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第一章 アーウェン幼少期
伯爵は素晴らしい料理人を手に入れる ①
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店内の騒ぎに気が付いたらしい厨房から、今度は家族画の左端に描かれていた男性が飛び出してきた。
「どっ、どうした?!パージェ!何かされたのか?!うちのやつに手ぇ出すなんて、客だろうとただじゃおかねぇぞ!」
「ち、違うの!違うのよぉ!あんたぁっ!!」
鼻息荒く狭い店内を三歩ほどでドシドシと近付いてきたその男を見て、王都の警護兵たちを見ても動じないエレノアが怯えて、パージェと呼ばれた店主の妻よりも大きな声で泣き出してしまった。
まさか子供がいると思わなかったのか、店主が慌てて泣き声の主を見て狼狽える。
更にラウドの横でも痩せた少年が棒のように固まっているのを見て、先ほどの勢いはどこへやったのかと思うほどオロオロとし、今では泣くよりも腹を立てているらしい店主の妻がバシバシと店主の背中を叩いた。
「違うんだって!この早とちり!!この人たちはねぇ、皆さん異能持ちなんだって!!クレファーを一緒に連れて行ってくれて、仕事と住む所もくれるって!」
「な、何だってぇっ?!」
呆然とラウドを見、次いでエレノアを護るようにそっと身体をずらしたヴィーシャムを見、それから順繰りに別々のテーブルに座る従者や護衛たちを見まわすと、店主はへなへなと床に座り込んだ。
「ほ…本当、か……?本当に、あいつを……?」
「そう…そうなんだよ……本当に……ああ、シェイラも異能持ちなら、一緒に連れてってほしいぐらいさ……」
「シェイラというのは、あの娘さん?」
チラリとヴィーシャムは厨房へ視線を飛ばしたけれど、パージェは壁の画の方に顔を向けた。
「ええ。自慢の娘ですよ……息子と違って異能はないけど、料理が上手くって。うちの人の助手をやってるんです。今は買い物に出てるけど。ああ、あの子もこの市から連れ出してもらえたらねぇ……」
どうやら先ほどラウドに迫っていた店員ではなく、家族画に描かれている少女のことを言っているのだと理解し、ヴィーシャムは強張らせていた目付きと頬をすこし緩める。
「連れ出す、とは?」
今度はラウドが質問の手綱を取ると、店主と妻は顔を合わせ、何かを決意したように揃ってラウドに頭を下げた。
「お、お願いがあります!先ほどの非礼はお詫びします!!どうか…どうか娘もご一行に加えてはいただけませんかっ?!」
「お願いします、旦那様!」
「……訳を聞きたい。理由如何によっては、この店まるごとあなたたちごと買い取り、我が領へ移築したいと思うが……」
「わ…私ら、まで……?」
まだ深い話をしたわけでもないのに、この一家を引き取ることがラウドの中ではすでに決定事項であることは、店主夫妻と子供たち以外は皆察ししてしまい、皆生ぬるい笑顔を浮かべてその事情に聞き耳を立てた。
「どっ、どうした?!パージェ!何かされたのか?!うちのやつに手ぇ出すなんて、客だろうとただじゃおかねぇぞ!」
「ち、違うの!違うのよぉ!あんたぁっ!!」
鼻息荒く狭い店内を三歩ほどでドシドシと近付いてきたその男を見て、王都の警護兵たちを見ても動じないエレノアが怯えて、パージェと呼ばれた店主の妻よりも大きな声で泣き出してしまった。
まさか子供がいると思わなかったのか、店主が慌てて泣き声の主を見て狼狽える。
更にラウドの横でも痩せた少年が棒のように固まっているのを見て、先ほどの勢いはどこへやったのかと思うほどオロオロとし、今では泣くよりも腹を立てているらしい店主の妻がバシバシと店主の背中を叩いた。
「違うんだって!この早とちり!!この人たちはねぇ、皆さん異能持ちなんだって!!クレファーを一緒に連れて行ってくれて、仕事と住む所もくれるって!」
「な、何だってぇっ?!」
呆然とラウドを見、次いでエレノアを護るようにそっと身体をずらしたヴィーシャムを見、それから順繰りに別々のテーブルに座る従者や護衛たちを見まわすと、店主はへなへなと床に座り込んだ。
「ほ…本当、か……?本当に、あいつを……?」
「そう…そうなんだよ……本当に……ああ、シェイラも異能持ちなら、一緒に連れてってほしいぐらいさ……」
「シェイラというのは、あの娘さん?」
チラリとヴィーシャムは厨房へ視線を飛ばしたけれど、パージェは壁の画の方に顔を向けた。
「ええ。自慢の娘ですよ……息子と違って異能はないけど、料理が上手くって。うちの人の助手をやってるんです。今は買い物に出てるけど。ああ、あの子もこの市から連れ出してもらえたらねぇ……」
どうやら先ほどラウドに迫っていた店員ではなく、家族画に描かれている少女のことを言っているのだと理解し、ヴィーシャムは強張らせていた目付きと頬をすこし緩める。
「連れ出す、とは?」
今度はラウドが質問の手綱を取ると、店主と妻は顔を合わせ、何かを決意したように揃ってラウドに頭を下げた。
「お、お願いがあります!先ほどの非礼はお詫びします!!どうか…どうか娘もご一行に加えてはいただけませんかっ?!」
「お願いします、旦那様!」
「……訳を聞きたい。理由如何によっては、この店まるごとあなたたちごと買い取り、我が領へ移築したいと思うが……」
「わ…私ら、まで……?」
まだ深い話をしたわけでもないのに、この一家を引き取ることがラウドの中ではすでに決定事項であることは、店主夫妻と子供たち以外は皆察ししてしまい、皆生ぬるい笑顔を浮かべてその事情に聞き耳を立てた。
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