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8 殿下矯正同盟の結成
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放課後、今日はバルティ様と揃って生徒会には行かないことを、役員の一人に言伝ると、私は家の馬車を校門で帰した。
もともと家から学園までも馬車を使うような距離ではないけれど、それなりの身分だと自覚している。
護衛も兼ねているが、さすがに学園から目と鼻の先のカフェに、バルティ様のような締まっていつつも背の高い体躯の男性と、ファリア嬢の三人で向かうのだから……そう、この二人の見た目がおびただしく目立つということもあって……何か起こることは無いだろうと踏んでのことだ。
テラス席は一席だけ、程々に人通りもありながら誰かに話を聞かれる事もない場所を確保して、注文のケーキと紅茶(バルティ様はサンドイッチと紅茶)がきてから話を始めた。
「この度は私の婚約者がユーリカ様にご迷惑をおかけして申し訳ありません」
話はファリア嬢の謝罪から始まった。たぶん、朝に目立っていた私とバルティ様の間に突進してきたのを見ていたのだろう。
あれは誰が見ても、殿下が私に気があるとバレバレである。なんとかバルティ様と教室に行ったので、大体の人は気のせいだと思い込むようにしているに違いない。
なんせ、ディーノ殿下は私に浮気をする以外は、完璧な王太子であり生徒会長なのだから。
「ファリア嬢が謝ることではございませんわ。……ご存知、でしたのね」
「はい。これでも長い付き合いです。殿下がユーリカ様に片想い……というのもお粗末ですが、しているのは存じておりました」
なんだか、正妻と愛人がそれぞれ気不味く話しているような気分だ。愛人……いやいや、ゾッとする名称を自分に当てはめるのはやめよう。
「ディーノ殿下はユーリカ嬢の手を取って愛を告げられました。どうするつもりですか? ファリア嬢」
「あらまぁ、ふふ……どうもいたしませんよ。小さな子供が花を摘んできて、好き! 結婚しよう! と言うようなものです」
私はファリア嬢の言葉に目を丸くした。
「そ、そうなんですか……?」
「えぇ。あの方は理想と色恋の違いがありません。その理想が高すぎるので、問題になったことは今まで一度もないのですが……、ユーリカ様は本当に優秀でいらっしゃるので、殿下の理想にぴったりあてはまってしまったのです。——いくら凛々しい方とはいえ、想いを寄せた相手でもない殿方に触れられるのは怖かったでしょう? 本当にすみません」
「……そこは、否定しませんわ。殿下のアレが、そんな子供じみた行為だったとしても……、それも、こんな素敵な婚約者がいながら私になんて、一切考えてもいなかったので」
そうだ。気持ち悪かったし助けて欲しかった。私は怖かったのだと、ファリア嬢の言葉で気付く。
ファリア嬢には悪いが、私にとって殿下は恋愛対象ではない。ただ、あれは、ゾッとする程怖かった。
「……そろそろ、現実を見て頂かないといけないと、私も思っていますの。そうしたらまぁ、バルティ様が先んじてユーリカ様の護衛の真似事をしてらっしゃる」
護衛の真似事? と疑問に思いながらバルティ様を見ると、ちょうど紅茶を口に含んで横を向いている。答える気がない、というようだ。肯定も否定もしないと。
「そこで、ユーリカ様。バルティ様も、私と協力して、殿下の目を覚まさせてはくださいませんか」
「私にできることならば……、一臣下としては、尊敬できるお方ですし」
「私も従兄弟と幼馴染にはうまくいってほしいですからね。喜んで協力しましょう」
ファリア嬢はほっとして花が綻ぶように笑った。まさにお姫様だが、肝のすわりようといい、殿下を子供の告白だの、矯正するだの言うあたり、只者ではない。
「よかった。では、殿下矯正同盟の結成ですね。具体的なお話はまた明日からしていきましょう。よかった、殿下は私がいつまでも10歳の令嬢だと思っているから、聞く耳が無いんですの」
「私の話も全くダメです。ファリア嬢のことをどれだけ言って聞かせても、聞き入れない」
「社会に出てからでは遅いですからね。こうして協力できる方々と遠慮なくお話しできて安心しました。ふふ」
幼馴染二人にとってはどうにも困っていた話らしい。私という起爆剤で、事は動き出すようだ。
「さ、そうと決まれば頭を働かせるためにケーキのお代わりをしませんと」
私のケーキはまだ半分残っているのに、いつのまにかファリア嬢のケーキの皿は綺麗に空になっていた。
もともと家から学園までも馬車を使うような距離ではないけれど、それなりの身分だと自覚している。
護衛も兼ねているが、さすがに学園から目と鼻の先のカフェに、バルティ様のような締まっていつつも背の高い体躯の男性と、ファリア嬢の三人で向かうのだから……そう、この二人の見た目がおびただしく目立つということもあって……何か起こることは無いだろうと踏んでのことだ。
テラス席は一席だけ、程々に人通りもありながら誰かに話を聞かれる事もない場所を確保して、注文のケーキと紅茶(バルティ様はサンドイッチと紅茶)がきてから話を始めた。
「この度は私の婚約者がユーリカ様にご迷惑をおかけして申し訳ありません」
話はファリア嬢の謝罪から始まった。たぶん、朝に目立っていた私とバルティ様の間に突進してきたのを見ていたのだろう。
あれは誰が見ても、殿下が私に気があるとバレバレである。なんとかバルティ様と教室に行ったので、大体の人は気のせいだと思い込むようにしているに違いない。
なんせ、ディーノ殿下は私に浮気をする以外は、完璧な王太子であり生徒会長なのだから。
「ファリア嬢が謝ることではございませんわ。……ご存知、でしたのね」
「はい。これでも長い付き合いです。殿下がユーリカ様に片想い……というのもお粗末ですが、しているのは存じておりました」
なんだか、正妻と愛人がそれぞれ気不味く話しているような気分だ。愛人……いやいや、ゾッとする名称を自分に当てはめるのはやめよう。
「ディーノ殿下はユーリカ嬢の手を取って愛を告げられました。どうするつもりですか? ファリア嬢」
「あらまぁ、ふふ……どうもいたしませんよ。小さな子供が花を摘んできて、好き! 結婚しよう! と言うようなものです」
私はファリア嬢の言葉に目を丸くした。
「そ、そうなんですか……?」
「えぇ。あの方は理想と色恋の違いがありません。その理想が高すぎるので、問題になったことは今まで一度もないのですが……、ユーリカ様は本当に優秀でいらっしゃるので、殿下の理想にぴったりあてはまってしまったのです。——いくら凛々しい方とはいえ、想いを寄せた相手でもない殿方に触れられるのは怖かったでしょう? 本当にすみません」
「……そこは、否定しませんわ。殿下のアレが、そんな子供じみた行為だったとしても……、それも、こんな素敵な婚約者がいながら私になんて、一切考えてもいなかったので」
そうだ。気持ち悪かったし助けて欲しかった。私は怖かったのだと、ファリア嬢の言葉で気付く。
ファリア嬢には悪いが、私にとって殿下は恋愛対象ではない。ただ、あれは、ゾッとする程怖かった。
「……そろそろ、現実を見て頂かないといけないと、私も思っていますの。そうしたらまぁ、バルティ様が先んじてユーリカ様の護衛の真似事をしてらっしゃる」
護衛の真似事? と疑問に思いながらバルティ様を見ると、ちょうど紅茶を口に含んで横を向いている。答える気がない、というようだ。肯定も否定もしないと。
「そこで、ユーリカ様。バルティ様も、私と協力して、殿下の目を覚まさせてはくださいませんか」
「私にできることならば……、一臣下としては、尊敬できるお方ですし」
「私も従兄弟と幼馴染にはうまくいってほしいですからね。喜んで協力しましょう」
ファリア嬢はほっとして花が綻ぶように笑った。まさにお姫様だが、肝のすわりようといい、殿下を子供の告白だの、矯正するだの言うあたり、只者ではない。
「よかった。では、殿下矯正同盟の結成ですね。具体的なお話はまた明日からしていきましょう。よかった、殿下は私がいつまでも10歳の令嬢だと思っているから、聞く耳が無いんですの」
「私の話も全くダメです。ファリア嬢のことをどれだけ言って聞かせても、聞き入れない」
「社会に出てからでは遅いですからね。こうして協力できる方々と遠慮なくお話しできて安心しました。ふふ」
幼馴染二人にとってはどうにも困っていた話らしい。私という起爆剤で、事は動き出すようだ。
「さ、そうと決まれば頭を働かせるためにケーキのお代わりをしませんと」
私のケーキはまだ半分残っているのに、いつのまにかファリア嬢のケーキの皿は綺麗に空になっていた。
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