」
「大した用もないのに話し掛けないでくれないか」
「え……」

 返ってきたリアクションに頭の中が真っ白になる。冷たく突き放されるなんてこと想像もしてなかった。

「おい春斗、そういう言い方はないだろ」
「じゃあ中華まん忘れるなよ」

 春斗くんはわたしの方を振り返ることなく教室から出て行ってしまう。

「春斗くん」
「夢川さん、おれあいつと話してくるよ」

 夏希くんがぽんとわたしの肩を叩いた。

「安心して待ってて」




「春斗! おれと夢川さんどっちが大事なんだよ!」
「女友達に少女漫画でも借りたのか?」

 ひとりきりの生徒会室に乗り込んできた夏希に、淡々と春斗は返事をする。

「本気の質問だよ! おれと夢川さん、どっちが大事なんだよ!」
「……どちらも大事だが?」
「そこは夢川さんって言えよ!」

 脱力してうなだれそうになるところを立て直し、夏希は本当に言いたかったことを伝える。

「春斗、おれに夢川さんを譲ろうとしてるだろ。自分だって夢川さんのことを好きなくせに」
「…………」
「本当に嘘が吐けないんだな、春斗は」

 いつの間にか琉莉を好きになっていた夏希。そしてそれを感じ取っていた春斗。春斗がどうして琉莉と距離を取ったのかを考えたら、これしか理由がなかった。

「夢川さん、傷ついてた。夢川さんを傷つけてまで、おれのことを優先してくれるわけ?」
「夏希なら夢川を不幸にしないだろ」
「それって夢川さんの気持ちを考えてないんじゃないか」
「……夢川の気持ち? 夢川だって夏希と一緒で楽しそうだったが?」

 夏希はこれ見よがしに溜息を吐いた。

「そりゃあ友達だからね。でも恋ってもっと特別だと思う。おれから見たら、春斗といるときの夢川さんは他の誰といるときとも違って幸せそうだった」

 夏希から見れば、琉莉の特別は春斗の方だった。
 いろんな女の子を見てきた夏希は、琉莉が本当に好きなのが誰かを見抜くことができた。

「春斗、おれは春斗にも幸せになってもらいたい」
「夏希」
「夢川さんが春斗のことを好きなら、答えはもうはっきりしてるだろ」

 そこまで伝えると、春斗は生徒会室を飛び出していった。

「あーあ、鍵もかけずに出て行くなんて春斗らしくないな」

 心の中で「がんばれ」と応援しながら、ひとり笑みを浮かべた。




「夢川」
「…………」

 廊下を歩いているときに後ろから声がかかる。
 わたしは振り向けなかった。声の主が誰だか知っていたから。

「ごめん、夢川」
「…………」
「俺は、夢川と夏希が恋人同士になればいいと思ってた」
「……そう」
「嘘だ。恋人同士になんてなって欲しくないって思ってたけど、それが一番二人のためだと思っていた」

 春斗くんの話が理解できない。それがなんだというんだ。
 両肩に重さが加わる。びっくりして振り返りそうになる。

「そのまま聞いてくれ」
「……分かった」
「俺は夢川のことが好きだ。夏希じゃなくて俺を選んで欲しい」

 言われたことの意味が分からなくて、呆然とする。
 春斗くんが、わたしのことを好き?
 そう言ってもらえて心が震える。ずっと欲しかった言葉だった。

「……わたしも春斗くんのことが好き」
「それは友達として?」
「違うよ。男の子として春斗くんのことが好きなの」

 ぎゅっと後ろから抱きしめられて、春斗くんの匂いが近くにある。

「俺の恋人になってください」
「……はい。すごく、嬉しい」

 泣きそうになりながら、わたしは笑った。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

で、お前が彼女に嫌がらせをしている理由を聞かせてもらおうか?

Debby
恋愛
ヴェルトが友人からの手紙を手に辺境伯令嬢であるレィディアンスの元を訪れたのは、その手紙に「詳細は彼女に聞け」と書いてあったからだ。 簡単にいうと、手紙の内容は「学園で問題を起こした平民──エボニーを妻として引き取ってくれ」というものだった。 一方その話を聞いてしまった伯爵令嬢のオリーブは動揺していた。 ヴェルトとは静かに愛を育んできた。そんな自分を差し置いて、言われるがまま平民を妻に迎えてしまうのだろうか。 そんなオリーブの気持ちを知るはずもないエボニーは、辺境伯邸で行儀見習いをすることになる。 オリーブは何とかしてヴェルトを取り戻そうと画策し、そのことを咎められてしまう。もう後は無い。 オリーブが最後の望みをかけてヴェルトに自分を選んで欲しいと懇願する中、レィディアンスが静かに口を開いた。 「で、そろそろお前が彼女に嫌がらせをしている理由を聞かせてもらおうか」 「はい?」 ヴェルトは自分が何を言われたのか全く理解が出来なかった。 *--*--* 覗いてくださりありがとうございます。(* ᴗ ᴗ)⁾⁾ ★全31話7時19時更新で、全話予約投稿済みです。 ★★「このお話だけ読んでいただいてもOKです!」という前提のもと↓↓↓ このお話は独立した一つのお話ですが、「で。」シリーズのサイドストーリーでもあり、第一弾「で、私がその方に嫌がらせをする理由をお聞かせいただいても?」の「エボニーその後」でもあります(あるいは「最終話」のその後)。 第一弾「で、私がその方に嫌がらせをする理由をお聞かせいただいても?」 第二弾「で、あなたが私に嫌がらせをする理由を伺っても?」 第三弾「で、あなたが彼に嫌がらせをする理由をお話しいただいても?」 どれも女性向けHOTランキングに入り、特に第二弾はHOT一位になることが出来ました!(*´▽`人)アリガトウ もしよかったら宜しくお願いしますね!

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

【完結】ひとつだけ、ご褒美いただけますか?――没落令嬢、氷の王子にお願いしたら溺愛されました。

猫屋敷むぎ
恋愛
没落伯爵家の娘の私、ノエル・カスティーユにとっては少し眩しすぎる学院の舞踏会で―― 私の願いは一瞬にして踏みにじられました。 母が苦労して買ってくれた唯一の白いドレスは赤ワインに染められ、 婚約者ジルベールは私を見下ろしてこう言ったのです。 「君は、僕に恥をかかせたいのかい?」 まさか――あの優しい彼が? そんなはずはない。そう信じていた私に、現実は冷たく突きつけられました。 子爵令嬢カトリーヌの冷笑と取り巻きの嘲笑。 でも、私には、味方など誰もいませんでした。 ただ一人、“氷の王子”カスパル殿下だけが。 白いハンカチを差し出し――その瞬間、止まっていた時間が静かに動き出したのです。 「……ひとつだけ、ご褒美いただけますか?」 やがて、勇気を振り絞って願った、小さな言葉。 それは、水底に沈んでいた私の人生をすくい上げ、 冷たい王子の心をそっと溶かしていく――最初の奇跡でした。 没落令嬢ノエルと、孤独な氷の王子カスパル。 これは、そんなじれじれなふたりが“本当の幸せを掴むまで”のお話です。 ※全10話+番外編・約2.5万字の短編。一気読みもどうぞ ※わんこが繋ぐ恋物語です ※因果応報ざまぁ。最後は甘く、後味スッキリ

《完結》「パパはいますか?」ある日、夫に似た子供が訪ねて来た。

ヴァンドール
恋愛
嫁いですぐに夫は戦地に赴いた。すると突然一人の男の子が訪ねて来た「パパはいますか?」 その子供の顔は戦地に行った夫にそっくりだった。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

行き遅れのお節介令嬢、氷の公爵様と結婚したら三人娘の母になりました

鳥柄ささみ
恋愛
お節介焼きで困っている人を放っておけないシアは、数多のご令嬢達から人気の令嬢だ。毎日ファンレターが届き、社交界に出れば令嬢に取り囲まれるほどである。 けれど、それに反比例するように男性からの人気はなく、二十七だというのに嫁の貰い手もないため、毎日母から小言をもらっていた。 そんなある日のこと、突然公爵家から縁談の話が。 シアは公爵家がなぜ自分に縁談など持ち掛けるのかと訝しく思いつつ話を受けると、なんと公爵の後妻として三人の娘の母代わりになれと言われる。 困惑するも、自分へ縁談を持ちかけた理由を聞いて、お節介なシアは嫁ぐこと決めたのだった。 夫になるレオナルドはイケメンなのに無表情で高圧的。三人の娘も二女のアンナを除いて長女のセレナも三女のフィオナもとても反抗的。 そんな中でもお節介パワーを発揮して、前向きに奮闘するシアの物語。 ※他投稿サイトにも掲載中

「不吉な黒」と捨てられた令嬢、漆黒の竜を「痛いの飛んでいけー!」で完治させてしまう

ムラサメ
恋愛
​漆黒の髪と瞳。ただそれだけの理由で「不吉なゴミ」と虐げられてきた公爵令嬢ミア。 死の森に捨てられた彼女が出会ったのは、呪いに侵され、最期を待つ最強の黒竜と、その相棒である隣国の竜騎士ゼノだった。 しかし、ミアが無邪気に放った「おまじない」は、伝説の浄化魔法となって世界を塗り替える。 向こう見ずな天才騎士に拾われたミアは、隣国で「女神」として崇められ、徹底的に甘やかされることに。 一方、浄化の源を失った王国は、みるみるうちに泥沼へと沈んでいき……?

婚約者が聖女を選ぶことくらい分かっていたので、先に婚約破棄します。

黒蜜きな粉
恋愛
魔王討伐を終え、王都に凱旋した英雄たち。 その中心には、異世界から来た聖女と、彼女に寄り添う王太子の姿があった。 王太子の婚約者として壇上に立ちながらも、私は自分が選ばれない側だと理解していた。 だから、泣かない。縋らない。 私は自分から婚約破棄を願い出る。 選ばれなかった人生を終わらせるために。 そして、私自身の人生を始めるために。 短いお話です。 ※第19回恋愛小説大賞にエントリーしております。

処理中です...