機械の神と救世主

ローランシア

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第一章 異世界と救世主

003 夜の街と救世主

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大聖堂を出ると青く輝く月と満天の星空の夜空が俺たちを迎え入れた

「おぉ……、すっげぇ……なんだこりゃ……」

 じいちゃんちのある田舎でもここまでの星空は見た事がない
 大聖堂の階段の途中で腰かけ星空を眺めながら話出す

≪マスター?これからの予定はどうしますか?≫
「うーん……そうだな……。朝まで時間があるだろうから、マキナの事を聞きたいな≫
≪わ、私の事……ですか≫
「ああ、そうだ。何が好きで何が嫌いで、何が出来て何が出来ないのか、とかな」
≪好きなのは……マスターです。嫌いなものはマスターを嫌う人です≫
「ハハハ……最強の機神様にそこまで気に入られるとは光栄だ」
≪何が出来て……とは戦闘時における攻撃方法などでしょうか?≫
「うん、そういうのも知りたいけど、戦闘以外にも役に立ちそうな出来る事ってないか?」
≪戦闘に関しては実戦時にお見せできると思いますので、それ以外となりますと……、
 次元空間を歪めて空間を作り出したり……情報収集とかでしょうか≫
「……え?何?次元の狭間……?な、なんかすごそうだな……。あー……そうだ……こういうのはできるか」
≪何でしょう?≫
「偵察用の小型ロボットみたいなのって……出来るか?ドローンみたいなのでもいい。街の様子を確認したいんだ」
≪偵察用の小型機なら出せます。出しましょうか?≫
「ああ、頼む」

 ブォン……!
 マキナの手のひらの空間が一瞬歪み、鴉そっくりのロボットを出現し、マキナの肩に乗る

≪クェー!クェー≫
≪くーちゃん?マスターにご挨拶は?≫
≪クエェ―!≫
「おぉ……。すげぇ!生きてるみたいだ……。よろしくな?くーちゃん!
 それでさ?このくーちゃんが見た映像を見る事は出来るか?」
≪可能です。モニターを出しましょうか?それともマスターの目に直接送りましょうか?≫
「すげぇな、俺の目で直接見るみたいな事もできるのか。
 ……FPS視点は画面酔いしそうだからモニターで頼む」

≪はい。どうぞ≫

 ブォン……!
 マキナが手のひらからタブレットのようなモニターを出現させ両手で渡される

「おお。映ってる映ってる。こうやって見えるんだな……。
 じゃあ、テストも兼ねて街の周りをぐるっと一周回ってきてもらえるか?」
 
≪くーちゃん?行ってきて?≫
≪クェー!≫
 返事をしながらくーちゃんが飛び立つ

「おぉ~、こんな感じなんだな……。夜なのにはっきり見える。すごいなマキナ!」
≪ふふふ……ありがとうございます、マスター≫

 まずは、街がどんな様子なのか知りたい……本当にここは異世界と呼ばれる所なのか……
 いまいち信じ切れていなかった為確認しておきたかった

「うーん……やっぱ、日本じゃないよなぁ。まず建物のデザインが全然違うもんな……」
≪マスター……≫
「ん?どうした?」
≪先ほどから、私の判断でこの世界の情報を集めていたのですが……≫
「おぉ、マジで!?そんな事できるの!?え……ネットとか……ない、よな?この世界って……」
≪人間を含む生物の脳は微弱な電気信号を送って命令を出してますので、この街の人間の脳に入り込んで記憶情報を抜き出してました≫
「そんな事できるの君!?」
≪私、デウス・エクス・マキナですから……≫
「頼りになるなぁ。マキナ。……ん?ちょっと待って?それって……、俺の個人的な情報なんかも閲覧できちゃったりするの?」
≪はい。というか、私は神器ですから……≫
「ん?どういうことだ」
≪神器は所有者の魂に直結した存在です。魂の半身と言いますか……。ですので、はい。マスターの事なら全て知ってます≫
「……え?全て……?」
≪はい。全てです≫
「ど、どこまで見たのか教えてくれる?」
≪全部ですけど……そうですね。特に印象に残ったのは、小学生の頃義理の妹の「東条さやか」さんと一緒にお風呂に入っていた時、
 義理の妹の裸に興奮して鼻血を出して湯船を火サスさながらの血まみれにした事でしょうか≫

 やめて!? マジでやめて!?
 自分で「どこまで見たのか教えてくれる?」って言っといてなんだけど! マジでやめて!?

≪あと……印象深かったのは、高校一年の時テストの点数が悪かったため、映画の真似して紙飛行機にしてカッコつけて屋上から飛ばしたら、
 その時片思いしていた女子生徒に拾われて中身を確認された後、教室で女子生徒に哀れみの目で見られながらテストを返された事でしょうか≫

 うわああああん!それ! それ俺が墓まで持っていくつもりだったやつうううううう!

「うっ、ううっ……」

 などと話していると画面に違和感を感じる
 平穏な日常とは程遠い光景……

「……ん?え……っ!? これ……っ!? マキナっ!?」
≪はいっ!≫
 マキナが急いで手元のタブレットを覗き込んでくる
「こ、コレ! ここ! アップに出来るか!?」
≪はい!≫

 暗い上に遠目だからよくわからないけど、
人が入る大きさの袋に脇にいる二つの人影が殴る蹴るの暴行を加えている!
 大きさからして恐らく人があの袋には入ってる……!

 くーちゃんが通り過ぎてしまった

「マキナ!くーちゃんをさっきの近くで停まらせて監視させてくれ」

≪はい!≫
「この街の地図とか出せるか!?この場所にすぐ行くぞ!」

≪……出ました!街のマップにマーキングを付けておきます≫

「よし、マップ見ながら行くぞ!」
≪はいっ!≫

 俺たちは走り出す

 くそっ……!長い階段だな!現場まで遠すぎだろ!

≪……マスター?移動されるのでしたら空飛びましょうか?≫
「そんな事出来るの君!?」
≪私、デウス・エクス・マキナですから……≫
「頼む!」
≪了解しました。────飛行モード起動……!≫

ブォン……!

 少女の姿のマキナが一瞬で消え去り、俺の体に黒い12枚の機械の翼が出現する
 翼へと姿を変えたマキナから話しかけられる

≪準備完了です。マスター≫
「よ、よし、じゃあさっきの場所へ行ってくれるか?」
≪はいっ≫
 フワっと浮き上がり上昇しながら前進していく

 おおおおお!?これが空を飛ぶって感覚か!すっげー!
≪ふふふっ。結構気持ちのいいものでしょう?マスター≫
 ああ、すっげえな!マキナ!空飛べるんだな!
≪ふふふっ。他にも色々できますので、遠慮なくご相談ください。マスター≫
 ああ、何かあったら頼むよ!
≪はいっ≫
 それで……、さっきの場所までは遠いのか?
≪もうじき到着します≫
 ああ、頼む!できるだけ急いでくれ
≪はいっ≫

 さっきは世界なんて勝手に滅べばいいとか、俺関係ねーしとか言っちまったが……、
あんなもん見ちまったら……助けに行かないわけにいくかよ……!

 マキナが空を飛んでくれたおかげであっという間に現場に到着し、すぐ近くの屋根に降り立ち状況を確認する
 よかった!まだ袋が動いてる!袋に詰められてる人はまだ死んでないぞ!
 屋根に降り立つとマキナが翼から少女の姿と変化する

 ……マキナ。あいつら二人を出来るだけ無傷で捕らえる事は出来るか?

≪了解しました。拘束ギミックを作動させます≫

バシュッ……!

 無数の鋼鉄のワイヤーがマキナの背後に出現した穴から射出され、ワイヤーが暴漢二人を捕らえる

「なっ!?なんだコレ!?」
「うっ、うごけねえっ!?」

≪無理に動くとバラバラになりますよ?≫

 警察……があるのかわからねえけど、これだけ文明が発展しているならそういう機関はあるだろうから、そこに引き渡そう

≪はい≫

「縄ほどきやがれっ!?何だよっ!?てめえらっ!?」
「ぐっ……何だこりゃあ……全く身動き取れねぇ……!」
 よし、降りるぞ
≪はい≫
 屋根の上から降り、人が入っているであろう袋に駆け寄り、袋の縄を解くと中学生くらいの女の子が出てきた
 ……酷ぇ……!

 体中傷だらけの痣だらけじゃねぇか……、息も絶え絶えだ……ヤバいなコレ
 かなりの重症だという事が素人目からもわかる

「マキナ!怪我人の治療はできるかっ?」
≪はいっ!≫

 マキナの手から緑色の光が放出され女の子の傷がみるみる治っていく

「ふぅ……なんとか、間に合ったみたいだな……」
 女の子の表情が安らかになったため息が漏れる

≪マスター?治療が終わりました。……このゴミはどうしましょうか?≫
 おぉ、ありがとう、マキナ。あぁ……こいつら……、は……。
 朝になったら警察のような機関に引き渡す。それまで拘束したままどこか檻のような場所に入れておけるか?
≪次元の狭間へ閉じ込めておきましょう」
 次元の狭間……?まぁ、よくわからないが頼む
≪はい≫
ブォン……!

 マキナが先ほどくーちゃんを出現させた時より大きい穴を出現させる
 マキナが暴漢二人を、指差すと、暴漢二人は浮き上がり穴へ吸い込まれる

「な!?なんだこりゃ?浮いてる……!?」
「お、おい!?降ろせよ!?」
「「う、わああああああああああ!!!?」

 俺たちは女の子を連れ街の中央にある噴水広場まで移動した
 ゴミ捨て場に捨てられている毛布を拝借し女の子にかけ、ベンチに寝かせる

 ベンチに腰掛け話始める

「マキナ……?聞いていいか?」
≪どうぞ、マスター≫
「さっき、この街の事調べてたって言ってたよな」
≪はい≫
「この世界は……どうなってんだ?あまりに酷過ぎる。俺がたまたま酷いのを見つけただけか?」
≪……残念ながら……女性に性的暴行したり、この子のように理不尽な暴力を加えて殺そうとするなんて日常茶飯事のようです……≫
≪毎日のように誰かの死体が街のどこかで見つかって、処分されているようです。少し前までは人体がバラバラにされて、川に投げ捨てられていたようですね……≫

「……酷いな」

 チッ……

 胸糞が悪くなる話に内心舌打ちを鳴らす

「……もう一つ質問、いいか?」

≪はい≫

「この状況は……救世主が世界を救っていないから、か?」

マキナが難しい顔で瞑目しながら口を開く

≪……極論を言えばそうですね。結局この世は弱肉強食です……。
 強い者に逆らえない弱い者が自分より弱い者を見つけ出し攻撃する……。その結果が今のこの状況です≫

 想定していた中で、最低最悪の答えが返ってきた……

 その言葉に思わず手で顔を伏せる、きっと、今の俺はひどい顔をしている
世界がこの状況じゃ、俺を元の世界へ戻す術を持ってる人が理不尽に殺されかねないって事だ

 ……俺に、出来るのか……?
ただの学生でしかなかった俺に「世界を救う」なんて大それた事が……出来るのか?

「マキナ……」
≪はい、マスター≫
「俺に……、この世界が救えると思うか……?」
≪マスターならば……、いえ、私、「デウス・エクス・マキナ」を宿すマスターにしかできない事だと思います≫
「……そう、か。マキナ……俺に力を貸してくれるか……?」
≪私の力はマスターの物です。ご存分にお使いください≫
「……ありがとう、マキナ……。……俺はいい神器に恵まれて幸せだよ……」
≪ありがとうございます。私もいいマスターに宿って幸せです≫

 さっきこの世界に飛ばされて、「世界を救う」なんて突拍子もない話を聞かされて、
おまけに俺が救世主だなんて聞かされて……正直、どこか他人事だった。
 いや……、現実感がなかったと言ったほうがいいかもしれない

 戦い、殺し合い、殺人、戦争……ほんの昨日までそういった事とは無関係の世界で生きて来たから実感がなかった
そういう事はテレビの中の出来事だったから

 ニュースで「殺人事件がありました」「交通事故がありました何人亡くなりました」
とそう聞いても他人事に感じてたように他人事だった
 俺にはそれが当たり前だったし、これからもずっとそうだと思ってた
自分は大丈夫だと、自分だけは安全に生きていけると……、心のどこかでそう思ってた。そう信じてた……

 正直、さっき世界が滅ぶかもしれないと聞いた時も、それと同じ無関係を感じてた
俺には関係ないって……そう思った

 けど、俺に無関係じゃない……!この状況は俺が元の世界に戻る障害になる……!

 俺は絶対に元の世界に戻るんだ……!
 
 俺はギュっと拳を握り締め顔を上げマキナに顔を向ける

 この世界の事を何も知らないという事は危険だ……!

マキナ、夜が明けるまでこの世界の事を教えてくれ、文化、常識、風習、技術……この世界についてあらゆる事を知りたい
 俺の元いた世界と違う点や、出来る事できない事等を頭に叩き込みたい。

≪はいっ!お任せくださいっ!マスター!≫

 こうして異世界での一日目の夜が過ぎて行った────
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