その狂犬戦士はお義兄様ですが、何か?

行枝ローザ

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第一章 アーウェン幼少期

子爵令息は格の違いを見せつける ③

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「驚かせて申し訳ありません……あの、給仕の女性は……?」
ロフェナは怪我ひとつなく、皿を持って厨房から出てきた店主に近付いて一礼する。
「へっ?……あ、何だかやたらと慌てた様子で、さっき裏口の方から出て行って……だ、大丈夫ですか?」
「ええ、私は。すみません……ひょっとしたら、憲兵でも呼びに行ったのかもしれませんね」
「あっ……それはもう慣れてるんで……」
そう言いかけた時、まさしく市憲兵がバンッと叩きつけるように店の扉を開けた。
「おいっ!!今この店で喧嘩をしているとっ……訴え……が……」
勢いよく飛び込んできたのはいいものの、高位貴族らしき夫妻と子供たち、従者に護衛たち──それらの他に市民といえば店主だけで、しかも手には可愛らしいラッピングを施した袋と、平皿に綺麗に盛りつけられた羊肉のローストがまだ湯気を上げている。
どう見ても喧嘩で悲惨な状態ではない。
「……こっ、これは……?」
「ねぇっ!ちょっと!大丈夫なの?!あの人はっ!!」
大男たちが立ちふさがっているせいで店に入れずにいた女店員が叫び、わずかに開けてもらった隙間から店に戻ってきた。
「ねぇっ!市長の息子に手を出したらただじゃ……って……え?!」
女店員は目を丸くする。
ロフェナひとりであればドラン・アガス・ヒューマットがどうにでもするだろうし、何だったら全員で袋叩きにでもすればいいと思うが、店の中にいたのは丸腰の者だけでなく、しかも全員が騎士か何かのようだった。
彼女には爵位の上下などよりも市民として『市議会の人間』が公爵の次に偉いぐらいの認識しかなく、店に来た客全員が市長の息子たちに怪我をさせれば、簡単に憲兵に引っ張っていってもらえるぐらいの気持ちで呼びに行ったのである。
「市長の息子さんですか?先ほどお帰りいただきましたが?会わなかったのですか?」
冷ややかにロフェナが話しかけるが、憲兵たちは皆顔を合わせているだけだ。
実際は簡単にロフェナにのされてしまったことと、その巨体をぶん投げられたことで全員が戦意喪失し、その姿を見られないようにと憲兵たちの目から逃れるように路地に隠れてしまっていた。
「確かに少し騒がしい人たちは来ましたが……私たちはまだ食事中です。何か聞きたいことがあれば後ほどでもよろしいでしょうか?」
「あっ……は、はい……」
そしてこの憲兵たちのリーダーらしき者にロフェナがそっと自分の主人がキンフェニー公爵と面識のあるターランド伯爵であることを囁くと、さすがにこちらは話が通じ、しかも領地へ戻る途中にこの市に立ち寄っただけと知ると、咳払いをして敬礼した。
「お休み中、大変失礼いたしました!ご滞在中つつがなくお過ごしになれますよう、私どもも尽力いたします!」
「ご協力感謝いたします。我が主もぜひこの市の素晴らしさをお子様たちに見せたいとのことですので、ぜひお願いいたします」
「ハッ!失礼します!!」
そう言うと、サッと一枚の紙を差し出してきた。
「これは……?」
「ハッ!これは月に二度、市議会場前の広場で憲兵の交代式が行われるのですが、ちょうど今日の午後からなのです。よろしければ、ご見学ください!」
憲兵たちの中にもターランド伯爵家の警護兵のことを知る者は多いため、来るとわかれば張り切る者もいるだろう。
ラウドはロフェナからその紙を受け取ると、無言ではあったが柔らかい顔で軽く頷いた。

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