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第一章 アーウェン幼少期
伯爵は義息子の安全を優先する ⑤
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とにかくアーウェンの身に危険が及ぶことを防ぐのが先決ということで、魔術師長が提案した『王都中の案内屋に案内させながら、王都中の全住民の居住を確認する』という作業は、王都勤務の警護兵や近衛兵によって行われた。
困ったのはそこに住んでいる者の主人以外の名前の綴りや年齢がわからないぐらいで、家名がある者ならば問題はなくとも、『アンビーさん家の二番目の息子の家』とか『テラが留守番している家』のように曖昧で、教える方も綴りがわからないことだった。
「……生活に困窮すれば教会で洗礼を受けることもままならず、産婆と共に地区の司教見習いや修道女がやってきて、『子供が生まれた』という記録だけ取って帰るそうです。その際に男か女かぐらいの記載はありますが、後々名前まで届け出てくる者は少ないようです。結婚や死亡などで教会に来ることはあるみたいですが、住居を移動する前後に籍を移す必要があることを知らない者も多い」
「はぁ~……」
バラットの報告にラウドが頭を抱える。
実は同じような報告を受けた国王や宰相たちも同じポーズをしていたことは知らないが、まさしく国をまとめる者たちにとっては頭の痛い現状であるという認識だ。
「それでか……」
ラウド自身は魔術師長と協力することがあるという理由をつけて、このところ王宮にあがっていない。
そのためか王宮の議会で、ラウドが王に申請して纏め始めた庶民の居住確認であぶり出された問題について、喧々諤々の議論が交わされていたことを知らない。
そして、その件についてどうやって識字知識のない者たちに届出を徹底させるのかが問題で、どうにか解決せよという無茶ぶりに近い書状が届いたのである。
「まったく……これについては文官の方で考えろと返そう。教会と繋がりが強いのはあちらだ。武官の仕事ではない」
確かに脳筋と体力自慢の武官より、魔力や魔術に優れ研究も行っている上に伯爵邸の敷地内で独自に警護兵として訓練を欠かさないターランド伯爵警護兵は、文武両道と見られてもしょうがないのかもしれない。
しかしその内容はとても文官に及ぶものではなく、『後方支援兵法として役に立つかどうか』という戦いと防御を見据えたものに偏っている。
つまり文官からは『武官のくせに自分たちの分野を犯して』と、見当違いに腹を立てて逆恨み気味に仕事を押しつけようとする魂胆が底にあるとラウドは理解していた。
「ターランドの者が動くのは、我が家族のためだ。王家が解決しなければならない国民の籍は、管理すべき部門がちゃんと整理し、次代に継げるように纏めるべきだろう。思いついたのが私やバラットや魔術師長だったのはたまたまアーウェンやカラという守るべき人間が我らの内にあったためだ」
「はい。では、そのことを王宮向けのお言葉で纏められましたら、すぐに伝令に持たせて参上させます」
「……だよな。私が書かなければ……魔術師長殿に自動手記魔導器を貸していただけないものか……」
「あれは口頭で言われたことをそのまま記すものですから、正式な文書に使えないのはご承知でしょうに。旦那様の手でなければいくら国王陛下といえど、一瞥にも値しないと捨てられてしまうだけですよ」
呆れを含めた笑みを浮かべながら、バラットは公式文書を認めるためのターランド伯爵家紋章入りの便せんと特殊なインク、封緘などを収めた盆を、ラウドの前に置いた。
困ったのはそこに住んでいる者の主人以外の名前の綴りや年齢がわからないぐらいで、家名がある者ならば問題はなくとも、『アンビーさん家の二番目の息子の家』とか『テラが留守番している家』のように曖昧で、教える方も綴りがわからないことだった。
「……生活に困窮すれば教会で洗礼を受けることもままならず、産婆と共に地区の司教見習いや修道女がやってきて、『子供が生まれた』という記録だけ取って帰るそうです。その際に男か女かぐらいの記載はありますが、後々名前まで届け出てくる者は少ないようです。結婚や死亡などで教会に来ることはあるみたいですが、住居を移動する前後に籍を移す必要があることを知らない者も多い」
「はぁ~……」
バラットの報告にラウドが頭を抱える。
実は同じような報告を受けた国王や宰相たちも同じポーズをしていたことは知らないが、まさしく国をまとめる者たちにとっては頭の痛い現状であるという認識だ。
「それでか……」
ラウド自身は魔術師長と協力することがあるという理由をつけて、このところ王宮にあがっていない。
そのためか王宮の議会で、ラウドが王に申請して纏め始めた庶民の居住確認であぶり出された問題について、喧々諤々の議論が交わされていたことを知らない。
そして、その件についてどうやって識字知識のない者たちに届出を徹底させるのかが問題で、どうにか解決せよという無茶ぶりに近い書状が届いたのである。
「まったく……これについては文官の方で考えろと返そう。教会と繋がりが強いのはあちらだ。武官の仕事ではない」
確かに脳筋と体力自慢の武官より、魔力や魔術に優れ研究も行っている上に伯爵邸の敷地内で独自に警護兵として訓練を欠かさないターランド伯爵警護兵は、文武両道と見られてもしょうがないのかもしれない。
しかしその内容はとても文官に及ぶものではなく、『後方支援兵法として役に立つかどうか』という戦いと防御を見据えたものに偏っている。
つまり文官からは『武官のくせに自分たちの分野を犯して』と、見当違いに腹を立てて逆恨み気味に仕事を押しつけようとする魂胆が底にあるとラウドは理解していた。
「ターランドの者が動くのは、我が家族のためだ。王家が解決しなければならない国民の籍は、管理すべき部門がちゃんと整理し、次代に継げるように纏めるべきだろう。思いついたのが私やバラットや魔術師長だったのはたまたまアーウェンやカラという守るべき人間が我らの内にあったためだ」
「はい。では、そのことを王宮向けのお言葉で纏められましたら、すぐに伝令に持たせて参上させます」
「……だよな。私が書かなければ……魔術師長殿に自動手記魔導器を貸していただけないものか……」
「あれは口頭で言われたことをそのまま記すものですから、正式な文書に使えないのはご承知でしょうに。旦那様の手でなければいくら国王陛下といえど、一瞥にも値しないと捨てられてしまうだけですよ」
呆れを含めた笑みを浮かべながら、バラットは公式文書を認めるためのターランド伯爵家紋章入りの便せんと特殊なインク、封緘などを収めた盆を、ラウドの前に置いた。
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