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第一章 アーウェン幼少期
少年は執事に調べられる ①
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泣き腫らした目をまだ潤ませているアーウェンを連れて戻ると、エレノアがそれを見てなぜか泣き出す。
それにつられて、アーウェンがまた泣き出す。
そしてリグレが困る──
「……いったいあれは何だ?」
「リグレ様がアーウェン様に元のご家族のことをお尋ねになりまして、それぞれ思うところがあったのではないかと」
「家族思いなのはいいが、理不尽に扱われていたことまで美化してしまうのはどうかと思うがな……」
ふたりきりでの散策のようにアーウェンには思えただろうが、リグレはもちろん護衛を兼ねた伯爵家の『耳』がそこかしこに潜んでいたのは知っている。
それらがいち早く執事に伝えたことを要約して伯爵の耳に入れると、ラウドは眉を顰めた。
「いずれ。心身ともに成長なされてから受け止められるようになるまで、否定されない方がよろしいかと。ご登城の際や商会へのご同行にはお気を付けください」
「そうだな……最後の別れ際もあまり気持ちの良いものではなかったが、あれを思い出させるようなことは避けたい」
叩き飛ばし気を失った息子を介抱するでもなく、伯爵の前でそんな失態を起こしたことを後悔するのではなく、ただ逃げるように捨て置いて伯爵邸を出たサウラス男爵。
あのような男をいまだに『父』と思い、一歳違いの病弱の兄と産まれてから満足に世話をしてもらえない弟を差別する『母』と、幼すぎる末弟を『役立たず』と言い捨てて面倒を見ようともしない『兄たち』を、いまだ『家族』と思っているアーウェンが憐れで、そして腹立たしい。
「……いっそのこと、すべての記憶を失くす薬でもないものかな?」
「それは禁忌中の禁忌ですよ、旦那様……」
やや呆れ顔で忠告する執事に対してもちろんと頷きながらも、伯爵の顔は何か企んでいるかのような顔を止めない。
「とりあえず男爵家の方には『アーウェン様を養子に出してもらった支援のひとつ』という名目で、『耳』の中でも情報に長けた者を下男及び家政婦として派遣しております。どちらも一応は通いということにしてありますが、『友人』や『家族』という名目で何人か交代で見張らせる予定ですが……」
「今のところはそれぐらいでいいだろう」
伯爵や執事が危惧するのは、アーウェンがこの家で幸せに暮らしていることを男爵が嗅ぎつけ、何某かの享受を得ようと無理やり接触しようとすることだ。
「どれくらいで『普通の子供』になるのだろうな……」
「さようでございますねぇ……まだまだ食が細い。ようやくお嬢様が召し上がる半分ほどですか……まだ流動食かかなり柔らかくしないと消化に差し支えるのですが、それでも量は増えております。身長については……何とも言えませんが、とにかく食事と共に運動によって筋肉を発達させることが大切だと……」
「『科学』とやらはやはり性に合わんな。かといって、魔術回路で無理に成長させることはできんし」
魔術によって国に貢献してきた歴史の弊害か、ラウドは最新の医療科学分野による見解に苦虫を潰したような表情を見せたが、魔力がほぼ無いに等しいアーウェンには適切だとわかっている。
「サウラスの名を名乗っているとはいえ、ターランドの血が多少は流れているに変わりはないのだが……キャステ家の方が直系に近いのか?」
「……さようでございますね……いえ、奥方の方は騎士を輩出できるほどの力量はなく、アーウェン様はどちらかというとターランドとキャステを合わせた魔剣士の流れに近いようでございますが……それにしては魔力の無さが著しい」
「どこかで呪いか、制御的な何かが成長を阻んでいると?」
それにつられて、アーウェンがまた泣き出す。
そしてリグレが困る──
「……いったいあれは何だ?」
「リグレ様がアーウェン様に元のご家族のことをお尋ねになりまして、それぞれ思うところがあったのではないかと」
「家族思いなのはいいが、理不尽に扱われていたことまで美化してしまうのはどうかと思うがな……」
ふたりきりでの散策のようにアーウェンには思えただろうが、リグレはもちろん護衛を兼ねた伯爵家の『耳』がそこかしこに潜んでいたのは知っている。
それらがいち早く執事に伝えたことを要約して伯爵の耳に入れると、ラウドは眉を顰めた。
「いずれ。心身ともに成長なされてから受け止められるようになるまで、否定されない方がよろしいかと。ご登城の際や商会へのご同行にはお気を付けください」
「そうだな……最後の別れ際もあまり気持ちの良いものではなかったが、あれを思い出させるようなことは避けたい」
叩き飛ばし気を失った息子を介抱するでもなく、伯爵の前でそんな失態を起こしたことを後悔するのではなく、ただ逃げるように捨て置いて伯爵邸を出たサウラス男爵。
あのような男をいまだに『父』と思い、一歳違いの病弱の兄と産まれてから満足に世話をしてもらえない弟を差別する『母』と、幼すぎる末弟を『役立たず』と言い捨てて面倒を見ようともしない『兄たち』を、いまだ『家族』と思っているアーウェンが憐れで、そして腹立たしい。
「……いっそのこと、すべての記憶を失くす薬でもないものかな?」
「それは禁忌中の禁忌ですよ、旦那様……」
やや呆れ顔で忠告する執事に対してもちろんと頷きながらも、伯爵の顔は何か企んでいるかのような顔を止めない。
「とりあえず男爵家の方には『アーウェン様を養子に出してもらった支援のひとつ』という名目で、『耳』の中でも情報に長けた者を下男及び家政婦として派遣しております。どちらも一応は通いということにしてありますが、『友人』や『家族』という名目で何人か交代で見張らせる予定ですが……」
「今のところはそれぐらいでいいだろう」
伯爵や執事が危惧するのは、アーウェンがこの家で幸せに暮らしていることを男爵が嗅ぎつけ、何某かの享受を得ようと無理やり接触しようとすることだ。
「どれくらいで『普通の子供』になるのだろうな……」
「さようでございますねぇ……まだまだ食が細い。ようやくお嬢様が召し上がる半分ほどですか……まだ流動食かかなり柔らかくしないと消化に差し支えるのですが、それでも量は増えております。身長については……何とも言えませんが、とにかく食事と共に運動によって筋肉を発達させることが大切だと……」
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「……さようでございますね……いえ、奥方の方は騎士を輩出できるほどの力量はなく、アーウェン様はどちらかというとターランドとキャステを合わせた魔剣士の流れに近いようでございますが……それにしては魔力の無さが著しい」
「どこかで呪いか、制御的な何かが成長を阻んでいると?」
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