その狂犬戦士はお義兄様ですが、何か?

行枝ローザ

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第一章 アーウェン幼少期

少年は受け入れられる ④

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「……じゃあ、アーウェンの男爵家元の家のことに関しては、父上に相談しよう。たぶんもう大丈夫だとは思うけどね」
「だいじょうぶ?」
キョトンとアーウェンが見上げると、リグレはなぜか強く彼方を見つめていた視線を和らげ、安心させるように柔らかく笑いかけてくれた。
「アーウェンを産んでくれたお父様とお母様のいるお家だもの。父上が悪いようにはしないよ。新しい家を用意するまではいかないまでも……きっともう少し過ごしやすいように配慮してくれていると思うよ?」
「はいりょ?」
「ああ……えぇっと……配慮、配慮……『考える』とか『気持ちを配る』とか……これも難しいか……『良くなるように計画してくれるかも』ってことかな?」
「よくなる…んですか?」
「たぶんね」
リグレが『自分では力不足』と感じた調査の中でも、どう読んでもちゃんと大人になるまで生きられるかどうか不安な生活だったし、もしそのまま大きくなったとしても、アーウェン自身が『自分は男爵の息子である』ということ自体を忘れさせられかねないとも思う。
そこまで頭のある親だったかはわからないが──乳幼児期にアーウェンを下男のように扱うことを不自然と思わなかったのだ──あり得ない話ではないかもしれない。
なのに──
「アーウェンは、お兄様のことが好きかい?」
リグレが尋ねたのは自分のことではなく──アーウェンと血の繋がった兄たちきょうだいのことだ。
「はいっ!」

長兄のロアンはずっと領地にいて、お嫁さんがいる。
産まれてからほぼ毎年、社交シーズンである春に数日だけ男爵に連れられて帰ったことがあるが、いつも良くしてくれた。
ただし兄はいつも忙しいと言ってあまり顔を合せず、代わりに村にいる警備を兼ねて滞在していたどこかの兵たちに短剣を握らせてもらって遊んでもらうことがほとんどだった。

次男のサウファーとミージャスはアーウェンが一歳と二歳の時に家を出てしまったから、めったに会えない。
一応は同じ部屋で寝起きをしていたはずだが、ミージャスに朝着替えをしてもらい、夜寝る前に着替えをさせてもらい──相手をしてもらった記憶はないが、たぶん優しかったのだと思う。

すぐ上のヒューデリクはいつもベッドにいたが、その部屋はとても素敵で、呼ばれるのが嬉しかった。
頼まれごとをして本や水を持っていくと、必ずこう言われる。
「さあ、早く台所へお行き。綺麗にしておくと母様が喜ぶから」
そうしておばさんのお手伝いや、ひとりの時に掃除や片付けをすると、兄様も母様も喜んでくれるのが嬉しかった──

「……そ、そうか」
リグレが聞く限り、アーウェンが両親どころか、兄たちを好きでいられる要素がまったくわからない。
どうして赤ん坊の頃から末弟を放置したり、こき使ったりすることができるのか──
「……好きでいようと、してたんだね……偉いね……頑張ったね……」
「あ…あの……?」
リグレはそう言って屈みこんでアーウェンと目線を合わせると、手を放す代わりにギュッと抱きしめた。
「兄様だよ。僕は、もう君の、唯一の『兄様』だよ」
「にい……?」
わけがわからない。

兄様は、兄様
義兄様は、義兄様
でも、にいさま
にいさま
私の、オレの、にいさま……

「にぃ~~~~~~~~………」
警備兵副隊長のルベラに驚いて大泣きした時とは違う、ぎゅっと胸とか胃を掴まれるような痛みを感じて、アーウェンはか細い泣き声をあげてリグレの肩に熱い雫をいくつも溢した。

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