その狂犬戦士はお義兄様ですが、何か?

行枝ローザ

文字の大きさ
121 / 436
第一章 アーウェン幼少期

少年は思い出した過去を語る ②

しおりを挟む
実の長兄のことを『若旦那様』と呼ぶ違和感を伝えようもなく、ラウドもロフェナもそこを指摘することなく、アーウェンに語らせる。
「森は…きれいだったけど……動物たちはみんなやさしくて、でも大人の人たちがみんな、僕を『遊ぶ』ように、その子たちも……あれ……?」

怖い、辛い、痛い、悲しい。

まだ言葉にできないその感情の代わりに、静かにアーウェンは涙を流す。

悲しいよぅ。
切らないでよぅ。
やめてよぅ。

赤ん坊だったアーウェンはきっと、そう叫びたかったに違いない。
だが一方的に命令だけされ、『会話』を習うことなく育ってしまった小さい子。
言葉を知らなければ、拒否も懇願もできなかっただろう。

「きっともう……『まじょさん』は僕のことなんか覚えていないと思うけど……僕は、忘れなくて…いいんですね……」
「ああ……もちろんだ。きっとそのかたも、アーウェンのことを忘れてはいないはずだ。アーウェンを『自分の子供』にしたのならば」
実際は報告書にその後の村での男爵当主代理夫妻のことは書かれていた。
父の代から──ひょっとするともっと以前から続いている『当主による接待』の内容を知ったティーニアが苦言を呈したため、ふたりの仲はあまり良好とは言えない。
子供が出来ないことも原因の一端ではあるが、それは妻側の問題だけでなく、従順に父から受け継いだ『役目』を果たすために義務的に服用している丸薬のせいらしいともあった。
「そういえば、ルアン伯爵夫人がアーウェン様のために、町の土産物をお持ちくださいましたよ。何でも『安眠のおまじない』と言われている物だとか」
そう言ってロフェナが猫ほどの大きさの包みをアーウェンの膝に置く。
「……あけて、いいの?」
「開けなければ、中身を見れないだろう?それは『アーウェンの物』だ。見ていいんだよ」
戸惑うアーウェンにラウドはそう言ったが、ターランド伯爵家に引き取ってからというもの、様々な『アーウェンの物』が与えられてきたことを認識していないのだろうか?
「……旦那様。アーウェン様が何度もお嬢様の物だと言い張られて……お着物もお履き物もすべて、包まれた物はすべて……そして『玩具』にも興味をあまり示されず、エレノア様の物だと思われてしまいまして……」
何度説明してもダメだった。
綺麗に包まれたそれらは『自分の物』ではないという強固な思い込みは、サウラス男爵家にいる時に植えつけられたものだろう。
そのような物が届くことなどはあまり無かったが、時折次男や三男が送ってくれる包みや、男爵自身が買ってきた物はアーウェンに見せられても触らせてもらえず、すぐ上の兄のための物だと持っていかれたのだから。
だから『綺麗に包まれた何か』は自分の物ではなく──『ターランド伯爵家で一番可愛がられている者』であるエレノアの物だと思い込んで、どうしても訂正を聞き入れてはもらえなかった。
仕方無くロフェナやカラが包みを解いてアーウェンの衣裳部屋にこっそり仕舞うようになってからはそういったことはなくなったが、玩具に関してはどうやって遊べばいいのかもわからず、『使い方を知っているエレノアの物』という認識で、子供たち共有のサロンに置くことがようやくの妥協点だったのである。
しおりを挟む
感想 22

あなたにおすすめの小説

『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道
ファンタジー
 気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。  この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。  俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。  オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。  腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。  俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。  こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。 12/23 HOT男性向け1位

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

「お前は無能だ」と追放した勇者パーティ、俺が抜けた3秒後に全滅したらしい

夏見ナイ
ファンタジー
【荷物持ち】のアッシュは、勇者パーティで「無能」と罵られ、ダンジョン攻略の直前に追放されてしまう。だが彼がいなくなった3秒後、勇者パーティは罠と奇襲で一瞬にして全滅した。 彼らは知らなかったのだ。アッシュのスキル【運命肩代わり】が、パーティに降りかかる全ての不運や即死攻撃を、彼の些細なドジに変換して無効化していたことを。 そんなこととは露知らず、念願の自由を手にしたアッシュは辺境の村で穏やかなスローライフを開始。心優しいエルフやドワーフの仲間にも恵まれ、幸せな日々を送る。 しかし、勇者を失った王国に魔族と内通する宰相の陰謀が迫る。大切な居場所を守るため、無能と蔑まれた男は、その規格外の“幸運”で理不尽な運命に立ち向かう!

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

世界最強の公爵様は娘が可愛くて仕方ない

猫乃真鶴
ファンタジー
トゥイリアース王国の筆頭公爵家、ヴァーミリオン。その現当主アルベルト・ヴァーミリオンは、王宮のみならず王都ミリールにおいても名の通った人物であった。 まずその美貌。女性のみならず男性であっても、一目見ただけで誰もが目を奪われる。あと、公爵家だけあってお金持ちだ。王家始まって以来の最高の魔法使いなんて呼び名もある。実際、王国中の魔導士を集めても彼に敵う者は存在しなかった。 ただし、彼は持った全ての力を愛娘リリアンの為にしか使わない。 財力も、魔力も、顔の良さも、権力も。 なぜなら彼は、娘命の、究極の娘馬鹿だからだ。 ※このお話は、日常系のギャグです。 ※小説家になろう様にも掲載しています。 ※2024年5月 タイトルとあらすじを変更しました。

異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。

もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。 異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。 ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。 残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、 同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、 追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、 清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……

〈完結〉この女を家に入れたことが父にとっての致命傷でした。

江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」アリサは父の後妻の言葉により、家を追い出されることとなる。 だがそれは待ち望んでいた日がやってきたでもあった。横領の罪で連座蟄居されられていた祖父の復活する日だった。 十年前、八歳の時からアリサは父と後妻により使用人として扱われてきた。 ところが自分の代わりに可愛がられてきたはずの異母妹ミュゼットまでもが、義母によって使用人に落とされてしまった。義母は自分の周囲に年頃の女が居ること自体が気に食わなかったのだ。 元々それぞれ自体は仲が悪い訳ではなかった二人は、お互い使用人の立場で二年間共に過ごすが、ミュゼットへの義母の仕打ちの酷さに、アリサは彼女を乳母のもとへ逃がす。 そして更に二年、とうとうその日が来た…… 

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

処理中です...