19 / 22
19 真実の愛なんてクソッタレだ
しおりを挟む
全校生徒の集会はお開きとなり、私はまだギクシャクとした距離感ながら、明らかに避けられることはなくなった。
ディーノ殿下が謝罪を禁じ、行動で示せと言った。みんな噂に流されていただけだ。どこかで噂を流してきた人のせいにしながら謝られるのも、そんな態度も私は望まないし受け入れない。
ただ、避けられるのは困るし、みっともないと思ったし、悲しかったし悔しかったし殿下を思いながら枕を殴った日もあった。
でも今日のこれで帳消しにしよう。そして、私はバルティ様の虫除けとして効果的すぎたようだ。
清い交際のうちはまだ誰かの妬心は抑えられていたのだろう。家格が釣り合うのだからそんな話になっていてもおかしくない、と。恋愛をしてるわけじゃないだろうと。
だけど、バルティ様は優しかった。他人から見たら、それこそ私に愛をもって接しているかのように。……私も少し、そんな気がしてしまうほどに。
ただ、真実の愛だとか、そんなのはもうクソッタレだ。言葉が悪いのは勘弁してもらおうかな、私は剣を手習いで続けている。私兵たちに混ざっていれば汚い言葉も内心覚えていくものだ。
お昼休みに、バルティ様とランチにしながら、暫くは生徒会を休んで真っ直ぐ帰るようにと言われた。たぶん、首謀者が出てきた時に、私がいるのは都合が悪いし、私が罵られるからかもしれないだろう。
「もちろん教室から馬車までは送りますから。いい、というまでは真っ直ぐお帰りくださいね」
「仕事がたまるんですが……」
「優秀な生徒会長が全てこなすそうですので、ご安心を」
「あら……、ふふ、それなら任せます」
バルティ様との時間は居心地がいい。触れられるのも嫌では無いし、私から触れたくなる時も……はしたないけれど、なくはない。
でも、暫くはあまり心を揺らしたく無い。清い交際は続けて、卒業と同時に契約は解消だ。
その間だけでも、私は彼を独り占めしたい。彼に時間と気持ちを委ねるのは、とても安心できる。
「そういえば……、あの全校集会は誰が?」
「……さぁ、誰でしょうね」
横を向いて水を飲む。
嘘が下手な人だ。嘘がつけないから、答えたくない時には目を逸らしてしまう。
私は自分でも知らないような、くすくすとした小さな笑いを溢してしまった。あまり淑女としてこんな風に笑うものでは無いのだけれど。目の端の涙を指先で拭う。
「なんです」
「いえ、将来の宰相閣下は腹芸が苦手なんだな、と思いまして」
「……そのうち、覚えます」
頭は回るし、正論を臆さず言えるこの人はいい宰相になるだろう。ただ、殿下の見せたような腹芸もできないと、きっと今度は殿下に置いて行かれてしまう。
「では、バルティ様。卒業まで契約が履行できたら、一歩前進ということにしましょう」
「……いいのですか? 半分は私のせいですよ」
「えぇ、あの演説を聞いて私を排そうなどという貴族の家名はしっかり覚えておきましょう。今回の件については処分はお任せします」
ここの所の騒動で、私の心は疲弊している。しっかりしなければとも思う反面、何かやる気が湧かないのだ。
バルティ様、甘えてしまってごめんなさい。でも、不器用で真っ直ぐな貴方なら悪くはしないと、信じています。
夏季休暇がもうすぐ来る。その間一度領地に帰って忘れよう。だからそれまで、契約ではなく貴方に甘える私でいさせてください。
ディーノ殿下が謝罪を禁じ、行動で示せと言った。みんな噂に流されていただけだ。どこかで噂を流してきた人のせいにしながら謝られるのも、そんな態度も私は望まないし受け入れない。
ただ、避けられるのは困るし、みっともないと思ったし、悲しかったし悔しかったし殿下を思いながら枕を殴った日もあった。
でも今日のこれで帳消しにしよう。そして、私はバルティ様の虫除けとして効果的すぎたようだ。
清い交際のうちはまだ誰かの妬心は抑えられていたのだろう。家格が釣り合うのだからそんな話になっていてもおかしくない、と。恋愛をしてるわけじゃないだろうと。
だけど、バルティ様は優しかった。他人から見たら、それこそ私に愛をもって接しているかのように。……私も少し、そんな気がしてしまうほどに。
ただ、真実の愛だとか、そんなのはもうクソッタレだ。言葉が悪いのは勘弁してもらおうかな、私は剣を手習いで続けている。私兵たちに混ざっていれば汚い言葉も内心覚えていくものだ。
お昼休みに、バルティ様とランチにしながら、暫くは生徒会を休んで真っ直ぐ帰るようにと言われた。たぶん、首謀者が出てきた時に、私がいるのは都合が悪いし、私が罵られるからかもしれないだろう。
「もちろん教室から馬車までは送りますから。いい、というまでは真っ直ぐお帰りくださいね」
「仕事がたまるんですが……」
「優秀な生徒会長が全てこなすそうですので、ご安心を」
「あら……、ふふ、それなら任せます」
バルティ様との時間は居心地がいい。触れられるのも嫌では無いし、私から触れたくなる時も……はしたないけれど、なくはない。
でも、暫くはあまり心を揺らしたく無い。清い交際は続けて、卒業と同時に契約は解消だ。
その間だけでも、私は彼を独り占めしたい。彼に時間と気持ちを委ねるのは、とても安心できる。
「そういえば……、あの全校集会は誰が?」
「……さぁ、誰でしょうね」
横を向いて水を飲む。
嘘が下手な人だ。嘘がつけないから、答えたくない時には目を逸らしてしまう。
私は自分でも知らないような、くすくすとした小さな笑いを溢してしまった。あまり淑女としてこんな風に笑うものでは無いのだけれど。目の端の涙を指先で拭う。
「なんです」
「いえ、将来の宰相閣下は腹芸が苦手なんだな、と思いまして」
「……そのうち、覚えます」
頭は回るし、正論を臆さず言えるこの人はいい宰相になるだろう。ただ、殿下の見せたような腹芸もできないと、きっと今度は殿下に置いて行かれてしまう。
「では、バルティ様。卒業まで契約が履行できたら、一歩前進ということにしましょう」
「……いいのですか? 半分は私のせいですよ」
「えぇ、あの演説を聞いて私を排そうなどという貴族の家名はしっかり覚えておきましょう。今回の件については処分はお任せします」
ここの所の騒動で、私の心は疲弊している。しっかりしなければとも思う反面、何かやる気が湧かないのだ。
バルティ様、甘えてしまってごめんなさい。でも、不器用で真っ直ぐな貴方なら悪くはしないと、信じています。
夏季休暇がもうすぐ来る。その間一度領地に帰って忘れよう。だからそれまで、契約ではなく貴方に甘える私でいさせてください。
3
あなたにおすすめの小説
旦那様は、転生後は王子様でした
編端みどり
恋愛
近所でも有名なおしどり夫婦だった私達は、死ぬ時まで一緒でした。生まれ変わっても一緒になろうなんて言ったけど、今世は貴族ですって。しかも、タチの悪い両親に王子の婚約者になれと言われました。なれなかったら替え玉と交換して捨てるって言われましたわ。
まだ12歳ですから、捨てられると生きていけません。泣く泣くお茶会に行ったら、王子様は元夫でした。
時折チートな行動をして暴走する元夫を嗜めながら、自身もチートな事に気が付かない公爵令嬢のドタバタした日常は、周りを巻き込んで大事になっていき……。
え?! わたくし破滅するの?!
しばらく不定期更新です。時間できたら毎日更新しますのでよろしくお願いします。
婚約破棄された令嬢は、“神の寵愛”で皇帝に溺愛される 〜私を笑った全員、ひざまずけ〜
夜桜
恋愛
「お前のような女と結婚するくらいなら、平民の娘を選ぶ!」
婚約者である第一王子・レオンに公衆の面前で婚約破棄を宣言された侯爵令嬢セレナ。
彼女は涙を見せず、静かに笑った。
──なぜなら、彼女の中には“神の声”が響いていたから。
「そなたに、我が祝福を授けよう」
神より授かった“聖なる加護”によって、セレナは瞬く間に癒しと浄化の力を得る。
だがその力を恐れた王国は、彼女を「魔女」と呼び追放した。
──そして半年後。
隣国の皇帝・ユリウスが病に倒れ、どんな祈りも届かぬ中、
ただ一人セレナの手だけが彼の命を繋ぎ止めた。
「……この命、お前に捧げよう」
「私を嘲った者たちが、どうなるか見ていなさい」
かつて彼女を追放した王国が、今や彼女に跪く。
──これは、“神に選ばれた令嬢”の華麗なるざまぁと、
“氷の皇帝”の甘すぎる寵愛の物語。
姉の婚約者と結婚しました。
黒蜜きな粉
恋愛
花嫁が結婚式の当日に逃亡した。
式場には両家の関係者だけではなく、すでに来賓がやってきている。
今さら式を中止にするとは言えない。
そうだ、花嫁の姉の代わりに妹を結婚させてしまえばいいじゃないか!
姉の代わりに辺境伯家に嫁がされることになったソフィア。
これも貴族として生まれてきた者の務めと割り切って嫁いだが、辺境伯はソフィアに興味を示さない。
それどころか指一本触れてこない。
「嫁いだ以上はなんとしても後継ぎを生まなければ!」
ソフィアは辺境伯に振りむいて貰おうと奮闘する。
2022/4/8
番外編完結
第一王子は私(醜女姫)と婚姻解消したいらしい
麻竹
恋愛
第一王子は病に倒れた父王の命令で、隣国の第一王女と結婚させられることになっていた。
しかし第一王子には、幼馴染で将来を誓い合った恋人である侯爵令嬢がいた。
しかし父親である国王は、王子に「侯爵令嬢と、どうしても結婚したければ側妃にしろ」と突っぱねられてしまう。
第一王子は渋々この婚姻を承諾するのだが……しかし隣国から来た王女は、そんな王子の決断を後悔させるほどの人物だった。
【完結】仕事を放棄した結果、私は幸せになれました。
キーノ
恋愛
わたくしは乙女ゲームの悪役令嬢みたいですわ。悪役令嬢に転生したと言った方がラノベあるある的に良いでしょうか。
ですが、ゲーム内でヒロイン達が語られる用な悪事を働いたことなどありません。王子に嫉妬? そのような無駄な事に時間をかまけている時間はわたくしにはありませんでしたのに。
だってわたくし、週4回は王太子妃教育に王妃教育、週3回で王妃様とのお茶会。お茶会や教育が終わったら王太子妃の公務、王子殿下がサボっているお陰で回ってくる公務に、王子の管轄する領の嘆願書の整頓やら収益やら税の計算やらで、わたくし、ちっとも自由時間がありませんでしたのよ。
こんなに忙しい私が、最後は冤罪にて処刑ですって? 学園にすら通えて無いのに、すべてのルートで私は処刑されてしまうと解った今、わたくしは全ての仕事を放棄して、冤罪で処刑されるその時まで、推しと穏やかに過ごしますわ。
※さくっと読める悪役令嬢モノです。
2月14~15日に全話、投稿完了。
感想、誤字、脱字など受け付けます。
沢山のエールにお気に入り登録、ありがとうございます。現在執筆中の新作の励みになります。初期作品のほうも見てもらえて感無量です!
恋愛23位にまで上げて頂き、感謝いたします。
裏ありイケメン侯爵様と私(曰く付き伯爵令嬢)がお飾り結婚しました!
麻竹
恋愛
伯爵令嬢のカレンの元に、ある日侯爵から縁談が持ち掛けられた。
今回もすぐに破談になると思っていたカレンだったが、しかし侯爵から思わぬ提案をされて驚くことに。
「単刀直入に言います、私のお飾りの妻になって頂けないでしょうか?」
これは、曰く付きで行き遅れの伯爵令嬢と何やら裏がアリそうな侯爵との、ちょっと変わった結婚バナシです。
※不定期更新、のんびり投稿になります。
【完結済】王妃になりたかったのではありません。ただあなたの妻になりたかったのです。
鳴宮野々花@書籍4作品発売中
恋愛
公爵令嬢のフィオレンサ・ブリューワーは婚約者のウェイン王太子を心から愛していた。しかしフィオレンサが献身的な愛を捧げてきたウェイン王太子は、子爵令嬢イルゼ・バトリーの口車に乗せられフィオレンサの愛を信じなくなった。ウェイン王太子はイルゼを選び、フィオレンサは婚約破棄されてしまう。
深く傷付き失意のどん底に落ちたフィオレンサだが、やがて自分を大切にしてくれる侯爵令息のジェレミー・ヒースフィールドに少しずつ心を開きはじめる。一方イルゼと結婚したウェイン王太子はその後自分の選択が間違いであったことに気付き、フィオレンサに身勝手な頼みをする────
※この作品は小説家になろうにも投稿しています。
婚約者が妹と結婚したいと言ってきたので、私は身を引こうと決めました
日下奈緒
恋愛
アーリンは皇太子・クリフと婚約をし幸せな生活をしていた。
だがある日、クリフが妹のセシリーと結婚したいと言ってきた。
もしかして、婚約破棄⁉
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる