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14 決定的な日
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……なんだろう、すごく頭が痛い。
あぁ、起きなくちゃ。今日は私の10歳の誕生日で、親友のユーリカがお祝いに来てくれるんだ……。
なんだか足元がふわふわする気がする。ベッドから降りたら、突然ダイニングでごちそうを前に、両親から花束とプレゼントを受け取った。このあと、ユーリカがくる。
なんだかわかった、これは夢らしい。私は10歳……の誕生日の夢を見ている。
「おめでとう、ルシアナ。あぁ、本当にお前は■■■だな」
「本当に、まるで天使様のように■■■だわ。今年も元気に誕生日を迎えてくれてありがとう」
父母の言葉の一部がざらついて聞き取れなかった。でも、何か私にとって嫌なことを言われたことは理解できた。
お祝いの言葉も、抱き締められて額に落とされる優しいキスも嫌では無いのに、私の耳がその言葉を嫌がっている。10歳、もう充分自分の気持ちを言葉にできる頃なのに。
そういえば、この時はまだ義兄はいないんだった。この数か月後に養子として我が家にくる。
なんてことを考えていたら、場面がまた切り替わった。ユーリカの家の馬車が到着して、飛び降りるようにしてユーリカが……どうしてだろう、彼女の顔も絵の具をめちゃくちゃに塗ったように判然としない。
「ルシアナ! 誕生日おめでとう! 今日はとびっきり■■■ね!」
抱き着きながら言われた言葉に、またざらついた物がまざる。私はちゃんと笑えているかな?
ユーリカの弾けるような笑顔に、笑顔を返さないのは失礼だと感じてしまって、一生懸命笑った気がする。
『そんな苦しそうに笑うな』
誰か、男の人の声が聞こえた気がして振り返ったけれど、エントランスには侍女が控えているだけで、男性の姿はない。
「どうしたの? さぁ、お部屋に行きましょう。お誕生日プレゼントを持ってきたの」
「えぇ、ありがとう。行きましょう」
手を繋いで私の部屋に向かう最中も、笑っているのは分かるのに、なんだか絵の具を刷いたような感じで顔自体の判別がつかない。
たしか、この日を最後にユーリカとは……顔を、合わせなくなった。学園も、ユーリカは通わずに家庭教師をつけられている、と聞いた。特例で認められたらしい、彼女には、勉強の才能があった。
私はそんなユーリカに劣等感を抱いていた気がする。でも、好きだった。一緒にいて楽しかったし、ユーリカのお喋りはいつでも私を笑顔にしてくれた。
そして、彼女も私にコンプレックスを抱いていたのだ。私の■■■さに、強いコンプレックスを。
10歳の誕生日プレゼントを開けたら、そこにあったのは綺麗なドレスだった。子供用だからある程度サイズが決まっている既製品とはいえ、お互い貴族だから贈られた高価なものだというのは分かる。真っ白なそのドレスはところどころに青いビーズがついていて、とても素敵だった。
「今日は10歳のお誕生日でしょう? ねぇ、お互い秘密を一個打ち明けない? 特別な日だもの」
「秘密……、ユーリカには秘密があるの?」
「あるわよ、いーっぱい! ルシアナにはないの?」
「……一個だけ、あるわ」
ソファに並んで座っていた私とユーリカは、侍女を部屋から出して、こっそり距離を詰めた。
間近で見ても、やっぱりユーリカの顔は判然としない。
「私の秘密はね、ルシアナ……、貴女の顔が羨ましい。肌の色が、目が、髪が、全部全部羨ましい。努力じゃ絶対手に入らないものだもの。私、ルシアナをとっても好きよ。でも、同時にね……本当に、自分が嫌になるんだけど、羨ましくて仕方なくなるの」
私はユーリカの秘密の告白に、その日までの人生の中で一番の衝撃を受けた。
あぁ、起きなくちゃ。今日は私の10歳の誕生日で、親友のユーリカがお祝いに来てくれるんだ……。
なんだか足元がふわふわする気がする。ベッドから降りたら、突然ダイニングでごちそうを前に、両親から花束とプレゼントを受け取った。このあと、ユーリカがくる。
なんだかわかった、これは夢らしい。私は10歳……の誕生日の夢を見ている。
「おめでとう、ルシアナ。あぁ、本当にお前は■■■だな」
「本当に、まるで天使様のように■■■だわ。今年も元気に誕生日を迎えてくれてありがとう」
父母の言葉の一部がざらついて聞き取れなかった。でも、何か私にとって嫌なことを言われたことは理解できた。
お祝いの言葉も、抱き締められて額に落とされる優しいキスも嫌では無いのに、私の耳がその言葉を嫌がっている。10歳、もう充分自分の気持ちを言葉にできる頃なのに。
そういえば、この時はまだ義兄はいないんだった。この数か月後に養子として我が家にくる。
なんてことを考えていたら、場面がまた切り替わった。ユーリカの家の馬車が到着して、飛び降りるようにしてユーリカが……どうしてだろう、彼女の顔も絵の具をめちゃくちゃに塗ったように判然としない。
「ルシアナ! 誕生日おめでとう! 今日はとびっきり■■■ね!」
抱き着きながら言われた言葉に、またざらついた物がまざる。私はちゃんと笑えているかな?
ユーリカの弾けるような笑顔に、笑顔を返さないのは失礼だと感じてしまって、一生懸命笑った気がする。
『そんな苦しそうに笑うな』
誰か、男の人の声が聞こえた気がして振り返ったけれど、エントランスには侍女が控えているだけで、男性の姿はない。
「どうしたの? さぁ、お部屋に行きましょう。お誕生日プレゼントを持ってきたの」
「えぇ、ありがとう。行きましょう」
手を繋いで私の部屋に向かう最中も、笑っているのは分かるのに、なんだか絵の具を刷いたような感じで顔自体の判別がつかない。
たしか、この日を最後にユーリカとは……顔を、合わせなくなった。学園も、ユーリカは通わずに家庭教師をつけられている、と聞いた。特例で認められたらしい、彼女には、勉強の才能があった。
私はそんなユーリカに劣等感を抱いていた気がする。でも、好きだった。一緒にいて楽しかったし、ユーリカのお喋りはいつでも私を笑顔にしてくれた。
そして、彼女も私にコンプレックスを抱いていたのだ。私の■■■さに、強いコンプレックスを。
10歳の誕生日プレゼントを開けたら、そこにあったのは綺麗なドレスだった。子供用だからある程度サイズが決まっている既製品とはいえ、お互い貴族だから贈られた高価なものだというのは分かる。真っ白なそのドレスはところどころに青いビーズがついていて、とても素敵だった。
「今日は10歳のお誕生日でしょう? ねぇ、お互い秘密を一個打ち明けない? 特別な日だもの」
「秘密……、ユーリカには秘密があるの?」
「あるわよ、いーっぱい! ルシアナにはないの?」
「……一個だけ、あるわ」
ソファに並んで座っていた私とユーリカは、侍女を部屋から出して、こっそり距離を詰めた。
間近で見ても、やっぱりユーリカの顔は判然としない。
「私の秘密はね、ルシアナ……、貴女の顔が羨ましい。肌の色が、目が、髪が、全部全部羨ましい。努力じゃ絶対手に入らないものだもの。私、ルシアナをとっても好きよ。でも、同時にね……本当に、自分が嫌になるんだけど、羨ましくて仕方なくなるの」
私はユーリカの秘密の告白に、その日までの人生の中で一番の衝撃を受けた。
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