その狂犬戦士はお義兄様ですが、何か?

行枝ローザ

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第一章 アーウェン幼少期

少年はみんなに癒される ②

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 そのわずかな痛みはほんの一瞬で消えてしまったため、アーウェンの不調に気がついた者はいなかったかもしれない。
アーウェン自身もサウラス家で生まれた時からずっと両親に顧みられず、高熱を出して死にかけた時以外は家政婦にすら自分の不調を訴えることもできなかったため、「具合が悪い」などと言ってはいけないと思い込んで、伯爵家でも口を噤んでしまっていた。

なのに───

「アーウェン坊ちゃん?もしかして、体調が悪いんじゃないんですか?」
大きな体をかがめて小さな背丈に目線を合わせ、アーウェンの顔を覗き込みながらそう訊くのは、他でもないターランド伯爵家警備隊副総隊長のルベラだった。
「………ふぇ?」
少し吐き気はするけれど、少し頭がズキズキするけれど、少し目がチカチカするけれど、少し体が重たい気はするけれど、動いていれば忘れるから──きっと。
そう思って、目が覚めた時から傍にいたロフェナにもカラにも何も言わなかった。
「……熱はないみたい、ですね」
「……うん」
むしろ額に当てられた大きな手のひらが温かくて気持ちいいくらいだ。

なのに──

ルベラはムッと眉を顰め、まだ運動する前なのにさっさとアーウェンを抱き上げて、兵舎に戻りながら周りの部下たちへいつも通りの早朝鍛錬を始めるようにと指示をする。
「オ……オレ…も……」
「ダメです」
ルベラの信頼できる腕は落とされる心配がないほどしっかり小さな身体を包み込んでいたが、妙に頭がグラグラしてアーウェンは嫌な汗をかき始めていた。
「何か滞りがあるんですかね?妙に身体が冷たい。私は魔力が本当に無いんで、坊ちゃんのどこがどう悪いのか、どうしたらすぐ良くできるのかがわかりません。その代わり、魔術師様とかが魔力でわかっちまうことを観察することで補っているんです。たぶん吐いたり汗をかいたり、気持ち悪くなると思います」
「……っや………」
「はい。嫌ですね。でもね、坊ちゃん?そうやって今まで体にため込んで飲み込んできたもの、今日は全部吐いちゃってくださいね?汚いものが出てくるけど、怖がんなくていいんですよ。ここにいる奴らはみんな気持ち悪いもん吐いて、どんどん強くなりましたから」
「……んと………?」
「はい。ほんとですよ。お世話する者も、ちゃんと坊ちゃんの世話も始末もしてくれますから。恥ずかしいなんて、遠慮しなくていいんです。坊ちゃんがもっと食べて大きくなったら、伯爵家警備兵の一員としてちゃんと鍛えますから。ワッショイワッショイってしたでしょう?もうあの時から、坊ちゃんはちゃんと私たちの仲間ですから。今日は休みましょう?」
「………ハイ」
「いい返事です。成長する速さは人それぞれってもんです。身の丈に合わない頑張りをしなきゃいけない時もありますが、それは今日じゃあないですから」
「………」
低く語り掛ける声は気持ち悪いだけだった揺れの違和感を緩和してくれ、アーウェンはいつの間にか眠ってしまった。
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