その狂犬戦士はお義兄様ですが、何か?

行枝ローザ

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第一章 アーウェン幼少期

伯爵家は才能ある者に溢れる ②

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アーウェンの体調の回復は、カラとエレノアの合作スープで目覚ましいものだった。
アーウェンの耳の穴からボロボロとした黒い屑が零れ落ちてきた時は、また不調に陥るかと傍にいた者たちが皆構えたが、そのような心配は杞憂に終わった。
「……あの……なんか、耳の奥がもぞもぞするんですけど……」
もぞもぞどころか、変にゴワゴワという異音も響き、むしろアーウェンはその音と感触の方に気持ち悪さを感じてしまう。
アーウェンにそう訴えられた魔術師長が調べてみると、それはおそらくアーウェンの頭蓋の中に蔓延っていた蔓で間違いないとわかった。
しかし内耳から奥に残る物を無理やり引きずり出すわけにはいかず、外耳部分に出てきた分だけではあるが、魔術でなるべく吸引する方法で取り除いていく。
そう治療してもらう三日間は本邸に戻れず、また寝たきりに近い状態のアーウェンのあまり発達していない筋肉はたちまち痩せ細ってしまい、自室に戻るにも抱きかかえられて移動した。
「……許さん」
ユラユラと揺られるその腕は、何度も抱っこされたり持ち上げられたりしているルベラの腕よりも細かったが、意識朦朧としたままのアーウェンにはそれが誰だかわからなかったが──絶対的に信頼していい人だということだけは理解して、そのまま眠ってしまった。

「……どうしてこのような」
アーウェンの体内から排出されたものすべてが調べ尽くされ、様々な文献や伝書を広げられた研究所内は悲惨な有様だった。
伯爵本邸のメイドが片付けに入ろうとしても分類がわからず、国家機密にもあたりかねない文言が書き連ねられている紙を触ることなど貴族籍もない使用人にとっては剣呑でしかないから、結局誰も触れない。
たとえ後方支援でも戦となれば、本邸のように清潔で整頓された環境など望めないのはわかってはいても、王都本邸の敷地内にある建物がこのような有様にあるなど、ラウドの専属執事としても家令としてもバラットにとっては許容できるものではない。
「確かにこの場所は、魔術師長を始めとした魔術師様たちに『ご自由にお使いください』と作られたものではありますが……ご自分たちでお片付けになられないのならば、第六部隊をお使いいただいてよろしいので、分類をなさってください!後々、伯爵邸内の図書室にも資料を修めさせていただきますので!」
「………はい」
バラットの圧の強さに魔術師たちは頷き、ようやく調べた結果を順序だてて整理するだけのスペースができた。
その際に役に立ったのは、もちろん魔術師たちの手伝いにと駆り出された第六部隊の面々ではあったが、それ以外にもパーラーメイドである十六歳のクレシュというエファーノス子爵家から来た行儀見習いの少女の活躍が目覚ましかった。
元々魔力が少ない文官であり、王都以外に領地を持たない宮廷貴族であるため後ろ盾がないも同然であるエファーノス子爵家ではあったが、友好のため隣国の伯爵家の三女を迎えたところ、なぜか高魔力持ちの娘が産まれてしまったのである。
他の兄弟は父と同じ文官を目指していたが、異物ともいえる妹に対して家庭内はあまり居心地の良い場所ではなかったらしく、寄宿寮から帰省することも極力避けて勉学に励んだ後、王都貴族学院の中等部の後は高等部に進まず、卒部式の終わったその足でターランド伯爵家に向かうとその門を叩いたのだ。
資質から言えば魔術研究所に所属してもおかしくはなかったのだが、大学部での修学歴がないことがあだとなり、約一年間こうしてメイドとして働いていたのだが──
「……まさか、このような逸材が貴族邸で埋もれていようとは」
魔術師長はそう呟くと、何やら考え込み始めた。
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