10 / 436
第一章 アーウェン幼少期
少年は混乱する ②
しおりを挟む
ベッドの中で着ていたのは、この家に来る時に着ていた兄たちからのお下がりの一張羅ではなく、真新しく白い病人のための下着のような──すぐ上の兄がいつもベッドで着ているような裾の長いシャツだった。
「…あ、あの……ぼ、ぼくの……ふくは……?」
「あちらは今、お洗濯と繕いに出しております。よろしければこちらをお召しになるようにと」
そう言って差し出されたのは誰かのお下がりのようだったが、それはアーウェンが窓の外からそっと覗いた時に見かけて羨ましく思っていた男の子が着ていた物によく似ていた。
「これ……」
「お身体のサイズがわかりかねましたので、あなたの義兄上様になられますリグレ様がご幼少の頃に身につけられていた物です。いずれ新しく仕立てるとのことでしたので、本日はこちらで許してほしいとのことでした」
「ゆ、ゆるすって……そんな……こんなすてきな……」
呆然とアーウェンは上等な布を撫で、それからギュッと抱きかかえる。
誰かのお古でもいい──継ぎ接ぎも繕いの跡もない、ちゃんとした服を与えられたのは、生まれて初めてだった。
本当に産まれて初めて──アーウェンは産まれた瞬間から、兄たちが次々と使い洗われ続けてすり切れた産着とおしめを身に着けられ、一度たりとも新品だったり新品同様の服も靴も与えられたことはない。
それが今は手の中にほとんど新品と言っていい状態の服があるなんて──
実年齢よりも幼い頭では理解が追いつかず、ついにアーウェンは泣き出した。
「ああ、驚かれてしまいましたか?大丈夫です、きっとお似合いになりますよ。よろしければ奥様達にお会いになる前に湯浴みいたしましょう。いつもですとお夕飯前に入っていただくのですが……」
グスグスと泣き続けるアーウェンは大人しく従僕に手を引かれ、されるがままに入ったことのないお風呂に浸かり、呆然としてる間に洗われ濯がれ、ふかふかのタオルで体を拭かれた。
いつしか泣き止んだアーウェンはようやくここが自分の家ではなく、伯爵家にいまだ居ることを飲み込んで、表面だけは落ち着きを取り戻して、ベッドルームに繋がる着替え室の鏡に映る自分を見つめる。
「いいお顔です。これから伯爵家の奥様とお嬢様がいらっしゃるお庭にご案内します。ご挨拶はできますね?」
コクンと無言で頷くアーウェンは従僕に手を取られ、まるで幼子のように部屋を出て長い廊下を歩いて、大きなサロンから庭に連れられた。
「奥様、お嬢様。アーウェン様がお目覚めになられましたので、お連れいたしました」
庭は広く、アーウェンが父の領地に行くと一緒に遊んでくれる兵隊たちが訓練している場所のようだった。
もっともただの草原を簡単に手入れしただけの訓練場とは違い、様々な花がそこかしこに植えられ、生垣は丁寧に刈り込まれて、おまけに小川まで流れている。
そのそばに建てられた四阿には美しい女性と、玄関ホールで可愛らしいご挨拶をくれた小さなレディと何も話してくれなかったお姉さんが座り、同じ服を着た人──侍女らしい人たちが何人もお茶やケーキなどをテーブルにセッティングしていた。
「…あ、あの……ぼ、ぼくの……ふくは……?」
「あちらは今、お洗濯と繕いに出しております。よろしければこちらをお召しになるようにと」
そう言って差し出されたのは誰かのお下がりのようだったが、それはアーウェンが窓の外からそっと覗いた時に見かけて羨ましく思っていた男の子が着ていた物によく似ていた。
「これ……」
「お身体のサイズがわかりかねましたので、あなたの義兄上様になられますリグレ様がご幼少の頃に身につけられていた物です。いずれ新しく仕立てるとのことでしたので、本日はこちらで許してほしいとのことでした」
「ゆ、ゆるすって……そんな……こんなすてきな……」
呆然とアーウェンは上等な布を撫で、それからギュッと抱きかかえる。
誰かのお古でもいい──継ぎ接ぎも繕いの跡もない、ちゃんとした服を与えられたのは、生まれて初めてだった。
本当に産まれて初めて──アーウェンは産まれた瞬間から、兄たちが次々と使い洗われ続けてすり切れた産着とおしめを身に着けられ、一度たりとも新品だったり新品同様の服も靴も与えられたことはない。
それが今は手の中にほとんど新品と言っていい状態の服があるなんて──
実年齢よりも幼い頭では理解が追いつかず、ついにアーウェンは泣き出した。
「ああ、驚かれてしまいましたか?大丈夫です、きっとお似合いになりますよ。よろしければ奥様達にお会いになる前に湯浴みいたしましょう。いつもですとお夕飯前に入っていただくのですが……」
グスグスと泣き続けるアーウェンは大人しく従僕に手を引かれ、されるがままに入ったことのないお風呂に浸かり、呆然としてる間に洗われ濯がれ、ふかふかのタオルで体を拭かれた。
いつしか泣き止んだアーウェンはようやくここが自分の家ではなく、伯爵家にいまだ居ることを飲み込んで、表面だけは落ち着きを取り戻して、ベッドルームに繋がる着替え室の鏡に映る自分を見つめる。
「いいお顔です。これから伯爵家の奥様とお嬢様がいらっしゃるお庭にご案内します。ご挨拶はできますね?」
コクンと無言で頷くアーウェンは従僕に手を取られ、まるで幼子のように部屋を出て長い廊下を歩いて、大きなサロンから庭に連れられた。
「奥様、お嬢様。アーウェン様がお目覚めになられましたので、お連れいたしました」
庭は広く、アーウェンが父の領地に行くと一緒に遊んでくれる兵隊たちが訓練している場所のようだった。
もっともただの草原を簡単に手入れしただけの訓練場とは違い、様々な花がそこかしこに植えられ、生垣は丁寧に刈り込まれて、おまけに小川まで流れている。
そのそばに建てられた四阿には美しい女性と、玄関ホールで可愛らしいご挨拶をくれた小さなレディと何も話してくれなかったお姉さんが座り、同じ服を着た人──侍女らしい人たちが何人もお茶やケーキなどをテーブルにセッティングしていた。
40
あなたにおすすめの小説
『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる
仙道
ファンタジー
気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。 この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。 俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。 オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。 腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。 俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。 こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。
12/23 HOT男性向け1位
〈完結〉この女を家に入れたことが父にとっての致命傷でした。
江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」アリサは父の後妻の言葉により、家を追い出されることとなる。
だがそれは待ち望んでいた日がやってきたでもあった。横領の罪で連座蟄居されられていた祖父の復活する日だった。
十年前、八歳の時からアリサは父と後妻により使用人として扱われてきた。
ところが自分の代わりに可愛がられてきたはずの異母妹ミュゼットまでもが、義母によって使用人に落とされてしまった。義母は自分の周囲に年頃の女が居ること自体が気に食わなかったのだ。
元々それぞれ自体は仲が悪い訳ではなかった二人は、お互い使用人の立場で二年間共に過ごすが、ミュゼットへの義母の仕打ちの酷さに、アリサは彼女を乳母のもとへ逃がす。
そして更に二年、とうとうその日が来た……
世界最強の公爵様は娘が可愛くて仕方ない
猫乃真鶴
ファンタジー
トゥイリアース王国の筆頭公爵家、ヴァーミリオン。その現当主アルベルト・ヴァーミリオンは、王宮のみならず王都ミリールにおいても名の通った人物であった。
まずその美貌。女性のみならず男性であっても、一目見ただけで誰もが目を奪われる。あと、公爵家だけあってお金持ちだ。王家始まって以来の最高の魔法使いなんて呼び名もある。実際、王国中の魔導士を集めても彼に敵う者は存在しなかった。
ただし、彼は持った全ての力を愛娘リリアンの為にしか使わない。
財力も、魔力も、顔の良さも、権力も。
なぜなら彼は、娘命の、究極の娘馬鹿だからだ。
※このお話は、日常系のギャグです。
※小説家になろう様にも掲載しています。
※2024年5月 タイトルとあらすじを変更しました。
神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします
夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。
アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。
いわゆる"神々の愛し子"というもの。
神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。
そういうことだ。
そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。
簡単でしょう?
えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか??
−−−−−−
新連載始まりました。
私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。
会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。
余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。
会話がわからない!となるよりは・・
試みですね。
誤字・脱字・文章修正 随時行います。
短編タグが長編に変更になることがございます。
*タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。
「お前は無能だ」と追放した勇者パーティ、俺が抜けた3秒後に全滅したらしい
夏見ナイ
ファンタジー
【荷物持ち】のアッシュは、勇者パーティで「無能」と罵られ、ダンジョン攻略の直前に追放されてしまう。だが彼がいなくなった3秒後、勇者パーティは罠と奇襲で一瞬にして全滅した。
彼らは知らなかったのだ。アッシュのスキル【運命肩代わり】が、パーティに降りかかる全ての不運や即死攻撃を、彼の些細なドジに変換して無効化していたことを。
そんなこととは露知らず、念願の自由を手にしたアッシュは辺境の村で穏やかなスローライフを開始。心優しいエルフやドワーフの仲間にも恵まれ、幸せな日々を送る。
しかし、勇者を失った王国に魔族と内通する宰相の陰謀が迫る。大切な居場所を守るため、無能と蔑まれた男は、その規格外の“幸運”で理不尽な運命に立ち向かう!
【短編】花婿殿に姻族でサプライズしようと隠れていたら「愛することはない」って聞いたんだが。可愛い妹はあげません!
月野槐樹
ファンタジー
妹の結婚式前にサプライズをしようと姻族みんなで隠れていたら、
花婿殿が、「君を愛することはない!」と宣言してしまった。
姻族全員大騒ぎとなった
オネエ伯爵、幼女を拾う。~実はこの子、逃げてきた聖女らしい~
雪丸
ファンタジー
アタシ、アドルディ・レッドフォード伯爵。
突然だけど今の状況を説明するわ。幼女を拾ったの。
多分年齢は6~8歳くらいの子。屋敷の前にボロ雑巾が落ちてると思ったらびっくり!人だったの。
死んでる?と思ってその辺りに落ちている木で突いたら、息をしていたから屋敷に運んで手当てをしたのよ。
「道端で倒れていた私を助け、手当を施したその所業。賞賛に値します。(盛大なキャラ作り中)」
んま~~~尊大だし図々しいし可愛くないわ~~~!!
でも聖女様だから変な扱いもできないわ~~~!!
これからアタシ、どうなっちゃうのかしら…。
な、ラブコメ&ファンタジーです。恋の進展はスローペースです。
小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。(敬称略)
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる