身代わりの恋人関係

栗原さとみ

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私と陸斗が出会ったのは、私が高2の春だった。

従姉妹の白石春美(大学1年)がLINEにメッセージを入れてきた。

春美「今日の夜、暇?」

私「暇だけど?」

春美「由奈お願い!大学のサークルの新歓コンパに私の代わりに出てくれない?」
春美「名簿に名前書いちゃってさ。白石春美の振りして参加してくれるだけでいいから。」

私「大学生の振りなんて大丈夫かな?」

春美「化粧してあげるし、お酒飲めないって断れば平気だって。」

私「ただ出てくればいいの?」

春美「うん、ありがとう。助かった~。そのサークルは、明日辞めるって電話するから何の問題もないよ。」

・・・

その新歓コンパで正面に座ったのが、4年で、たまたま出席していた進藤陸斗だった。

  たぶん一目惚れだった。
  大人っぽくて、すごく整った顔なのに気さくで、話が面白くて、映画や本の話で盛り上がった。私の話もきちんと聞いてくれて、ずっとお話ししていたい、と感じる程、惹かれていた。

トイレから戻ろうとした時、2年の島田さんに呼び止められた。
「もう帰ってくれない?」

「え?どうしてですか?」

「陸斗先輩ね、嘘つく人、許せないんだって。」

「うそ…」(そうだった。私、名前も年齢も嘘ばっかり…)

「あなた、白石春美じゃないんでしょ?今帰れば黙っててあげるから、ね。」

その後のことは、正直あまり覚えていない。どうにか家に帰って、泣いた。初めて好きになった相手の一番嫌いなことをしてしまったことで、もう恋が実ることはなくなったのだ。

…5年後、入社先の主任だった進藤陸斗と再会してしまい、心が揺れた。私も陸斗を避けるように仕事のみで接し、陸斗も時おり冷たい視線を送っているように感じた。
きっと、嘘をついていた当時の私の事を覚えていて軽蔑しているのだろう………と。

半年たって、つい陸斗を目で追ってしまう自分に気がついた。仕事をする姿勢、上司に接する態度、同僚や部下への気配り、すべてに心惹かれて、忘れるどころかどんどん好きになってしまっていた。駄目だ、と思った。そして、1回だけ抱いてもらおうと考えた。お酒の席で、ほろ酔いを装い、送って貰うようにしむけて…。断られるのを覚悟してお願いしてみよう、と思った。

  
    
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