その狂犬戦士はお義兄様ですが、何か?

行枝ローザ

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第一章 アーウェン幼少期

少年は『教師』を得る ④

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伯爵家の娘との縁ではなく、令息の家庭教師──わずかの間にガッカリもしたが、自分の息子の才能というか頭脳が生かせる仕事を与えられると理解すると、ヴィーシャムの手をガッシリと握って哀願するように話し出した。
「ほ…本当にっ?!あ、あの子の……あの子に、仕事を……?連れて行って……くれるんですかっ?」
「えっ、ええ、もちろん。もちろん通いでなんて無理ですから、ちゃんと住むところも提供しますわ。永久にというわけではなく、義息子が他領へ見習い騎士として出てしまう前の二年間、しっかりと少等から中等までの教育を施してほしいの。時間があまり無いので、ここを発つときから同行してもらいたいのだけれど……可能かしら?」
「い…いつ、お発ちに……?」
「早ければ、明日よ」
「あ、した……」
無理は承知であるから給金など待遇の面ではかなり譲歩しようと、ラウドもヴィーシャムも語らずとも理解しており、後は親子間や教えているという生徒宅への理解などの問題だけである。
だが、母親が心配していたのはそこではなかった。
「……でも、いいんでしょうか?」
「何がでしょう?大学部の勉強であれば、こちらでも続けられるように手配しますわ」
「えっ……いっ……いぃえ……あ、あの子は……『異能持ち』なんですけど……そんなのでも、いいんでしょうか?」

異能持ち──平たく言えば、ラウドやヴィーシャムと同じように魔力を持って発現させられる人間である。
貴族であれば魔力が多少でもあれば魔術研究所かターランド伯爵に渡りをつけて、魔術師や後方援護の警護兵になれるが、平民ではそうはいかない。
魔力は単純に『筋力や体力とは違うもうひとつの能力』なのだが、それがどの系統でどれだけ使えるのかがわからなければ、畏怖と忌避の対象となりうる。
ましてや何代目になろうともウェルエスト王国とかつて戦争をしていた敵国であるガブス共和国出身者との混血──自国民の誇りが強すぎる人間の中では、かなり疎まれていたのかもしれない。
「ふむ……そんなことを言ってしまえば、この店にいる私を含めた全員がいわゆる『異能持ち』ということになるな。ターランド伯爵家は一族のほとんどが魔力持ちで、王家に対してはこの力を持って仕えているのだ」
ラウドがにっこりと笑って手のひらからパラパラと雪を降らせてみせる。
空気中の水分を極限まで冷やして発現したものだが、店主の妻はあんぐりと口を開けた。
「うふふ……私も氷の魔力があるし、娘は癒しの力が強いわ。従者や護衛たちも何らかの魔力を持っています。私たちの中では『何かわからないけれど、魔力を持っている』という人は異常ではなく、普通のこと。このアーウェンもまだ何の能力に特化しているのかわからないけれど、それを調べることも私たちの領では簡単に行えるわ」
「じゃっ……じゃぁ…じゃぁ……あ、あの子っ……う、うちの息子っ……怖がる人……いない、んですかっ……?」
「むしろお嫁さん候補が次々と現れるんじゃないかしら?ねぇ、あなた?」
「ふふ……そうだな。我が領の若い男はなかなか身が軽くて、すぐ私の遠征などに付いてきてしまう。むしろ領都でしっかりと勉強を教えたり、自分に合った魔力の使い方を研究してくれる者がずっといてくれるならという女性もいるな」
心当たりがあるのか複数の男たちが気まずげながら頷くのを見回し、店主の妻は突然号泣した。

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