その狂犬戦士はお義兄様ですが、何か?

行枝ローザ

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第一章 アーウェン幼少期

少年はみんなに癒される ③

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その後のアーウェンは、ルベラの言った通り大量の嫌な汗をかき、胃液まで吐き出すほど吐いて、視界がグルグルと回るような錯覚に陥ってうなされた。
なるべく起き上がらないようにと早々に服は脱がされ、濡れた手拭いで身体を拭われると、すぐ横に設置された清潔なシーツを敷いたベッドに移されて薄手の掛布を掛けられる。
そして目が覚めていなくても突然吐いてしまうのを危惧し、吐瀉物で窒息しないようにとすぐ処置する者も控え、素早くアーウェンに水分を与えるなど、ハラハラしながら見守る兵士たちが絶えない。
「……お前らなぁ」
とりあえず兵舎に急遽用意したアーウェンのための休憩室には、非番だったり休憩中の兵士が詰めかけて満員御礼状態なのを見て、ルベラは呆れ声をあげた。
その後ろには魔術師たちが控えており、やはり同じような表情をしている。
「……副総隊長殿。これではアーウェン殿を診察することも叶いません。まずは清潔なシーツを敷いた方のベッドにアーウェン殿を移していただき、部屋の空気を入れ替えるために窓を開け、胃の中から出た物は……捨ててはおりませんね?よろしい。それらはすべて研究室へ。大丈夫です。きちんと処理し、悪しき物がまた出されたかどうかを調べるだけです。さて……」
魔術師とは衛士や兵士と違って物静かな態度を崩さないと言われているが、実際はそう普通の人間と変わらない。
怒ったり笑ったり感動したり泣いたりするが、魔力が強いために興奮状態では魔術使用時の安定が危ういため、平常では自律しているだけなのだ。
だからそんな冷静さを保つ必要がなければ、普通に命令もするし怒鳴りもする。
もちろん部下の魔術師だって普通に動けば、走ったりもするから、魔術師長が命じるとおりに率先してアーウェンの吐しゃ物を運び出した。
その間にルベラの指示によってまたアーウェンの身体は清潔にされ、もう片方のベッドに横たえられる。
たった数時間だというのに、また筋肉が衰え、あばら骨が透けて見えるようなその細い身体に向けられるいくつもの視線は懸念だけでなく、アーウェンをこんな状態にした見えない何かに対する憤りが浮かんでいた。
「……これは。深い……」
ポツリと呟く魔術師長に強い視線が集まるが、それを気にも留めず、アーウェンの額に手を置いたまま魔術師長はルベラに顔を向けた。
「先日零されたあの黒い物は、アーウェン殿の心身に害を及ぼす種子のような物のようでした。おそらくそれらはこの小さな体に根を張っていたようですが、元が無くなったために少しずつ分解され、澱みとしてやっと体外に出てきたのでしょう」
「ならば!」
「問題は、この頭蓋の中にまだある物」
ルベラの目が見開かれる。
それは他の兵士たちも同様だ
「根を持たず、種を持たず、蔓のように伸び、アーウェンの頭蓋の中でなぜか寄生し続ける悪しき物。それを取り除かねば……また、いつかアーウェン殿は『元の場所に戻らねば』と行動されるやもしれない」
「……総隊長殿をお呼びしろ」
ギリッと歯ぎしりをすると、ルベラは低く唸った。
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