9 / 9
エピローグ:完全掃討と、指先に咲いた未来
一週間後。
田中さんを含む三名の被害女性と共に、私たちは労働局、そして警察へと告発状を提出した。
蓮が集めた証拠は完璧だった。
∙不正融資の二重帳簿
∙複数の女性社員へのセクハラ映像
∙アクセスログと防犯カメラの時系列の矛盾
佐伯は、その日のうちに逮捕された。
会社は緊急記者会見を開き、佐伯の即時解雇と、被害者への謝罪と補償を発表。
彼が築き上げた地位も、家庭も、退職金も——全てが、法の名の下に「清掃」された。
その後私は、不当解雇と戦い勝利した女性として、仮名ながら、メディアにも取り上げられた。
そして蓮は、この一連の事件で集めた証拠と法的手続きの経験を武器に、行政書士試験にも一発で合格。
私の元には、複数の企業からヘッドハンティングの連絡が入ったが、それに応じることはなかった。
私に支払われた退職金と補償金の一部は、蓮の独立開業資金になった。
あの地獄のような職場から得た最後のお金が、誰かを救う事務所を生んだのだ。
「阿久津行政書士事務所」
小さいながらも、清潔で温かみのある事務所。
蓮は、不当な扱いを受けた労働者たちの駆け込み寺として、日々奔走していた。
そして私は——彼の事務所で、パートナーとして働いている。
「蓮、田中さんから連絡よ。新しい職場、すごく良いんですって」
「そうか。……良かったな」
夕暮れ時、最後のクライアントを見送った後。
蓮は私を抱き寄せ、優しくキスをしてくれた。
私は微笑んだ。
かつて「先の見えた人間」と蔑んだ男。
今は、私の未来を、誰よりも明るく照らしてくれる、最愛の人。
昨夜も、私たちの小さなアパートで。
蓮の魔法の指先は、相変わらず私を狂おしいほどの快楽へと導いてくれた。
でも今は、恐怖も屈辱もない。
ただ、愛と、信頼と、そして——少しの、甘い背徳感だけ。
「……なあ、栞。今夜は、祝おうぜ」
「何を?」
「俺たちが出会って、ちょうど一年だ。……あの階段でな」
……なあ、栞。今夜、祝おうぜ」
「うふふ、じゃあお買い物一緒に行こうか?デート気分で」
「あぁ、ご馳走とワインでも買って帰ろうぜ」
私たちは夕暮れの街を歩いた。
「……ねえ、蓮」
私は彼の手を取った。
大きくて、ゴツゴツして。
清掃で鍛えられた、タコだらけの手。
ペンを握りしめてできた、勉強の痕跡。
愛おしくて、今夜もかき回されることを思うと、じんわり腰が疼いてくる。
「……この指で、ずっと私を支えてね」
「ああ。……この指で、お前を一生、守ってやるよ」
電気がつき始めた商店街を、私たちは手を繋いで歩いていた。
「お前と堂々とこうしていられるなんて、あの頃は思いもつかなかったな」
誇らしげな蓮の指と、私の指が、優しく絡み合う。
高校時代、彼が冗談めかして言っていた「指1本入れさせて」という言葉。
あの時は嫌悪しかなかったのに。
今は――この指が宝物。私の全てを支えてくれている。
「なあ、栞」
「ん?」
「俺、高校の時に言ってたこと、覚えてるか?」
「……指1本、でしょ?」
蓮は少し照れくさそうに笑った。
「あの時は、本当に指先だけでよかったんだ。お前に触れられるなら、それだけで十分だって思ってた」
彼は私の手を強く握り返す。
「でも今は違う。……逆に俺の指も、手も、体も、心も、全部お前のためにつかう。そして、お前の全部を一生愛して行きたい」
私は彼の手を両手で包み込んだ。
「うわっ。ありがとう……。あなたって、本当に成長したわね」
「全部、お前のおかげだよ、栞」
温かい時間。彼はこんなに優しい目をしていたんだって今更気づいた。
照れ臭くて、私は小声で囁く。
「セックスの時だけは、ケダモノだけどね……」
「お前もな」
小さな笑い声がこだました。
交差点で信号待ちをしながら、蓮が私の手を自分の頬に当てた。
私も、彼の手を自分の頬に当てる。
春も深まり、もうすぐ夏がやってくる。
絡んだ指と指の間の手汗まで愛おしい。
まるで私たちそのものだと思った。
かつての泥濘は、今、二人だけの楽園へと変わっていた。
—完—
田中さんを含む三名の被害女性と共に、私たちは労働局、そして警察へと告発状を提出した。
蓮が集めた証拠は完璧だった。
∙不正融資の二重帳簿
∙複数の女性社員へのセクハラ映像
∙アクセスログと防犯カメラの時系列の矛盾
佐伯は、その日のうちに逮捕された。
会社は緊急記者会見を開き、佐伯の即時解雇と、被害者への謝罪と補償を発表。
彼が築き上げた地位も、家庭も、退職金も——全てが、法の名の下に「清掃」された。
その後私は、不当解雇と戦い勝利した女性として、仮名ながら、メディアにも取り上げられた。
そして蓮は、この一連の事件で集めた証拠と法的手続きの経験を武器に、行政書士試験にも一発で合格。
私の元には、複数の企業からヘッドハンティングの連絡が入ったが、それに応じることはなかった。
私に支払われた退職金と補償金の一部は、蓮の独立開業資金になった。
あの地獄のような職場から得た最後のお金が、誰かを救う事務所を生んだのだ。
「阿久津行政書士事務所」
小さいながらも、清潔で温かみのある事務所。
蓮は、不当な扱いを受けた労働者たちの駆け込み寺として、日々奔走していた。
そして私は——彼の事務所で、パートナーとして働いている。
「蓮、田中さんから連絡よ。新しい職場、すごく良いんですって」
「そうか。……良かったな」
夕暮れ時、最後のクライアントを見送った後。
蓮は私を抱き寄せ、優しくキスをしてくれた。
私は微笑んだ。
かつて「先の見えた人間」と蔑んだ男。
今は、私の未来を、誰よりも明るく照らしてくれる、最愛の人。
昨夜も、私たちの小さなアパートで。
蓮の魔法の指先は、相変わらず私を狂おしいほどの快楽へと導いてくれた。
でも今は、恐怖も屈辱もない。
ただ、愛と、信頼と、そして——少しの、甘い背徳感だけ。
「……なあ、栞。今夜は、祝おうぜ」
「何を?」
「俺たちが出会って、ちょうど一年だ。……あの階段でな」
……なあ、栞。今夜、祝おうぜ」
「うふふ、じゃあお買い物一緒に行こうか?デート気分で」
「あぁ、ご馳走とワインでも買って帰ろうぜ」
私たちは夕暮れの街を歩いた。
「……ねえ、蓮」
私は彼の手を取った。
大きくて、ゴツゴツして。
清掃で鍛えられた、タコだらけの手。
ペンを握りしめてできた、勉強の痕跡。
愛おしくて、今夜もかき回されることを思うと、じんわり腰が疼いてくる。
「……この指で、ずっと私を支えてね」
「ああ。……この指で、お前を一生、守ってやるよ」
電気がつき始めた商店街を、私たちは手を繋いで歩いていた。
「お前と堂々とこうしていられるなんて、あの頃は思いもつかなかったな」
誇らしげな蓮の指と、私の指が、優しく絡み合う。
高校時代、彼が冗談めかして言っていた「指1本入れさせて」という言葉。
あの時は嫌悪しかなかったのに。
今は――この指が宝物。私の全てを支えてくれている。
「なあ、栞」
「ん?」
「俺、高校の時に言ってたこと、覚えてるか?」
「……指1本、でしょ?」
蓮は少し照れくさそうに笑った。
「あの時は、本当に指先だけでよかったんだ。お前に触れられるなら、それだけで十分だって思ってた」
彼は私の手を強く握り返す。
「でも今は違う。……逆に俺の指も、手も、体も、心も、全部お前のためにつかう。そして、お前の全部を一生愛して行きたい」
私は彼の手を両手で包み込んだ。
「うわっ。ありがとう……。あなたって、本当に成長したわね」
「全部、お前のおかげだよ、栞」
温かい時間。彼はこんなに優しい目をしていたんだって今更気づいた。
照れ臭くて、私は小声で囁く。
「セックスの時だけは、ケダモノだけどね……」
「お前もな」
小さな笑い声がこだました。
交差点で信号待ちをしながら、蓮が私の手を自分の頬に当てた。
私も、彼の手を自分の頬に当てる。
春も深まり、もうすぐ夏がやってくる。
絡んだ指と指の間の手汗まで愛おしい。
まるで私たちそのものだと思った。
かつての泥濘は、今、二人だけの楽園へと変わっていた。
—完—
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
義姉と押し入れに隠れたら、止まれなくなった
くろがねや
恋愛
父の再婚で、義姉ができた。
血は繋がっていない。でも——家族だ。そう言い聞かせながら、涼介はずっと沙耶から距離を取ってきた。
夏休み。田舎への帰省。甥っ子にせがまれて始まったかくれんぼ。急いで飛び込んだ押し入れの中に、先客がいた。
「……涼介くん」
薄い水色の浴衣。下ろした髪。橙色の光に染まった、沙耶の顔。
逃げ場のない暗闇の中で、二人分の体温が混ざり合う。
夜、来て。
その一言が——涼介の、全部を壊した。
甘くて、苦しくて、止まれない。
これは、ある夏の、秘密の話。
俺様上司に今宵も激しく求められる。
美凪ましろ
恋愛
鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。
蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。
ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。
「おまえの顔、えっろい」
神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。
――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。
**2026.01.02start~2026.01.17end**
◆エブリスタ様にも掲載。人気沸騰中です!
https://estar.jp/novels/26513389