その狂犬戦士はお義兄様ですが、何か?

行枝ローザ

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第一章 アーウェン幼少期

少年は執事に調べられる ②

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魔剣士──剣技と魔術の才能を持ち合わせた者。
そう言われているが、しかしその両方を極めた者はいない。
魔力に優れれば攻撃的あるいは防御的な魔術を展開できるが、剣についてはその精神的スピードに肉体的反射がついていかない。
剣技に優れれば魔力による強化などで力業はできるが、代わりに剣の届かない相手に対しての魔術的攻防は危うい。
どちらもバランスよく使える者もいるが、それでは剣士に劣り、魔術師に劣る。
あるいは剣士の中でもやや魔術が使え、魔術師の中でも剣が使えるという器用貧乏的な才能だ。
しかし両親によって成長を著しく遅らされたアーウェンには、魔力の存在を微かに認められるのに、その在り処が見つからない状態に近い。
「かといって、今すぐに剣術の基礎を叩き込めるほどの体力や筋力もない……と」
「気持ち悪いぐらい、アーウェン様にとって『生きていはいる、それだけ』という環境でしたから、男爵家は。最低限動けはするけれど、逃げ出すほどの筋力や運動量は与えられていなかった…ということでしょう」
「気持ちが悪いな、確かに」
誰が、何のために──
離れたところで伯爵と執事が子供たちを見守りながら何か話しているのを、夫人は黙って見つめていた。


まるで乳児のような緑色をした流動食の皿がアーウェンの前に置かれるのを見て、リグレは眉を顰めた。
「……あれがアーウェンの食事で間違いないのか?」
自分の皿に乗る具の入ったコンソメスープと見比べ、自分のための給仕にそっと尋ねる。
「あ……あの……き、聞いてまいります……」
「ん?あぁ…なら……まあ、いい……」
若い給仕では事情を知らされていないのか、知っていても『それを義弟に出す』理由を知らないのか──少なくとも、父もその後ろに控える執事も顔色を変えることなく、母も妹もそれが当たり前だという顔をしている。
アーウェンが男爵家実家で虐待されていたことは理解していたが、実際のところ『陰湿な虐め』という実体験のないリグレには、アーウェンの身体自体が過剰な栄養を受けつけられないことや、咀嚼嚥下といった筋力すらないことは知らなかった。
まるでティースプーンのような小さな匙でスープを掬い、まるで赤ん坊のようにちまちまと口に運ぶ様を、憐れと思うのはおこがましいのだろうか──
リグレは義弟のぎこちない食事風景を直視していられなかったが、逆にエレノアは、アーウェンが口を開けると自分も開け、スプーンを咥える真似をして口を閉じ、コクリと小さな嚥下音に合わせて小さく頷く。
そうしてゆっくりと最後のひと匙分のスープが無くなるのを、キラキラとした目で見つめ続けた。
「おにいしゃま!きょうは、おしゃかなでしゅ!のあといっしょでしゅ!!」
見ればエレノアの皿にあるほぐした魚の身と同じ物が、アーウェンの前に出される。
違うのは生野菜が妹の皿にあるのに、アーウェンの皿には白っぽいソースしかかかっていないことだ。
「……アーウェン様は…まだ……その……お早くたくさん食べることができないので、あのように消化が良いふうに調理させていただいているそうです」
「ふぅん……ありがとう」
いつの間にかアーウェンが小さなスプーンで魚とソースを少しずつ口に運ぶのを見つめていたリグレに、そっと給仕が教えてくれた。
チラリと両親に視線を向ければ、母はエレノアと同じようにアーウェンが皿を平らげるのを待つかのように真剣に見つめ、父はリグレにだけわかるように微かに頷く。
(まさかこの子が来てからずっと、みんな、毎食こんな感じで見守っていたのか?)
リグレはそう考えながら自分の皿にある肉にナイフを入れ、小さく切ってから口に運んだ。

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