9 / 18
9 ヴィル殿下は二度と女性が抱けなくなりました
今日は1日で起きた私は、神様の待つ鳥籠に戻ると、アフタヌーンティーセットで出迎えられた。
衰弱していた私に奇跡のような水や飲み物を与えてくれていたのは、私の体が回復するのを待ってくれていたようで、サンドイッチやスコーンといった軽食がメインのもの。
飲み物はまた不思議なグラスに注がれた不思議な飲み物だったけど、久しぶりの固形物との取り合わせは悪くなかった。アイスティーのような何か。
「ごちそうさまでした。旦那様はお食べにならないのですか?」
「うん。まだ僕はここに馴染んでないから、木の実でいいかな」
「……? 馴染む?」
「そう。僕は生まれたてだから、複雑なものは食べてもよくわからない。この灌木の木の実が僕のご飯だよ」
そういうものか、と思って私は近くの木から実をもいだ。それを旦那様に渡すと、旦那様はありがとうと言ってうけとり、それを食べる。
小さなリンゴのようだが、感触はもっと柔らかい。種はないのか、皮ごとまるっと口の中に入れて咀嚼して飲み込んでいる。
「アナスタシアも適当に食べていいからね。身体に悪いものじゃないから」
「ありがとうございます」
「さーて、じゃあ元婚約者の様子でも見てみようか」
唇についた果汁を舐めとって、旦那様はテーブルに手をかざす。
食器なども全て消えて、真ん中の一部が鏡のようになり、ヴィル殿下の姿が映った。
「彼は指南役と肉体関係があったのは知ってる?」
「えぇ、王侯貴族の男子にはつきものですから……」
「じゃあ、こういう事してるのは?」
ヴィル殿下はメイドの一人を部屋に連れ込んで、布団の上で一糸纏わぬ姿でもつれあっていた。
脱ぎ捨てられた服や下着でメイドと判断したが、随分好色なのはよくわかった。
「彼はねぇ、ヴェロニカにもコロッといったくらいだから……とにかく女好きでね。第三王子って立場を利用して、まぁ両手両足の指じゃ足りないくらいには手を出してるねぇ」
「…………私の感覚だと、はしたない、ですね」
「僕もそう思う。彼の一番強い欲求は色欲だ。君の妹とは秘密の関係だったから、まぁ本番まではいかなくても……ね?」
「………………、情けなくなってきました」
見抜けなかった自分もだが、この国の王子のやることではない。せめて後腐れなく遊ぶのならまだしも、堕胎の仕方も分からないような素人に手を出して。
まして、自分の妹とも、そういった事を……たとえ最後までではなくとも……していたのだと思うと、頭が痛くなる。
「だからね、この王子からは色欲の形を取り上げちゃおうかなと思ってる」
「形、ですか?」
「欲まで消したら罰にならないからね。欲が湧いた時に……まぁ見てて、見て気持ちいいものじゃないから見なくてもいいけど」
と、言われても気になるものは気になる。
王子の上に指を置いた旦那様は何をしたのか、夢中で唇を貪っていたメイドが変な顔になって恐る恐る体を離す。
王子も異変に気付いて、そのまま自分の下腹を見る。
男性の股間なんて見たことがなかった私だが、そこには小指の爪の先ほどの突起の後ろに、丸々とした大きな袋がぶら下がっている。奇妙な形だなと思った。
「……これは?」
「性欲を感じたらそこだけ新生児のそれになるようにしてあげた。トイレとか不便だからね、普段はちゃんとしたサイズだよ」
「元を知らないので何とも言えませんが……、もしかして、もう子作りできないのでしょうか?」
「新生児がそんな事できると思う? 2度と子種は外に出せないだろうね。作るところはそのまま残してあげたけど。性欲自体はそのままだから」
「あら……まぁ」
メイドは1度目の関係ではなかったのだろう。その奇妙な現象に悲鳴をあげると、急いでベッドから転がり落ちて服を着て外に出た。
ヴィル殿下は、真っ青になっている。相手が居なくなって性欲が落ち着くと、そこは途端に……一応授業で習った絵姿と同じ形に戻っていった。
頭を抱えて何かを叫んでいるが、今回はそこの音声は抜きらしい。最中の声もなく、聞こえたのはメイドの悲鳴だけ。
「昔の男の声も、まぐわいの音も、アナスタシアは聞かなくていいし、まだ知らなくていいからね」
旦那様はそこそこ嫉妬深いようだ。にっこり笑っているが、見せてなるものか、という意地すら感じる。
私はそんな旦那様が可愛くて、思わず口元を隠して笑った。それを見た旦那様が驚いたような顔をして、優しく目を細める。
「やっと普通に笑ったね」
「……そういえば、こんなふうに笑ったこと、ありませんでしたね」
「そうそう。アナスタシアは笑ってる方が美人だよ。少しずつ笑っていこうね」
そう言って頭を撫でられると、照れてしまう。
視線が自然と鏡に落ちると、ヴィル殿下は必死に稼働させようとしてはその度に赤子のサイズになるそれに、頭を掻きむしっていた。
残念ながら、彼はもう2度と女性を抱くことはできないだろう。旦那様が言うには好色だったそうだから、これ以降もずっと、苛まれることになる。
そして、旦那様は次は誰にする? と、聞きながら鏡を消した。たしかに、今更あの殿下の裸体で苦悩する姿など見るに堪えない。
私は少し考えた。神殿の神官もそうだな、と思いつつ……悩ましい。
「今、とっても悩んでるんですけど」
「知りたいことがあったら聞いて?」
「私を、ここに幽閉させた兵士は誰の手の者です?」
旦那様はほんの少し困ったように笑って言った。
「国王の近衛兵だね」
衰弱していた私に奇跡のような水や飲み物を与えてくれていたのは、私の体が回復するのを待ってくれていたようで、サンドイッチやスコーンといった軽食がメインのもの。
飲み物はまた不思議なグラスに注がれた不思議な飲み物だったけど、久しぶりの固形物との取り合わせは悪くなかった。アイスティーのような何か。
「ごちそうさまでした。旦那様はお食べにならないのですか?」
「うん。まだ僕はここに馴染んでないから、木の実でいいかな」
「……? 馴染む?」
「そう。僕は生まれたてだから、複雑なものは食べてもよくわからない。この灌木の木の実が僕のご飯だよ」
そういうものか、と思って私は近くの木から実をもいだ。それを旦那様に渡すと、旦那様はありがとうと言ってうけとり、それを食べる。
小さなリンゴのようだが、感触はもっと柔らかい。種はないのか、皮ごとまるっと口の中に入れて咀嚼して飲み込んでいる。
「アナスタシアも適当に食べていいからね。身体に悪いものじゃないから」
「ありがとうございます」
「さーて、じゃあ元婚約者の様子でも見てみようか」
唇についた果汁を舐めとって、旦那様はテーブルに手をかざす。
食器なども全て消えて、真ん中の一部が鏡のようになり、ヴィル殿下の姿が映った。
「彼は指南役と肉体関係があったのは知ってる?」
「えぇ、王侯貴族の男子にはつきものですから……」
「じゃあ、こういう事してるのは?」
ヴィル殿下はメイドの一人を部屋に連れ込んで、布団の上で一糸纏わぬ姿でもつれあっていた。
脱ぎ捨てられた服や下着でメイドと判断したが、随分好色なのはよくわかった。
「彼はねぇ、ヴェロニカにもコロッといったくらいだから……とにかく女好きでね。第三王子って立場を利用して、まぁ両手両足の指じゃ足りないくらいには手を出してるねぇ」
「…………私の感覚だと、はしたない、ですね」
「僕もそう思う。彼の一番強い欲求は色欲だ。君の妹とは秘密の関係だったから、まぁ本番まではいかなくても……ね?」
「………………、情けなくなってきました」
見抜けなかった自分もだが、この国の王子のやることではない。せめて後腐れなく遊ぶのならまだしも、堕胎の仕方も分からないような素人に手を出して。
まして、自分の妹とも、そういった事を……たとえ最後までではなくとも……していたのだと思うと、頭が痛くなる。
「だからね、この王子からは色欲の形を取り上げちゃおうかなと思ってる」
「形、ですか?」
「欲まで消したら罰にならないからね。欲が湧いた時に……まぁ見てて、見て気持ちいいものじゃないから見なくてもいいけど」
と、言われても気になるものは気になる。
王子の上に指を置いた旦那様は何をしたのか、夢中で唇を貪っていたメイドが変な顔になって恐る恐る体を離す。
王子も異変に気付いて、そのまま自分の下腹を見る。
男性の股間なんて見たことがなかった私だが、そこには小指の爪の先ほどの突起の後ろに、丸々とした大きな袋がぶら下がっている。奇妙な形だなと思った。
「……これは?」
「性欲を感じたらそこだけ新生児のそれになるようにしてあげた。トイレとか不便だからね、普段はちゃんとしたサイズだよ」
「元を知らないので何とも言えませんが……、もしかして、もう子作りできないのでしょうか?」
「新生児がそんな事できると思う? 2度と子種は外に出せないだろうね。作るところはそのまま残してあげたけど。性欲自体はそのままだから」
「あら……まぁ」
メイドは1度目の関係ではなかったのだろう。その奇妙な現象に悲鳴をあげると、急いでベッドから転がり落ちて服を着て外に出た。
ヴィル殿下は、真っ青になっている。相手が居なくなって性欲が落ち着くと、そこは途端に……一応授業で習った絵姿と同じ形に戻っていった。
頭を抱えて何かを叫んでいるが、今回はそこの音声は抜きらしい。最中の声もなく、聞こえたのはメイドの悲鳴だけ。
「昔の男の声も、まぐわいの音も、アナスタシアは聞かなくていいし、まだ知らなくていいからね」
旦那様はそこそこ嫉妬深いようだ。にっこり笑っているが、見せてなるものか、という意地すら感じる。
私はそんな旦那様が可愛くて、思わず口元を隠して笑った。それを見た旦那様が驚いたような顔をして、優しく目を細める。
「やっと普通に笑ったね」
「……そういえば、こんなふうに笑ったこと、ありませんでしたね」
「そうそう。アナスタシアは笑ってる方が美人だよ。少しずつ笑っていこうね」
そう言って頭を撫でられると、照れてしまう。
視線が自然と鏡に落ちると、ヴィル殿下は必死に稼働させようとしてはその度に赤子のサイズになるそれに、頭を掻きむしっていた。
残念ながら、彼はもう2度と女性を抱くことはできないだろう。旦那様が言うには好色だったそうだから、これ以降もずっと、苛まれることになる。
そして、旦那様は次は誰にする? と、聞きながら鏡を消した。たしかに、今更あの殿下の裸体で苦悩する姿など見るに堪えない。
私は少し考えた。神殿の神官もそうだな、と思いつつ……悩ましい。
「今、とっても悩んでるんですけど」
「知りたいことがあったら聞いて?」
「私を、ここに幽閉させた兵士は誰の手の者です?」
旦那様はほんの少し困ったように笑って言った。
「国王の近衛兵だね」
あなたにおすすめの小説
運命に勝てない当て馬令嬢の幕引き。
ぽんぽこ狸
恋愛
気高き公爵家令嬢オリヴィアの護衛騎士であるテオは、ある日、主に天啓を受けたと打ち明けられた。
その内容は運命の女神の聖女として召喚されたマイという少女と、オリヴィアの婚約者であるカルステンをめぐって死闘を繰り広げ命を失うというものだったらしい。
だからこそ、オリヴィアはもう何も望まない。テオは立場を失うオリヴィアの事は忘れて、自らの道を歩むようにと言われてしまう。
しかし、そんなことは出来るはずもなく、テオも将来の王妃をめぐる運命の争いの中に巻き込まれていくのだった。
五万文字いかない程度のお話です。さくっと終わりますので読者様の暇つぶしになればと思います。
聖女の任期終了後、婚活を始めてみたら六歳の可愛い男児が立候補してきた!
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
23歳のメルリラは、聖女の任期を終えたばかり。結婚適齢期を少し過ぎた彼女は、幸せな結婚を夢見て婚活に励むが、なかなか相手が見つからない。原因は「元聖女」という肩書にあった。聖女を務めた女性は慣例として専属聖騎士と結婚することが多く、メルリラもまた、かつての専属聖騎士フェイビアンと結ばれるものと世間から思われているのだ。しかし、メルリラとフェイビアンは口げんかが絶えない関係で、恋愛感情など皆無。彼を結婚相手として考えたことなどなかった。それでも世間の誤解は解けず、婚活は難航する。そんなある日、聖女を辞めて半年が経った頃、メルリラの婚活を知った公爵子息ハリソン(6歳)がやって来て――。
自業自得って言葉、知ってますか? 私をいじめていたのはあなたですよね?
長岡更紗
恋愛
庶民聖女の私をいじめてくる、貴族聖女のニコレット。
王子の婚約者を決める舞踏会に出ると、
「卑しい庶民聖女ね。王子妃になりたいがためにそのドレスも盗んできたそうじゃないの」
あることないこと言われて、我慢の限界!
絶対にあなたなんかに王子様は渡さない!
これは一生懸命生きる人が報われ、悪さをする人は報いを受ける、勧善懲悪のシンデレラストーリー!
*旧タイトルは『灰かぶり聖女は冷徹王子のお気に入り 〜自業自得って言葉、知ってますか? 私をいじめていたのは公爵令嬢、あなたですよ〜』です。
*小説家になろうでも掲載しています。
冤罪で殺された聖女、生まれ変わって自由に生きる
みおな
恋愛
聖女。
女神から選ばれし、世界にたった一人の存在。
本来なら、誰からも尊ばれ大切に扱われる存在である聖女ルディアは、婚約者である王太子から冤罪をかけられ処刑されてしまう。
愛し子の死に、女神はルディアの時間を巻き戻す。
記憶を持ったまま聖女認定の前に戻ったルディアは、聖女にならず自由に生きる道を選択する。
家族の靴を磨いていた私が、実は【神の加護を磨き上げた聖女】だった件。隣国の冷徹皇帝に「君の献身は世界を救う」と誘拐、24 執着されています
唯崎りいち
恋愛
「お前は一生、靴でも磨いていろ」
家族に虐げられ、靴を磨き続けた私。
実はその靴、磨くたびに『神の加護』が宿る聖具になっていました。
噂を聞きつけた隣国の冷徹皇帝に、出会い頭にさらわれて――
「君は俺のものだ。24時間、指一本触れさせない」
靴を履かせてもらえず、移動は常に皇帝の腕の中!?
磨き上げた加護のせいで、皇帝の執着が神レベルに育ってしまう溺愛物語。
四季の聖女
篠月珪霞
恋愛
エスタシオン国には、四季を司る4人の聖女が存在する。大陸に季節をもたらし恙なく過ぎるよう、管理者としての役割を担っているが、聖女自体に特別な力はない。
選定は人によるものではなく、神の遺物と言われている腕輪が持ち主を選ぶ。複製不可能なその腕輪は、出自、身分、年齢、容姿は基準とならず、あくまでも当人の資質によって選ぶのだという。
四季を司る、4人の聖女の物語。
*最終的にはハピエンの予定でしたが、取り敢えず完結とします。