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20 私はどこにもいきたくないです
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そう言ってクロウウェル様は安心したかのように寝息を立て始めてしまった。
さすがに大の男は私には運べないし、なんなら眠ってしまったことで身体が重くなって座っていられなくなった。
この調子だと朝まで起きないだろうなぁ、と諦めて、大きな声で外に控えてる使用人を呼ぶのも憚られて、ソファにかけてあったショールをクロウウェル様の背中に掛けて大人しくソファに体を預けることに。
お疲れ様です、と小さく囁くと、眠っていてさらに人形のように美しい顔が、ふと笑ったので、さっきの話もあいまって私は両手で顔を覆ってしまう。
(なんて……なんて、恥ずかしい……嬉しいけど、もう、逃げ出したいくらい恥ずかしい……)
覚えてない事で、ずっと想われ続けるというのはなかなか無い体験ではないかな。
でも、一応私は社交界デビューして旦那さんを探してたし……、その時他の人と結婚するとなってたらどうしたんだろう。
今私の上ですやすやと眠るクロウウェル様の金髪を撫でながら、起きたら聞いてみよう、と思っているうちに私も眠くなってしまい、気付いたらそのまま寝てしまって。
ソファでも眠れるのはいい事だけど、起きたらクロウウェル様が何故か恥ずかしそうにしながら座っていて、私の上にショールがかけられていた。
「あら……、すみません。長く眠ってしまいましたか?」
「いや、私こそ君の上で眠ってしまってすまなかった。そんなに長い時間じゃないよ……あの、すまない、お茶を淹れてくれるかな」
「えぇ、わかりました」
何をそんなに恥ずかしがってるんだろう、そのくらい疲れてただけなのに、と思ったけど……お茶を淹れながら気付いた。気付いてしまった。
私がクロウウェル様の寝顔が眺められる位置で寝ていた……すなわち、私の胸元で寝ていた! ぎゃー! 確かに恥ずかしいしこれはどちらも何も言えない!
ひ、貧相とはいいませんが枕として良質かと言われると……いえ、そういうことではなく! あぁー、恥ずかしい! これは恥ずかしいですねクロウウェル様!
お互い知らないふりをする、これはベストだと思います! というかありがとうございます! 気づくんじゃなかった、私!
などと頭の中は混乱しながら長年の習慣で美味しいお茶が入りました。少しだけカモミールを配合して、お互い落ち着きを取り戻しましょう、の代わりにお出しした。
あれはノーカンです、何をそんなに恥ずかしがっていらっしゃるんです、気にしなくて大丈夫ですよ、他にも色々考えましたが、ここは沈黙が正解。
お茶を静かに隣で飲むうちに、少し落ち着いてきた。ふぅ、と半分ほど飲み終わってから、私が寝る前に思った疑問を聞いてみることにした。
仮眠をとって意識が明瞭なクロウウェル様が答えてくれるかはわかりませんが。
「そういえば……、私、クロウウェル様が公爵になられる前に社交界デビューしましたよね?」
「そうだね」
「他にいい人を見つけていたら、どうするつもりだったんです?」
「………………聞かない方がいいと思うな。とりあえず、ダメな男や嫌な家だったりしたら近づけないようにはしていたよ。……いい人だったら……、君がそれで幸せなら、とも思ったんだけど……、うん、ここまでにしようか」
にこ、と笑って誤魔化されました。うん? 近づけないようにしていた? 私、もしかしてずーっと目をつけられていましたか?
いや、それもそうか。私を見つけたのはクロウウェル様が一番早いですからね。言わない方がいいような事をしてまで、私を囲っておきたかったと。
……今日はなんだか、とてものぼせやすい日だな。顔がまた熱い。
「……社交界という場所に羽ばたけば、君の気質の良さも見目の良さも絶対に誰かの目に留まる。私は公爵になるまで君を強引に口説ける程自信はなかったし、まして家格の合わないパーティーに親しくもないのに出ていくわけにもいかない。……本当、君の羽根をもいでしまいたかった。無理な話だけどね」
「羽根をもぐだなんて。そもそも、私に羽根が見えているのはクロウウェル様だけですよ」
「そうかい?」
「……えぇ。私にも、ちょっといいな、と思う方がいたんです。その方と一度だけお食事をして散歩して……、雨の次の日だったので、道が滑りやすくて。その方が転びそうになったのを助けたら……、山猿姫のあだ名はもっと広がっていました。2度と話しませんでしたけどね。猿の尻尾をドレスの下に隠してる、とは言われても、羽根が生えてる、私の天使、なんて言うのはクロウウェル様だ、け……」
黙って、クロウウェル様は私を抱きしめてくれました。
山猿姫と領民や使用人に言われるのは仕方ない。
だけど、帽子を取ってあげたり、転ばないように助けたり、いいことだと思ってやった事が裏目になってかえってくる。ベラ王女は感謝してくれていたけど、傍目から見たらぎょっとするような、淑女らしくないことだったのだろうな。
クロウウェル様、あなたのそばはあまりに居心地がよくて、私はもうどこにも飛んでいけません。
さすがに大の男は私には運べないし、なんなら眠ってしまったことで身体が重くなって座っていられなくなった。
この調子だと朝まで起きないだろうなぁ、と諦めて、大きな声で外に控えてる使用人を呼ぶのも憚られて、ソファにかけてあったショールをクロウウェル様の背中に掛けて大人しくソファに体を預けることに。
お疲れ様です、と小さく囁くと、眠っていてさらに人形のように美しい顔が、ふと笑ったので、さっきの話もあいまって私は両手で顔を覆ってしまう。
(なんて……なんて、恥ずかしい……嬉しいけど、もう、逃げ出したいくらい恥ずかしい……)
覚えてない事で、ずっと想われ続けるというのはなかなか無い体験ではないかな。
でも、一応私は社交界デビューして旦那さんを探してたし……、その時他の人と結婚するとなってたらどうしたんだろう。
今私の上ですやすやと眠るクロウウェル様の金髪を撫でながら、起きたら聞いてみよう、と思っているうちに私も眠くなってしまい、気付いたらそのまま寝てしまって。
ソファでも眠れるのはいい事だけど、起きたらクロウウェル様が何故か恥ずかしそうにしながら座っていて、私の上にショールがかけられていた。
「あら……、すみません。長く眠ってしまいましたか?」
「いや、私こそ君の上で眠ってしまってすまなかった。そんなに長い時間じゃないよ……あの、すまない、お茶を淹れてくれるかな」
「えぇ、わかりました」
何をそんなに恥ずかしがってるんだろう、そのくらい疲れてただけなのに、と思ったけど……お茶を淹れながら気付いた。気付いてしまった。
私がクロウウェル様の寝顔が眺められる位置で寝ていた……すなわち、私の胸元で寝ていた! ぎゃー! 確かに恥ずかしいしこれはどちらも何も言えない!
ひ、貧相とはいいませんが枕として良質かと言われると……いえ、そういうことではなく! あぁー、恥ずかしい! これは恥ずかしいですねクロウウェル様!
お互い知らないふりをする、これはベストだと思います! というかありがとうございます! 気づくんじゃなかった、私!
などと頭の中は混乱しながら長年の習慣で美味しいお茶が入りました。少しだけカモミールを配合して、お互い落ち着きを取り戻しましょう、の代わりにお出しした。
あれはノーカンです、何をそんなに恥ずかしがっていらっしゃるんです、気にしなくて大丈夫ですよ、他にも色々考えましたが、ここは沈黙が正解。
お茶を静かに隣で飲むうちに、少し落ち着いてきた。ふぅ、と半分ほど飲み終わってから、私が寝る前に思った疑問を聞いてみることにした。
仮眠をとって意識が明瞭なクロウウェル様が答えてくれるかはわかりませんが。
「そういえば……、私、クロウウェル様が公爵になられる前に社交界デビューしましたよね?」
「そうだね」
「他にいい人を見つけていたら、どうするつもりだったんです?」
「………………聞かない方がいいと思うな。とりあえず、ダメな男や嫌な家だったりしたら近づけないようにはしていたよ。……いい人だったら……、君がそれで幸せなら、とも思ったんだけど……、うん、ここまでにしようか」
にこ、と笑って誤魔化されました。うん? 近づけないようにしていた? 私、もしかしてずーっと目をつけられていましたか?
いや、それもそうか。私を見つけたのはクロウウェル様が一番早いですからね。言わない方がいいような事をしてまで、私を囲っておきたかったと。
……今日はなんだか、とてものぼせやすい日だな。顔がまた熱い。
「……社交界という場所に羽ばたけば、君の気質の良さも見目の良さも絶対に誰かの目に留まる。私は公爵になるまで君を強引に口説ける程自信はなかったし、まして家格の合わないパーティーに親しくもないのに出ていくわけにもいかない。……本当、君の羽根をもいでしまいたかった。無理な話だけどね」
「羽根をもぐだなんて。そもそも、私に羽根が見えているのはクロウウェル様だけですよ」
「そうかい?」
「……えぇ。私にも、ちょっといいな、と思う方がいたんです。その方と一度だけお食事をして散歩して……、雨の次の日だったので、道が滑りやすくて。その方が転びそうになったのを助けたら……、山猿姫のあだ名はもっと広がっていました。2度と話しませんでしたけどね。猿の尻尾をドレスの下に隠してる、とは言われても、羽根が生えてる、私の天使、なんて言うのはクロウウェル様だ、け……」
黙って、クロウウェル様は私を抱きしめてくれました。
山猿姫と領民や使用人に言われるのは仕方ない。
だけど、帽子を取ってあげたり、転ばないように助けたり、いいことだと思ってやった事が裏目になってかえってくる。ベラ王女は感謝してくれていたけど、傍目から見たらぎょっとするような、淑女らしくないことだったのだろうな。
クロウウェル様、あなたのそばはあまりに居心地がよくて、私はもうどこにも飛んでいけません。
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